Rhino8 最新機能攻略セミナー 第2部:コンピュテーショナルデザインによって拡張するデザインの可能性

Rhino8 最新機能攻略セミナー 第2部:コンピュテーショナルデザインによって拡張するデザインの可能性

2023年12月11日(月)に開催されました、株式会社Too主催のデザインイベント「Rhino8 最新機能攻略セミナー」より、「第2部:コンピュテーショナルデザインによって拡張するデザインの可能性」のセミナーレポートをお届けします。

Rhino8 最新機能攻略セミナー 第2部:コンピュテーショナルデザインによって拡張するデザインの可能性

【主催】株式会社Too
【協力】株式会社アプリクラフト
【登壇者】合同会社Triple Bottom Line
     柳澤 郷司 氏


はじめに – 自己紹介

はじめに 自己紹介

本日は「コンピュテーショナルデザインによって拡張するデザインの可能性」というテーマで、弊社が常日頃携わっているさまざまなデザイン開発や業務について事例を交えて紹介します。弊社は主にリサーチベースで、商品になる前の段階に関わることが多いです。新しい素材の活用方法や、Rhinocerosなどのソフトウェアメーカー様が新しい機能をローンチする前に私たちに依頼が来て、仕様検証や実例制作、事例制作ということを行っています。

実際の製品に関わることももちろんですが、それよりも少しコンセプト寄りや先行事例などに重めにウエイトを置いて活動しています。

セミナー概要

セミナー概要

こちらが本日のアジェンダです。コンピュテーショナルデザインという言葉が表に出てきて10年ほど経過しました。弊社の活動範囲は国内と国外で約半々というかたちですが、国外と国内ではコンピュテーショナルデザインに対しての捉え方が若干異なるということを感じています。

異なる理由には、コンピュテーショナルという単語に対する扱い方以外にも、デザインに対する扱い方の違いがあると考えています。その原因として、Grasshopper(以下、GH)もRhinoceros(以下、Rhino)も日本のソフトウェアではなくて、開発元はそれぞれイギリスとアメリカというところにも関わってくると思います。

本日は、欧米でよく言われているデザインの文脈や、欧米で捉えられているコンピュテーショナルに対する考え方なども含めて紹介していきます。

Intoroduction

イントロダクション

まずはイントロダクションです。デザインの中には、設計から意匠設計、ディテール、加飾などさまざまな工程があります。当たり前ですが、コンピュテーショナルという単語とデザインが合わさると、コンピュテーショナルデザインになります。

コンピュテーショナル×デザイン

デザインとは?

デザインとは

一般的な人が考えるデザインは、職能を持った人が「こういう風にしたい」「見たことないものを作りたい」といったものをアウトプットして、いつの間にか形になって、最終的にお金になるというイメージだと思います。

しかし、デザインはアートではないため意思決定の段階がありますが、その意思決定者はデザイナーではありません。一方で、デザイナーは「5個の案を考えてくれ」と言われたら5個のアイデアを出して、意思決定者はその中から選ばなければいけません。

このプロセスはとても属人化していて、意思決定者はよくわからなくても期日になったら提示された5個に優劣をつけなければいけません。

イントロダクション

アメリカには、意匠設計系のデザイングラフィックやインダストリアルデザイン、オートモーティブデザインなどのサービス設計を行っている『ディード』という政府系の諮問機関があります。その機関が毎年、「私たちが考えているデザインという枠組みというものは、どういう風に生まれたんだろう」ということについて、白書を出しています。全てPDFで発行されているため、無料で読むことができます。

彼らは、1910年代からアメリカで行われてきた大規模サービスの開発の現場で使われた意思決定のプロセス自体もデザインと呼んでいます。プロジェクトごとの成功理由と失敗理由をリサーチした結果、間にある属人性を排除し、誰でも模倣可能にして進めていったプロジェクトこそうまく進められていると彼らは仮説を立てています。

思考変遷の定量化

思考変遷の定量化01

「誰が考えたのか何もわからない」「どのように決定したのかわからない」という状況を、私たちは無理やり日本語で「思考変遷」と呼んでいます。また、どのように物事が考えられて進んだのかを「思考変遷の定量化」と呼んでいます。彼らはインプットの結果で処理するプロセスがあり、その後にアウトプットが出てくるという流れが一番基本となるデザインだと言っています。

流れとして、入ってきたものの要素を抽出して手を加えるということを、デザイナーの職能のブラックボックスとして処理されてしまっていました。それをしっかりと可視化、言語化、定量化して属人性を排除することによって、初めてこれをデザインと呼んでいるのではないかという話です。

日本でデザインを勉強しようとすると、美術の側面からどのようにデザインを捉えるかという話が多くなりがちです。最近では、一般的な大学の一般教養として情報デザインやメディアデザインなどが出てきています。欧米や、特にヨーロッパでのデザインの考え方では、美術教育とは違うプロセスエンジニアリングやプロセス教育など、プロセスのデザインの仕方に重きが置かれています。

思考変遷の定量化02

思考変遷の定量化と言っても、プロジェクトが大きくなって間に関わる人間が増えると、変数(パラメータ)はものすごく増えてしまいます。その場合でのパラメータの制御も課題になるというわけです。

2018年頃に出た彼らの最後のレポートには、「ここから我々はコンピュータの時代に入っていく」と書いてあります。これからは、今まで人間の手の内だった変数がこれから指数関数的に増えていくということです。彼らは、2018年の当時からコンピュテーショナルに触れていたということになります。

アルゴリズムの演繹性

アルゴリズムの演繹性

画像は、実際に私たちのプロジェクトの現場で行われた実際のデータから持ってきました。これは、何かを分割してものを作ろうというアルゴリズムの演繹性について書かれています。私たちがイタリアのメーカー様と協業したプラントポットや、欧州の車メーカー様と協業したフロントグリルなどが載っています。

最近の車メーカーでは、フロントグリル周りのデザインは既に2040年代のデザインを制作しています。そして、先行開発の現場では「車」と呼ばずに「移動体」と呼んでいます。2040年代と今では変わっているはずという見込みで、内燃機関かEVかハイブリッドなのかはわかりませんが、とにかくフロントマスクの造形に関しては大きく変わるはずということです。

そこに対して、意匠性が入り込む隙間や可能性があるのかを追求していこうということです。その際に、演繹性やアルゴリズムがわかってしまえば、そこに対して独自のテイストを加えることができるのではないかと考えていました。

このような細胞分裂型のジャンルでいうと、それらを機械学習や強化学習によって無駄なくディテールを彫り込むパターニングをすると、ハンマリングワーグで作ったような器の表面ができるようになります。

そのディテール、本当に必要でした

Rhinoのユーザーの方はよく見ると思うのですが、「そのディテール、本当に必要でした?」という問題があります。なぜかというと、さきほど言った通りアルゴリズムの善し悪しを理解せずに面を充填させるツールとして使ってしまうと、属人性を排除して誰もが模倣可能になったがゆえに、誰でも同じディテールを使えることになってしまうからです。

コンピュテーショナルは非常に有益で、演繹性も高くて可能性はあります。それと同時に、使う理由や必然性について考えることはとても重要だと考えています。

Vision in Context #1

Vision in Context01

次に考えて欲しいのは、「好ましさとは何か?」です。「デザインは感性主導ではないのか?」「デザイナーがいいと思ったもの、プロジェクト参加メンバーが表現したいと思ったものを可視化、言語化をして作るのがデザインではないのか?」ということに対して、まず考えていきます。

アリス・ローソーン

彼女は、アリス・ローソーンというイギリス出身の世界でも信頼を置かれているデザイン批評家の一人です。アメリカの『ニューヨークタイムズ』やドイツの『フレーム』などのデザイン誌に毎号寄稿しています。欧米の新聞は平日版と週末版で別物で、平日版はニュースソースで、週末版は文化誌になっています。

彼女はそこで、今のデザインの潮流を伝えるエッセイをずっと書いています。そして、一定の期間でたまったエッセイの中から反響が良かったものをピックアップをし、本にまとめています。一昨年出版された新しい本の中で、彼女は「一般的に優れたデザイン性と誤解される意匠の官能的な特徴は、必ずしも好ましいデザインの実現のために必要とはされない」と言い切っています。理由としては、さきほどのディードにもあった通り、属人性を排除して演繹性を高めたものが素晴らしいデザインに繋がるからとのことです。

さらに、1900年代初頭から続く『Form follows function』という単語についても触れています。形状によって機能が想起されるデザインに関して、私たちは今その終わりを味わっていると彼女は言っています。

一方で、コンテキストに対して必然性がないようなデザインも最近は溢れてしまっている現状もあります。とにかくディテールと空間を埋めるようなデザインになってしまっているため、「真のデザインの可能性」に対して真摯に考えている人たちが少なくなっていると彼女は警鐘を鳴らしているわけです。

モホリ=ナジ・ラースロー

一方で、1900年代初頭から続くForm follows functionという考え方が本当に正しかったのかどうかという点も大事です。そして、その考えを提唱したのは『モホリ=ナジ・ラースロー』というハンガリー人です。日本での知名度は高くないかもしれませんが、彼が勤めていたのは皆さんご存じ『バウハウス』です。

『マックス・ビル』などもそうですが、日本まで名前が伝わってくる方たちの大半は、バウハウスという教育機関で高等教育や最終教育を受け持っている方達です。モホリナジが担当してたのは、初等教育になります。

バウハウスという教育機関に入ってきた10代後半から20代前半の人達に対して、「芸術家の仕事のひとつには、感情の演繹性を考えなさい。感情はあなた一人のものではなくて、何かを表現するのであれば、その感情が社会に対してどういうような影響を及ぼすのか、その視点を社会に対して取り込めるのかが非常に大切です」と伝えているのです。

画像の左側にあるのは、彼が書いた『VISION IN MOTION』という初等教育向けの教育本です。1947年刊行ですが、2020年にようやく日本語の和訳版が出版されました。非常に良い本なので、ノンデザイナーの方でも楽しめると思います。

その当時、バウハウスではまだ「デザイナー」という言葉は使わずに「アーティスト(芸術家)」と表現していました。芸術表現はとても個人的なもので、個の経験や感情をどのように表に出すかという活動が芸術ではないかと考えています。しかし、デザインはそうではなくもっと広く外に開いていて、それが芸術と美術とデザインの大きな違いだと言われています。

その美術を教えていたはずのバウハウスでは、率直に初等教育の中ではもっと芸術性を外に開いていくものであって、大きく演繹性を持たせることで工業社会の新たな次元を追求するということも言われています。人の役に立たせるために属人性を排除し、演繹性と普遍性を持たせなさいとずっと言っているというわけです。

Vision in Context #2

Vision in Context02

デザインとは情動主義や感情主義のようなものではなくて、演繹性を持たせた工学的なアプローチということを理解しておかないと、コンピュテーショナルデザインへの理解から離れていってしまうのではないかと私たちは考えてます。

なぜならば、「コンピューテーショナルデザインとは、細かい領域に対して込み入ったディテールを入れるツールだ」という勘違いがあるからです。コンピュテーショナルデザインは、最近では車のフロントグリルのデザインや窓枠のデザイン、シャンプーボトル、髭剃りのグリップ、歯ブラシのグリップなど、ディテールを凝らすために使われています。

実際には「そこまでディテールを入れなくてもいいのに」という考えも増えてきていて、機能として何に活かされているのか不明瞭なことも多いかもしれません。例えば歯磨きのグリップでは、濡れた手で掴むところに細かなディテールがあると、表面張力で水が付いてしまいます。水が付くことでギャップが埋まってしまうため、細かいディテールがそこまで機能性に関与しているか考えると、必然性ではないデザインかもしれません。

「面をとにかく埋めなければ」という考え方だと、従来のコンピュテーショナルデザインが生まれた際のオリジナルの考え方から徐々に離れてしまう可能性が危惧されています。

Case Study

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ここからは、コンピュテーショナルデザインを使っている事例をいくつか紹介します。

ケース1

スカンジナビアンデザインエージェンシー(北欧デザイン振興協会) 照明デザイン

これは、『スカンジナビアンデザインエージェンシー(北欧デザイン振興協会)』と共同で制作した照明デザインのサンプルです。「心地良さ」をジオメトリーで表現する際に、そのジオメトリーのバランスはヨーロッパ人とアメリカ人、アジア人など人種によって考えるバランスは異なります。

角のRの取り方や各エレメントの厚みと長さの比率などをエレメント化した後、サンプル数をたくさん作って総当たりでさまざまな人種や文化的背景、生活背景などを考慮し、落ち着くバランスを模索しました。その結果、黄金比ではないですが、全てのエレメントの比率が「1:√2」で収まる計算に収束していくという調査結果になりました。

画像を見てわかる通り、細かい領域に細かいディテールを入れているプロジェクトではありません。人間の手では到底追いつかないような、大量の計算や試作制作をするというコンセプトのプロジェクトでした。

ケース2

日本の繊維樹脂加工メーカー様と共同でやったプロジェクト

これは、日本の繊維樹脂加工メーカー様と共同でやったプロジェクトです。彼らが開発した新しい樹脂素材を一番端的にわかりやすく表現するデザインには何があるかを追求したプロジェクトとして、画像にある「くの字型のスツール」を制作しました。

一般的に、スツールの耐荷重は約90kgです。鉛直荷重で130kgを与えた際には、ベントアングルを大体5度以下の変形に収めなければいけません。今回の形状では、樹脂メーカー様のエンジニアの方から「これだとやはり少し曲がってしまう」と言われてしまいました。そこでの解決策として、真ん中にリブを入れるという案が出ました。

しかし、意匠優先のコンセプトなのに対し、リブを入れると意匠性が失われてしまいます。「リブを入れなければならない」ということを変換し、ベントが掛かった時に荷重で変形を起こしているところの2次モーメントを一番稼げる設計にすればよいということが、エンジニアの方の言いたいことと解釈しました。ここで発生している断面の応力集中箇所に対して耐えられるだけの断面積を確保するためには、どういったディテールを加えればいいのかという話でした。

下部を凸凹形状にして断面積を増やすことで、リブ状のヒダをつけたようなイメージになります。そうすることで全体の剛性を確保できるという設計は、今まででは難しかったと思います。これに関しては、コンピュテーショナルによる外部計算のリソースを使って、どのように減衰すれば上下のつじつまが合った上で作れるのか試すことができたプロジェクトになります。

ケース3

エンジンコントロールリングユニット

これはエンジンコントロールリングユニット(以下、ECU)と呼ばれる、エンジンに取り付けることで噴射タイミングや回転数、燃料の熱流量などをすべてコントロールしているコンピュータです。そのECUの新しいコンセプトを考えたプロジェクトになります。

単位面積当たりの要件は決まっているため、あまり複雑な計算や色を入れることはできませんし、そもそもエンジンルームの奥底にあるものに色を入れてもあまり意味を成しません。また、ここのメーカー様はエンジニアリングドリブンのため、意味のないデザインや意匠を付けることはできないとも言われました。

その上で購買力の向上が目的のため、ジオメトリに対する質量を下げておきたいということもありました。体積を削ると放熱容量が減ってしまいます。エンジンルームは約120度で動いていて、キャビネットと呼ばれるECUの内部は約90度ほどになります。要するに、ECUの内部の方が外部気温よりも低い状態になっているということです。

その状態でキャビネットの体積を減らすと、熱源に対して中で守らなければならない中身との距離が短くなってしまうため、外部環境の影響を受けてしまいます。そういった状況でも、体積を減らさなければいけないという要望がありました。

まずは『Karamba3D』を使い、実際に筐体内でコンピュータやメモリのチップがどのように動いていて、発生した熱をどのように排気しているのかを可視化しました。その可視化の流路をなるべく最短でつなげるデザインにすることによって、外部環境の影響を最小限に抑えつつ、冷却効率を落とさない設計にできるという仮説を立ててデザインをしたプロジェクトになります。

ケース4

シェルチェア01

これは、イームズのデザイナーの方や建築家の方はご存知の『シェルチェア』と呼ばれるものです。1930年代当時の設計データから特異点を取り出して、グラスファイバーやHDPEと呼ばれているポリマー素材を初めて積極的に構造部材として活用した家具になります。

その当時のグラスファイバーの物性を使った上で、当時のアメリカの家具安全基準を理解していれば加圧点が分かります。その加圧点を特異点として捉えて、AIは支えるための構造に最適な形を出してくれます。

当時は1930年代のため、パソコンもAIも何もありません。そのため、デザイナーやエンジニアの方々自身が、職歴の中で育ててきた職能に基づいた「こういう形状ならば、これぐらいの重さや衝撃に耐えられるのではないか」ということを恐らく頭の中で考えていたと思います。確かに、画像の通りそのイメージに沿ったシェルチェアの形状が出てきました。そこで少し考え方を変えて、1930年のものでも今の物性と安全基準を使うと、もう世の中には存在しないものやもう亡くなっている方が考えていたことが再現できるのではないかと考えたプロジェクトです。

シェルチェア02

実際に、2014年に刷新されたアメリカの家具安全基準と当時のグラスファイバーの物性を使い、同じ特異点を使って計算すると画像のような形になります。要するに、その当時のデザイナーやエンジニアの方々が考えていた思考と直接会話ができるようになるのではないかと思っています。こういった点も、コンピュテーショナルデザインのポテンシャルのひとつではないかと考えています。

「もしかすると、当時のデザイナーやエンジニアの方々が今の物性を使ったらこういった形を想像したかもしれない」と考えられると思うと、非常にポテンシャルのある話ではないかと考えています。

Trans Nature

Trans Nature

もうひとつ、自然のあり方を模倣する『Trans Nature』というプロジェクトがあります。自然変数はパラメータの範囲がとても大きくて、そのまま使うとなると非常に大変な要素です。

自然には、人間のライフタイムスケールで考えると途方もない長い最適化のプロセスがあります。そのプロセスを経て表現形が出てきているということを考えると、「なぜこの形になったのか」「なぜこのような自然現象が発生するのか」など、実はさまざまな実行設計や機構設計に対して非常に有益なものが出てくるのではないかと考えて行なったプロジェクトです。

フロントライトのグリルパターンや反射パターン、水面の反射パターン

これは、車のメーカー様のフロントライトのグリルパターンや反射パターン、水面の反射パターンなどになります。特に車メーカー様はコストエフェクティブのため、とにかく少ない材料で最大限の効力を発揮したいという考えがあります。

フロントマスクのライトパターンの例だと、「LEDはできれば1灯にしたい」や「光源は1灯にしたい」などの意見が挙がります。しかし、照射範囲の角度や角度に対して前方に照射する光の強さなどを試す際に、最近だと工学計算に加えて意匠性のようなことを言ってくる方がすごく増えています。その際にこういった自然物理現象を変数として入れることによって、新しい加飾表現ができるのではないかと考えたプロジェクトです。

東南アジア系のホテルチェーンとの共同プロジェクト

次は似たようなプロジェクトですが、東南アジア系のホテルチェーンとの共同プロジェクトです。水が非常に大切な要素を持っている国柄のため、水でスタティックなオブジェクトの流れを表現できるものが欲しいと言っていました。幸いなことに、水に関わるパラメータは、実はかなりの精度で数式化されていました。皆さんも映画などでイメージできると思うのですが、ここ10年で水に対する表現はとても向上しています。

水に関わるパラメータの変数、水がバシャッと跳ねた時の水面の現象を私たちは『干渉波』と呼んでいます。干渉波のできるアルゴリズムや温度変化による水の粘性の変化、水面の動き方、乱反射の方式、乱反射マップなどはかなりの精度で予測可能になっています。中身のアルゴリズムが解明され始めているということのため、それを実際の設計に活かして作っていきました。

プロダクトデザインの範疇として型で抜ける形にしようとすると、人間のエンジニアや型抜き職人の方にパラメータとして与えて、細かい条件を決めることが求められます。そうすることでよりプロダクトの設計に即した上で、今までなかったようなディテールを入れつつ、表現したいものに対する最適な表現形を当てはめられるのではないかと考えています。

Craftwork Infomatica

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最後に工芸情報学についてお話しします。前述したアルゴリズムのベースで設計をしていくものに対して、今まで職人さんの手作業で作られていたものがあったと思います。そういったものを言語化や可視化、定量化することによって、新しいデザインの可能性が生まれてくるのではないかと考えています。

Craftwork Infomatica02

そこに追加して、あえてアナログの変数を与えると、さらに違う表現ができるようになるのではないかと考えているのがこの分野です。例えば、最初に話をした「面の分割」といったものに対して、どのようなパラメータ管理をすればよいのかという命題がありました。そこで機械学習を入れて、なるべく少ない手数の上で、ハンマリングワークAとBの面積誤差が一定数値以下に収まるようにパラメータを決めて強化学習をしていきます。

30世代分を重ねると、大体粒が揃っていい感じになります。人間の職人が作る上でも、10〜20年と同じくらい世代を重ねると計算がうまくいくようになります。そういった流れによって、人の手が作るようなランダムさが再現されます。

人間の手が作るAと機械が作るBのどちらの品質が高いかと考えると、私の個人的な意見でもありますが、人間の手で作る方がやはり品質が高い傾向があります。なぜかというと、量産品の品質を一定以内に収めるためのデザイナーやエンジニアの方の苦労には、なるべく同じ気温、湿度、素材、工法にした上で、キャリブレーションは絶対にずらせないなどがあるからです。

人間の手だと、キャリブレーションなどは人間の手がいい感じに丸めてくれます。一方で、単位時間内に作れる個数が変わることや、個々の職人の方の気分で物が変わってしまうなどの問題もあります。そこに関しては、機械学習の職人は絶対に機嫌を損ねず、残業などの概念もないため、属人性に対しては心配することはありません。

工業製品が人間の手加工品に対して少し品質が落ちる感じがする理由としては、パラメータのズレをなくすためにパラメータの変数となりうる要素をどんどん削り落とした結果として量産品になるためです。量産品に対して、手加工にある私たちが感じているロマンというようなものを加えることができるようになる手法を、研究やケーススタディを通して模索しているプロジェクトになります。

Craftwork Infomatica03

まとめ

Craftwork Infomatica02

コンピューテーショナルデザインによって拡張されるデザインの可能性をまとめていきます。

Craftwork Infomatica02

大事なのは可視化(言語化)ということです。グラフィックである以上、XとYの座標や、オフセットポイントなどは見るだけで大体は理解できます。

要するに、やりたいことを可視化することができる、そして可視化したものに対して言語化もできることが重要というわけです。言語化できたのであれば、後から見た人達にとっても可読性が上がるため、演繹性や再現性の獲得につながります。再現性が獲得できるのであれば、「好ましい」要素の追求に時間を割くことができるというわけです。そこに対して、最初に戻って「思考変遷」を可視化できると考えていることになります。

Craftwork Infomatica02

可視化できることによって、今までアナログの人たちが何十年もかけて育ててきた手工芸のノウハウを有機的に取り入れることもできますし、その長い間の最適化を図ることもできます。そのプロセスを経て体現している表現型を、実際の意匠設計の現場に持ち込むことも可能です。

Craftwork Infomatica02

私たちは、「自然美」と「用の美」は実は同じではないかと考えています。用の美とは、職人の方が作った得もいわれぬ美しさで、それは職人がその職人人生をかけて30〜50年かけて体得してきた最適化の道だと思っています。

人間を含む動物は、所作や動き、テクニックなど、総じて少ない手数で最大の成果を生み出すようになるのが生物の基本原理だと思います。一方で、私は自然美も実は同じ理屈だと考えていて、基本的にはその生存域に特化した表現型だからこそ、そこに生存しているわけです。唯一違うのは、職人の方が30年だとしたら、自然美はおそらく何十万年というタイムスケールであって、その期間だけの差しかないということです。

最適化という文脈でこの2つが繋がるのだとしたら、もしかすると私たちが自然に感じている得もいわれぬ形容のしがたい美しさを、日常の製品やデザイン活動、用途開発に活かすことができるのではないかと思います。

その中で、おそらく変数の中間に置かれているパラメータはとても膨大です。そうなると私の頭ひとつだけで計算が追いつくわけがないため、外部の計算リソースに頼る必要がある部分になります。コンピュテーショナルデザインは、そういったものの要素を解明する手がかりになると感じています。これが、私が今強く感じている「コンピュテーショナルデザインによって繋がる新しいデザインの可能性」だと考えています。

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