「内観CGのオモテとウラの奥深さ」-美しいインテリアの魅せ方は表裏一体?-(高畑真澄) – 建築ビジュアライゼーションMeetUp第七弾 イベントレポート

2024年4月17日(水)に開催された「建築ビジュアライゼーションMeetUp第七弾」のイベント内のセッション「「内観CGのオモテとウラの奥深さ」-美しいインテリアの魅せ方は表裏一体?-」についてご紹介します。

主催 :株式会社Too
協力 :オートデスク株式会社
     Enscape

協賛 :株式会社三菱地所設計
     株式会社ホロラボ
講師 :高畑 真澄 氏


講演映像(38分)

セッション概要

「内観CGのオモテとウラの奥深さ」-美しいインテリアの魅せ方は表裏一体?-

・3ds Maxを活用した内観CGを、Arnold・V-Ray・coronaの3つのバリエーションでご紹介。
・オリジナルでインテリアCGパースを制作する場合に必要なこと。
・カバーデザインの表紙、背表紙、採用されなかったボツ案など制作の裏側を公開。

登壇者紹介

講師:高畑 真澄 氏1
講師:高畑 真澄 氏

まずは、私の自己紹介から始めます。高畑真澄と申します。本業は建築CGパーツ屋ですが、最近は教えることも増えてきていて、母校である青山製図専門学校で非常勤講師もしています。

講師:高畑 真澄 氏2

また、画像にもある『たのしい3ds Max ーわくわく建築CGー』という、3dsMaxで簡単に建築CGが作れるチュートリアルビデオを作っています。その後、X-Knowledge(エクスナレッジ)からの依頼で『世界で一番やさしい3dsMax 建築CGパースの教科書』を2024年3月27日に発売しました。

3dsMaxの本を出したこともあって、オンライン講師として個人から企業の方まで教えています。楽しいことや新しいことを喜んでもらえるように意識して、いつも活動しています。

講師:高畑 真澄 氏3

講演概要

内観CGのオモテとウラの奥深さ

本日の講演タイトルは、「内観CGのオモテとウラの奥深さ」です。

内観CGのオモテとウラの奥深さ

内容については、大きく3つに分けました。この順番に沿って進めていきます。

餅は餅屋に任せる

突然ですが、「餅は餅屋に」という言葉をご存知でしょうか。餅屋さんがつくったお餅は美味しい、つまり、「物事はそれぞれの分野の専門家に任せるのが良い」という意味のことわざです。

私は独立してから13年経ちますが、最初の頃は仕事が集中していました。一人ではとても手に負えない仕事量だったため、仕事を断るしかないと思っていました。そんな時、デザイン会社の社長の方に「バイトに頼めば?」と言われ、その発想が全く無かった私にとっては衝撃的でした。最初は「私がバイトに頼んでもいいのだろうか」という思いがありましたが、モデリングのみを同業者の方にお願いするなど、早い段階から人に頼むということを学びました。

内観CGのオモテとウラの奥深さ

そして昨年、『たのしい3dsMax ーわくわくCGー』の依頼がありました。そこでオープニングの画像が必要になった際に、動画内に出てくる建物の外観や内観にしようと思っていました。その時、オートデスクの一ノ瀬さんに「あなた自身はそれでワクワクするのか?」と言われました。

「たのしい3dsMax -わくわくCG-」というタイトルにもある”ワクワク”という言葉は、私がどうしても使いたい表現でした。そして、「私自身がこの建物の外観や内観じゃワクワクしない」ということに気付き、まずは自分がワクワクするものにしようと考えました。そこで、スタジオハンドの吉田さんと竹内さんの二人と一緒に仕事をすると、いつもワクワクして楽しいというところにつながり、仕事を依頼をすることになりました。

餅は餅屋にという考え方で、本当に餅屋にお願いしたケースになります。

機材紹介

内観CGのオモテとウラの奥深さ

次に、使用している機材を紹介します。普段使っているノートパソコンやデスクトップパソコンは、株式会社Tooの方にいつもお願いしています。私は建築CGパースを描いていますが、機材やシステムに強い人間ではありません。画像の真ん中にある赤丸は録音するためのマイクですが、オートデスクの吉田さんに使用機材を聞いて同じものを購入しました。自分が詳しくない分野においては、周りの人を頼るのも効果的な手段のひとつです。

改訂版の出版

内観CGのオモテとウラの奥深さ

そして、2018年に書いた本の改訂版を今年出版することになりました。6年も経つと中身も進化しているため、表紙をどうするべきか考えました。出版会社のX-Knowledgeに聞くと、「進化してほしいから表紙も変えてほしい」と言われました。私としては改訂版の中身を考えているため、表紙を考える余裕がありませんでした。

内観CGのオモテとウラの奥深さ

ここで、また「餅は餅屋に」という考え方を使います。

12章にあるV-Rayでは、『Chaos Cosmos(以下、コスモス)』の無料の3Dコンテンツがダウンロードでき、テーブルの上にグラスやキャンドル、お皿などをドラッグするだけで簡単に配置できます。これを本の内容に入れると決めた際に、インテリアコーディネーターの方に発注し、コスモスの家具を使った空間を作ってもらうことにしました。

内観CGのオモテとウラの奥深さ

発注をしたのは、madamu dendenの印田ゆみさんです。印田さんは私の元生徒でもあるのですが、インテリアコーディネーターとしてのセンスがとてもよかったため、お願いすることにしました。条件は、「簡単でおしゃれ」と「コスモスを使う」という2点でした。そうすると、上の画像のようなわかりやすい提案書をもらえました。

内観CGのオモテとウラの奥深さ

餅は餅屋に任せると、より良いクオリティに仕上がるだけでなく効率が上がります。さらにはインテリアコーディネーターの物の選び方なども学ぶことができ、自分自身のスキルアップにも繋がります。本当に良いことづくしというわけです。

本の表紙・裏表紙(オモテとウラ話)

本の表紙・裏表紙(オモテとウラ話)

次に、本の表紙と背表紙についてです。前回の表紙は本に書いてある内容そのままで、本の内容の通りに作業すると表紙の絵が完成するようになっています。そして、今回インテリアコーディネーターの方に頼んで作ってもらったのが右側の画像です。私自身も「とても格好いいのができた」と思い、X-Knowledgeの方に見せたら「何か地味だね」と言われてしまいました。

確かにインテリアとしては素敵ですが、本の表紙としては少し地味かもしれないと思いました。地味と言われて落ち込みましたが、再度別のデザインをお願いしました。

本の表紙・裏表紙(オモテとウラ話)

そして、私から「天井に木を貼りたい」と参考画像を送り、再度依頼をかけました。今回地味と言われてしまったからこそ、前回の表紙の良さにも気付くことができました。その時のことを思い出しながら、今回もさまざまな色や要素を散りばめて作りました。

アートやラグマットも参考に、購入せずに検討をしていきました。そして、コスモスの家具の椅子を配置して作ってみてはどうかという提案をいただきました。

アングルと配置検討

本の表紙・裏表紙(オモテとウラ話)

私がそれをベースにアングルを出しました。コーディネーターの方は提案までだったため、その後は自分で検討しました。3ds Max coronaのレンダラーをそのままV-Rayに変換して、私なりにアングルを作りました。

まずは天井の木目の貼り方を少し変えました。その後、もう少し迫力がほしいということで、椅子を手前に移動するなどの修正をしています。ラグマットの黒い部分に関しても、回転させて構図を検討しました。

本の表紙・裏表紙(オモテとウラ話)

そして一番最初の表紙に戻ります。一番右の画像に決めたのですが、自分の中でもう少し何かできるのではないかと思い始めました。「他のアングルもあるのではないか?」など、自分に問いかけました。個人で仕事していると、指摘やダメ出しをもらう機会は多くありません。だからこそ、自分で頑張るしかないわけです。

本の表紙・裏表紙(オモテとウラ話)

最終的に、もう1案作成することに決めました。まずはアングルを変えてみましたが、それだけでは面白くありませんでした。そこで、ソファや椅子の位置を変えるなどのレイアウトの変更をして作り出しました。

本の表紙・裏表紙(オモテとウラ話)

これは図面通りの家具の配置で、私のイメージでカメラを配置しました。迫力を出すために、椅子やアートが見えるアングルを作っています。コーディネーターの方こだわりの丸い鏡とペンダントライトを見せるために、アングルを変えてカメラを少し引きました。しかし、図面通りの場所では鏡は見えない上に迫力も感じられませんでした。

そこで、家具類を少しカメラに寄せて、ラグマットも回転させました。鏡の中に映る植栽なども追加で置いてあります。レイアウトでは部屋の雰囲気が伝わることが重要なため、必ずしも図面通りでなくてもいいと考えています。少しだけ椅子をずらすなどしても、何よりもきれいに見えることが最重要だと思っています。

カバーデザイン12案の提出

本の表紙・裏表紙(オモテとウラ話)

結局は、合計で12案作成しました。12案にもなった理由は、天井部分に白文字で「3dsMaxの教科書」というタイトルが入るのかと思っていたら、白文字よりも黒文字の方がいいというお話になったためです。そこで一度やり直しになり、天井を白にする、少し明るくするという案もいくつか作りました。また、鏡に映ることで部屋の空間がわかるようなアングルもいくつか作っています。

せっかくコーディネーターの方に依頼した案も、私の気に入っているナチュラルな感じのインテリアだったため残しました。ファイルのネーミングに統一感がないのはその都度名前を決めていったためです。

本の表紙・裏表紙(オモテとウラ話)

12案の中から3案に絞られました。私のお気に入りも候補の中に一応残っていました。

実際のレイアウト

本の表紙・裏表紙(オモテとウラ話)

この画像が実際にレイアウトされた表紙です。左側は裏表紙ですが、初めはこの裏表紙の画像はない状態でした。そこでX-Knowledgeの担当の杉山さんが裏表紙にも画像を入れるために掛け合ってくれて、表と裏の両方に画像が入ることになりました。

画像中心の赤いラインがありますが、ここは背表紙になるため、このままだと私とコーディネーターがこだわって配置したクッションが潰れてしまいます。そのため、クッションを移動しないといけないということになりました。また手前のソファの肘掛けも消えてしまうため、横方向に伸ばすことになりました。そういった細かい修正や、移動させる作業などがありました。ここは最後の踏ん張り所になります。

本の表紙・裏表紙(オモテとウラ話)

このアングルはアタリ画像ですが、クッションやチェストなどを移動して出来上がりました。ラグもアタリだったのですが、結局購入することになりました。個人でやっていると購入するのは少し躊躇してしまいます。今回はOKが出たため実際に購入しました。

アートに関しては著作権の問題で使えないため、頑張って自分で書きました。この時に参考にしたのが、画像の真ん中にあるラグです。ラグの形からデザインをもらって、自分で作りました。このお部屋にいる方の趣向を考えて、似たような色やデザインにまとめました。

指示出し

本の表紙・裏表紙(オモテとウラ話)

裏表紙に関しては、外注のインテリアコーディネーターの方にお願いしたため、自分で作業はせずに指示するかたちになります。裏表紙は最後に決まったためレンダリングする時間が限られており、部分レンダリングで何度もお願いしました。

本の表紙・裏表紙(オモテとウラ話)

こだわったところは、アートを使う点です。著作権の問題があるため、光の映り込みによって見え方を変えることで解決しました。そして、フロアランプを消した方が外からの光が明るくなるため、ライトを消してもらいました。あとは、画像左上のクッションカバーの黒い部分です。少し小さめだったことが気になったため、大きくしてもらいました。

ペンダントライトの部分は光っていると素敵なのですが、表紙と背表紙のつながりを考えると暗い方が良いと思いました。そこで、ライトは配置するが光らせないということで対応をしてもらいました。最終的に、鏡に映るバージョンと映っていないバージョンの両方を作ってもらいました。

本の表紙・裏表紙(オモテとウラ話)

このように何度も指示を出して試行錯誤をして、最終的に今の表紙と裏表紙が出来上がりました。実際の印刷は画像の通りですが、もう少し直したかった点やなぜか自分で気付けなかった点があります。

納期の問題もあるため、全て思い通りに作るのは簡単なことではありません。その中でも裏表紙にも画像入れるなど、X-Knowledgeが私のイメージ通りにしてくれたおかげで素敵な表紙が出来上がりました。

まとめ

表紙の模写

今回の表紙と背表紙の作成のまとめです。当たり前のことですが、諦めずにさまざまな挑戦をしています。また、黒の散りばめ方にも気を付けました。少しずつ散りばめると素敵になりますが、逆に普通のインテリアで黒がないのにも関わらず1か所だけ黒があった場合は、少しトーンを落としてグレーにするなど、濃淡を落として絵を完成させています。そして、表紙と裏表紙の絵に繋がりが感じられるとより良いと思っています。

これからはじめる方へ

これから始める方へということで話をします。私は3dsMaxに関する本も出しているため、多くの方から連絡が来ます。初心者の方からのレンダリングの相談では、まずはソフトについて教えています。3dsMaxやArnold、プラグインとしてはcoronaやV-Rayなどがあります。そうすると、「どれを使えばいいですか?」というお話になりますが、それぞれで価格や仕様が違います。

もちろん金額も大事ですが、その人がその後どのように仕事をしていくのかも当然重要です。しかし、まずはあまり気にせずにどれでもいいからやってみるといいと伝えています。

表紙の模写

表紙の模写

今回の講演にあわせて、大急ぎで2〜3時間で模写をしてきました。『TAKE A BATH』という分厚い洋書の表紙の模写です。模写は、小物が違う、庇の長さが違うなどやることがたくさんあります。全て忠実にやると、2〜3時間で終わりませんし、1週間かかることもありえます。そういった点からも、構図や光の感じなどを勉強するために模写をおすすめしています。

表紙の模写

この本を模写したことによって、表紙のすごさも感じられました。たくさんの候補の中から選ばれているのかということを自分でも感じましたし、写真集を出している方もそのようなこだわりがあるのだと思います。そのため、もし模写するものに迷った時は本の表紙をおすすめしています。

模写作業の様子

表紙の模写

2~3時間の短時間での作業について少し解説します。コスモスから木をドラッグして置くだけで、さきほどの森の空間はすぐに作れます。

表紙の模写

次に木の配置ですが、必ずしも地面の上に置くわけではありません。絵を見ながら高さを変えたり、ボリュームを変えたりしながら並べていきます。初心者の方は、「木はここに置くものだ」と考えてしまいがちですが、まずは絵がきれいになることを大事にするのが私の考え方です。

表紙の模写

このモンステラの葉っぱですが、少しだけアレンジしました。オブジェクト配置後に「メッシュをインポート」というボタンを押すと修正できます。修正パネルから要素を選択でき、画像右側のように葉っぱを赤色に変更することも可能です。私は、画像左側の赤丸のところにある3枚の葉っぱと茎を削除しました。

表紙の模写

完成したのがこちらの画像です。最終的に少し横長にレンダリングして、葉っぱの色味のトーンも少し修正しています。

表紙の模写

修正した理由は、生け花のルールがあったからです。私は生け花には詳しくないのですが、生け花に詳しいお友達の話を聞くと、「真(しん)・副(そえ)・体(たい)」ということを言われました。その時は何のことかわかりませんでしたが、きれいに見せるための画像のようなルールがあるそうです。CGや建築以外のことをたくさん勉強することも、きれいなパース作りにつながるということに気付かされました。

模写の実例

表紙の模写

模写の実例を紹介します。こちらの画像は、講演に来ていただいている増田望美さんが作った模写です。望美さんも私の生徒で、「お正月の冬休みの期間中にポートフォリオを作りたい」という相談を受けました。そこで模写をするよう勧めました。時間がかかるオリジナル作品に比べ、模写はやることが決まっているので作品数が多く作れるためです。

表紙の模写

結果的に、彼女は限られた時間で2〜3点の模写を作りました。この画像も、彼女が好きな写真集の中から選んだものです。少し指摘するとペン立てなどの大きさが異なっていますが、模写をするとたくさんのことを学ぶことができます。

表紙の模写

こちらの画像は、裏表紙を作ってくれた印田さんが3dsMax coronaで作った模写です。彼女のすごいところは、ホテルやカフェなどの現地に行って寸法を測ることで、プロのカメラマンが撮ったものと同じように作れるところです。

この短期間でこのクオリティというのは、何を選ぶのかも大事だということも改めて実感します。私が選ばない素敵なものを選ぶため、CG以外にもインテリアの勉強をしているからこそだと思っています。今回皆さんにも共有したいと思い、私の作品ではないのですがお見せすることにしました。

まとめ

表紙の模写

これから始める方には、模写をすることをおすすめしています。そして、模写するもの迷ったら表紙を選べば間違いありません。また、見極める力を身につけることに関しては、さきほどの生け花がひとつの例になります。そういったさまざまなことを勉強したことが全て最終的に力や経験になり、指示出しなどもできるようになると考えています。

表紙の模写

最後に少し宣伝になりますが、インテリアコーディネーターの方と一緒にお仕事をしたことがきっかけで、インスタグラムで『and C』という名前のアカウントを作りました。たくさんのコーディネートやCGのノウハウなどをこれから公開したり、情報を出していきたいと思っています。もしよかったらフォローしてみてください。

また、この登壇をきっかけに『note』も作りました。3dsMaxの物語の小説なども書いてあります。興味がある方はぜひ見てみてください。

表紙の模写
会場の雰囲気2

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