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建築設計におけるコンピューテーショナル・デザインの技法と応用
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第3回:2D展開できない立体造形物の作り方 ー 編み物を例として

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第3回:2D展開できない立体造形物の作り方 ー 編み物を例として

Who We Are

2007年に設立。現在、豊田啓介、蔡佳萱、酒井康介の3名のパートナーを中心に、国籍もバックグラウンドもさまざまなメンバーが集まり、東京・台北の二拠点で活動する建築デザイン事務所です。
ここでは全6回のコラムを通して、私たちが普段、実務の場で多用している、Rhinocerosと、ヴィジュアルプログラミングツールのGrasshopperを中心に、<シミュレーション、ファブリケーション、ビュジュアライゼーション、タイリング>など、建築を主軸にプロダクトデザインから都市開発までさまざまな規模や分野において応用可能なコンピューテーショナル・デザインの技法をプロジェクト実例を交えつつ紹介します。

デジタルデザインをどう出力するか?

連載コラム第3回目は、「2D展開できない立体造形物の作り方 / 編み物を例として」と題したテーマで、コンピュータ(Rhinoceros+Grasshopper)で生成した3Dオブジェクトの出力方法に関するリサーチ事例と、リサーチから見えてきたファブリケーションに関する考察を紹介します。

昨今、デジタルデザインを実現するツールとして、レーザーカッターやCNCルーター、3Dプリンタなどのデジタルファブリケーション・ツール(以下、デジファブ・ツール)が一般化し、専門的な技術が無くても手軽に複雑な形状の出力ができるようになりました。一方で、デジファブ・ツールには出力する材の大きさの制約や、出力中に起きたエラーを修正できないといった弱点もまだまだ山積しています。例えば組み立てのためのラベリングとその部材の整理が煩雑になる、部材同士の寸法差が微差であり部材の個体認識がしづらい傾向があるといった難点があります。

そこでデジファブ・ツールに頼ることなく、あえて原始的な方法で複雑なデジタルデザインを出力するためのリサーチの一例としてnoizは「編み物」に着目し、『Algorithm Knitting Project』と称したファブリケーションリサーチをまとめました。

編み物独自のノーテーション/2D展開できない3Dオブジェクト

建築を作るうえで設計図が必要であるように、編み物では通常、「編み図」という図を使用します。「編み図」には独特の表現で編み物の完成形が記述されており、初心者にはこの編み図から完成形を読み取ることがたやすくはありません。一方で、造形物を複雑にすればするほど編み図の記述は実態以上に複雑になります。それは2D展開できない3Dオブジェクトを無理やり平面で表現しようとするところに原因があるのではないでしょうか。このことを背景に、初心者にも分かりやすく、造形物の最終型をイメージしつつ編み進められる、立体を立体のまま表現する「3D編み図生成ガイドアプリケーション」の制作を試みました。

編みぐるみの編み図の例
編みぐるみの編み図の例 ©noiz
編みぐるみの基本形:球
編みぐるみの基本形:球 ©noiz

編み物の手法のなかでも、立体的な造形を編むのに適した「鍵編み」で作られる「編みぐるみ」を例にあげます。編みぐるみは極端に単純化すると、立体を等高線状に分割した「行」と、行と行を接続させる「列」にあたるコネクションライン(一般的に網目と認知されている箇所)の2要素で構成されています。

編み始めに基本ユニットとなる基準「リング」を作り、そこから同心円状に網目を増やすことで球体を形作っていくのが、基本の方針です。テディベアや人形は、大小の球体を組み合わせ、つなぎ合わせることでそのデフォルメされた可愛らしい造形物を出力します。一方で、凹凸のあるサーフェス、例えば複数の球体がシームレスに繋がったメタボールのような造形物を作るときには、くびれの度合いによって目の増減の変化率が異なります。このため、二次元の編み図で解くことが一気に難しくなります。そこで、三次元のまま編み図を生成する方が読み取る側も理解しやすく、ややこしい記述方法も必要なくなるのではないかと考えました。

では、3D編み物ガイドツールはどのように立体編み図を作り出すのでしょうか。Rhinoceros+Grasshopper上で立体編み図を生成するアルゴリズムの途中段階で細かなデータ整理を行うフェーズがいくつか存在しますが、細かい判定の過程は省略し、大きな流れをピックアップします。

3D編み図生成の基本方針

① “編みぐるみたい”3D MeshモデルをRhinocerosに入力する(★-1)
② Mesh上に等距離にある線を等高線的に生成(★-2)
③ 基点位置によってパーツの分割数が異なって判定されるため、編み始めの基点Planeを設定する
④ 生成された線を網目のスケールに合わせて等分割するPointをつくる
⑤ 等分割したPointと隣り合う次の行の線上のPointをClosest Pointで結び線にする(★-3)
⑥ 編みをガイドするためにポイントにIDを振り整理する+くびれ部分が膨らむのを防止するための絞り糸を通す範囲を判定させる凹曲率判定を表示する

Rhinoceros上の編み図生成プレビューとその手順 ©noiz

Rhinoceros上の編み図生成プレビューとその手順 ©noiz

(注釈)
★-1:始点を中心にしたSphereを生成→MeshとSphereとのIntersect Crvをとる→Intersect Crvを中心にしたPipeを生成→生成されたPipeとMeshのIntersect Crvをとる→以下同様にPipeとIntersect Crvの計算を繰り返す
★-2:厳密にはこの線群は同一法線ベクトルの平面で生成された等高線ではなく、モデルメッシュ上で等距離に位置する疑似等高線である
★-3:この線が網目の分岐数に対応する。コネクションラインが1本になる場合は「網目が増減なし」。1個のポイントから複数分岐する場合は「網目が増加」。複数のポイントから1個のポイントに統合される場合は「網目が減少」とみなせる
Algorithm KnittingのGrasshopperスクリプト

Algorithm KnittingのGrasshopperスクリプト

編みぐるみの編み図の例
編みぐるみの基本形:球
Grasshopperから書き出したスクリプトを基に作成したガイドWebGUI(β版)
©noiz
※GrasshopperのスクリプトをJSONに書き出し、β版ウェブアプリケーションのGUIの編み図ガイドを作成した。ウェブGUIでは網目を表現する球の膨らむアニメーションで編み進めていく方向を指示し、分割されたパーツごとに色分けを行い、行とポイントナンバーとパーツの3種類の情報から各ポイントIDを振り分けた。

デジタル技術導入による設計プロセス変化

これらのβ版立体編み図アプリケーションと試作品の作成を通して、編み物自体が持つ特異性と同時に、今後のデジタルデザインの出力に関する「物質と加工方法の特性の結びつき」が見えてきました。

編み物はその素材自体が柔らかく伸縮性があり、毛糸さえ継げばどこまでも大きく出力できる線形の構成をしていることから、厳密性を過度に求めない非常に「おおらかな」素材であり、ものづくりであるといえるかもしれません。加えて硬質素材では難しい、加工工程の手戻りを許容します。一方、その特性からデザイン上では意図しない変形に対しても柔軟に反応するため、絞りの毛糸を通さざるを得ない箇所の判定(凹曲率の判定)が別途発生します。そのため、これまでとは違う設計プロセスを設定し、物性をガイドUIに組み込むことが求められます。

例えば、編み物の予想外の挙動の反映として、Algorithm Knittingのリサーチ初期段階で、筆者が円形コースターを編もうと(何も考えずに)同心円状に網目を2倍ずつ増やして編んでいると、外周部に「ひだ」が生じました。この現象は、編み始めは円周の増加率と面積の増加率が均衡を保って同一平面に収まっていたのが、ある時を境に面積の増加率に対する円周の増加率が大きくなり、外周の毛糸が同一平面上に納まりきらないことで「ひだ」を発生させてしまうことが原因だったのです。

試作段階で編み目を増やしすぎたために発生した「ひだ」 ©noiz

試作段階で編み目を増やしすぎたために発生した「ひだ」 ©noiz

編み方の失敗から生まれた「ひだ」ですが、今後ファッションや毛糸小物の表現、精度の高い3Dビジュアライズに展開する可能性は十分にあるでしょう。出力後のやわらかな物体全体の挙動そのものは、微小な誤差を積み上げて算出するため、あまりにも複雑すぎて完璧な計算は不可能です。それゆえに曖昧性を受け入れることを念頭に置きつつ、一方でその全体の系としての挙動を十分に制御しながら、もしくは物性による「暴れ」を寸法体系にあらかじめ見込んでアルゴリズムにフィードバックするプロセスが必要になります。

「ひだ」の発生の仕組み ©noiz

「ひだ」の発生の仕組み ©noiz

つまり、あるべき形・欲しい構造から設計をスタートし、それを実現するために必要な工法やUI、アルゴリズムをその都度開発するというスタンスが今後より重要性を持ってきます。下記にその一例を紹介します。

例:UI設計の改良
Rhinoceros+Grasshopperに入力した3DメタボールのMeshモデルを例に立体編み図ガイドによると、なめらかな凹凸のある立体物を編もうとする場合、網目の数は単純に2倍3倍と一定比率で増減させれば良いわけでもありません。3D Meshの微細な曲率の変化を根拠にアルゴリズムがコネクションラインの数を判定するので、時として編み手の予想に反した部分で目の数が増えることもあれば減ることもあります。ガイド上では編み目の一個一個にIDを振り分けて位置を指し示していますが、アプリケーションのガイドのおかげで紙の編み図に比べて現在位置を見失う割合は大幅に減ったとはいえ、編む作業はシークエンシャルに移り変わっていくため、自分がどのIDの編み目にいるのか迷子にならないように気をつけなければなりません。今後、センシング技術と組み合わせて編みの現在位置の情報とUI上の位置の指示を相互にリンクさせたインタラクティブなアプリケーションを模索することで、ファブリケーションの精度も上がるのではないかと考えます。

現状のAlgorithm KnittingのGrasshopperのスクリプトはメタボールの入力にのみに特化しており、あらゆるMeshモデルに対応できていません。今後は編み図生成に対応できる形状のバリエーションを徐々に増やし(場合によってはGrasshopperから別のツールに移行することも視野に入れつつ)、課題を一つ一つクリアしていくプロセスがWebアプリケーション実装への道のりといえます。

編み物のリサーチから見えてくる今後の展開

外力や環境変化といった物体の外側からの刺激に反応して変形する、いわゆる4Dプリントと言われる完成後の可変性を取り込んだプリント技術の話題をはじめ、デジタル技術の導入を背景として工程自体が全体の形態に大きな影響を与えるものづくりにシフトしつつあります。このパラダイムシフトは「形態」と「工程」によって成立していたこれまでのファブリケーションの主従関係の崩壊と均衡した関係への変化を意味するでしょう。

これまで寸法精度を担保できるデジファブ・ツールを使用することは、コンピュータ上で生成した複雑かつ微妙な変化率を持つ形態を忠実に再現するために必要不可欠でした。しかし、厳密にコントロールしきれない可塑的な素材を扱うときに必要とされる、精度の「あいまいさ」や、挙動の「不確定さ」をある程度許容することで、これまでのアプローチでは到達しきれなかった、もしくは取りこぼしていたものづくりの価値を改めて提示できると考えます。

あいまいさや不確定さを許容する姿勢は、ものづくりで重視されてきた工学的な確実性と反対のアプローチです。しかし、デジタルデザインとファブリケーション技術の進歩によって、デザインでフォーカスされる形態は柔らかさと可塑性を想起させるものが増えてきており、形態と工程の明確な主従関係が無くなりつつあります。このことを背景に、柔らかな素材の挙動を実験的に取り入れることは、今後のファブリケーション研究において重要な示唆を与えると思います。

これからもnoizは編み物をはじめとして、系やスケールをまたいで一定の統計的な質をつなぐようなアプローチで、十分に価値を計算できる新しい技術体系ならではのデザインの可能性や生産のノウハウを更に探っていきたいと考えています。

編み物に関する参考文献

Knitting a 3D Model
Knitty: 3D Modeling of Knitted Animals with a Production Assistant Interface
Automatic Machine Knitting of 3D Meshes