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建築ビジュアライゼーション MeetUp 第四弾
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建築ビジュアライゼーションMeetUp第四弾 レポート Vol.2『建築教育のアップデート』

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建築ビジュアライゼーションMeetUp第四弾 レポート Vol.2『建築教育のアップデート』

建築ビジュアライゼーションMeetUp第四弾 レポート Vol.2
『建築教育のアップデート』

2019年12月に開催しました「建築ビジュアライゼーションMeetUp 第四弾」。
2回目は、広島工業大学環境学部建築デザイン学科 准教授
杉田 宗 さんによる講演です。

【Too主催】建築ビジュアライゼーションMeetUp第四弾 レポート Vol.2

【Too主催】建築ビジュアライゼーションMeetUp第四弾 レポート Vol.2『3建築教育のアップデート』

『建築教育のアップデート』と題して、

・今建築教育が抱えている課題
・世界ではどの様な建築教育が行われているのか?
・広島工業大学でスタートしたデジタルデザイン教育
・杉田宗研究室/Hiroshima Design Labの活動・研究

について、お話いただきました。

尚、本セッションは、当日の映像公開を杉田さんご本人より、許可いただいております。どうぞこちらも合わせてご覧ください。

広島工業大学環境学部建築デザイン学科 准教授 杉田 宗 さん

広島工業大学環境学部建築デザイン学科 准教授 杉田 宗 さん

皆さん、こんにちは。広島工業大学で建築の教育に携わっている杉田と申します。今日は宜しくお願いいたします。
今日はいろいろなバッググラウンドな方がいらっしゃいますが、建築教育の視点から、情報技術がどのように建築業界に関わっているのかを説明していきます。

まず、私が大学院時代にセシル・バルモンドのスタジオで取り組んだ作品を見ていただきましょう。
私は、群知能を設計手法に取り入れられるのか、ということを研究していました。

空間には、時間を経て人が使っていくことにより、アクティビティの余韻、いわゆる空間に残る手垢のようなものが蓄積されていきます。
「人間の行動のなかにも、アリのフェロモンみたいなものがあり、蓄積されることで空間が定義されるのではないか?」という仮説のもと、研究を進めました。

実際にその定義をもとに、「人がどういったアクティビティを誘発して、そのアクティビティがいろいろな人を巻き込みながら、建築が作られるという手法ができるのでは?」という点からアルゴリズムを考えながら、プログラムを書いています。

人がどういったアクティビティを誘発して、そのアクティビティがまたいろいろな人を巻き込みながら、建築が作られるという手法ができるのでは?

フェロモンが濃ければ濃いほど、物質化していきます。それが建築の組織になっていくイメージです。スティック(建築資材)も知能をもっていて、周りの動きを鑑みながらどういった向きでどういった組み合わせをすれば良いのかを判断しながら、、サイトのなかにエージェントを走らせて空間を作らせていきました。

パビリオン 空間イメージ

パビリオン 空間イメージ

こちらが、同様の手法を使い、実際に作ったパビリオンです。一定のルールに従い、近似した並び替えを行うようなプログラムを書き、それを見ながら一つずつオブジェクトを作っていきました。

パビリオン

パビリオン

また、東京大学の小渕研究室では割り箸を使ったパビリオンを建設したり、より実用的な商品棚のデザインに応用しています。

割り箸を使ったパビリオン(東京大学 小渕研究室)

割り箸を使ったパビリオン(東京大学 小渕研究室)

情報技術の進化は、建築に何をもたらすのか??

さて、ここからは「新しい建築」と「新しい働き方」の2つの観点から、話を進めていきます。

「新しい建築」と「新しい働き方」の2つの観点

「新しい建築」と「新しい働き方」の2つの観点

今、この2つは、別々なベクトルとして存在している状態です。というのも、コンピュータを使って「新しい建築」を作ろうとしている建築家が世界中には沢山います。
その一方で、コンピューターを活用することで「効率化を求めて働き方を変える」ということを考えている人もいます。設計業務をBIMに移行させるようなことはこちらに含まれると思います。これら2つは、使う技術やツールは共通しますが、根本的に性格が違うことで、目的が明確でないと、混乱する原因にもなります。

しかし、これからの時代は、この2つの違いを理解した上で、この2つを両立させるに、アウトプットとプロセスを同時に変えていく必要があります。10-20代の学生たちには、「新しい働き方を改革しながら、その先に新しい建築を作る」という意識をもたないと、情報技術の革新は出てこないのではと、考えています。同時に変えていく意識ですね。

例えば、アメリカのサイアーク建築大学には、各学生の机に3Dプリンタが、一人一台用意されています。昼にRhinocerosAutodesk Mayaを使ってモデリングしたものを、夜プリントアウトして、次の日皆でみる。これを当たり前のようにやっています。日本とは大きな教育の差があります。

また、ロボットが教育や研究機関に導入されており、どうロボットを使って建築を作るのか、生産に生かしていくのかが研究されています。
このロボットの最初の研究は、スイスのチューリッヒ工科大学。10年前に自動車の工場にあったロボットをレールに載せ、ホームセンターで売っているようなレンガを積み重ねていく研究を作ったのが有名です。

「新しい建築」と「新しい働き方」の2つの観点

「新しい建築」と「新しい働き方」の2つの観点

プログラムを介して、複雑な形状に並べていくようにすれば、人間が作れないような建築ができるんですよね。そのためには、ロボットとコミュニケーションができる人間が、建築の業界に入っていかないといけません。
この研究はどんどん発展していきます。今度は、コンテナにロボットを乗せて、スイスからニューヨークへ運び、パビリオンを作ったりしています。

建築にロボットを取り入れた、新しいコミュニケーションと働き方

ここで、MX3Dというオランダのアムステルダムにある研究機関の事例を紹介しましょう。ロボット・アームの先に、鉄の3Dプリンタをつけて構造物を作っていきます。これは、細い運河の上に架かる橋となります。

『MX3D Printed Bridge Update 2018』

研究が街に使われるものにまで応用されているのが、最近の特長ですね。

また、スイスのチューリッヒ工科大学には、「dfab」という建築のためのロボットの施設が出来ています。ここでは、人間とロボットが協力して建物のデザインをし、建設していく研究されています。開始当初より12年間分の大きな研究予算を手にしたことで、多くの研究者が集まる場を提供できています。その最初の4年間の研究成果をまとめたものがこちらです。

『The first 4 years of the NCCR Digital Fabrication』

建築の未来を伝えている映像、と受け取って良いでしょう。

これらの海外の事例から、新しい建築を新しい働き方で開拓している過程が、確認できます。日本でもそろそろ始めていかなければ、これまでの建築業界を次の時代につなげていくのが難しくなるのでは、と思っているところです。

今、若い世代には、大きいチャンスが沢山あります。積極的に新しい技術を吸収し、社会に出ていく分野になりうる可能性が建築にはあるのです。

そのためには、技術の進歩だけではなく、それを扱う人間を増やさないと、革新は生まれていきません。日本の建築業界には様々な技術がありますが、ごく一部の人しか使えていないのが現状です。そのうえで、大学の教育は大事になると強く感じています。

広島工業大学のデジタルデザイン教育

それではここから、広島工業大学デジタルデザイン系授業のご紹介をさせていただきます。
2016年から広島工業大学では、「デジタルデザイン教育」を推し進めています。私は1年生後期から2年生までの2年間で、3つの講義を行っています。

杉田さんの講義担当エリア

 

この授業が始まる前に、入学直後に行う「デザイン・ワークショップ」というオリエンテーションがあります。

すべては手からはじまる

入学者全員に一泊二日の山の合宿をします。まず、森で自然の木を切り、角材にまで加工し、最後にその木が椅子に変わるまでの工場の行程を見学・体験する。自然の産物の木が我々の生活に関わるまでのプロセスを観察する機会を作ります。

デザイン・ワークショップの風景

デザイン・ワークショップの風景

その後、実際の15週の授業で、ベンチの設計をし、カットして組み立てるまでを行います。

なぜベンチなのか、それは以下の4つのものが学べるためです。

①建築計画:奥行きや高さ、人間工学的な学問領域
②構造力学:強度は構造力学
③建築生産:どうつないでいくのか
④意匠:建築デザインの内容が統合されたものが形になっていく

すべての内容が一つのベンチ作りに含まれているんですね。
ここでは、PC作業は全くありません。まず既存の木工(ものづくり)に触れることを行います。

1〜2年生で、基礎からデザインを覚えていく

その後に、デジタルデザイン系授業が始まります。ドアノブを作ったり、渡廊下を設計する課題では、手すりや階段をGrasshopperで作り、Rhinocerosで全体の形を決めていくことができるようになります。

その後に、プログラムが始まります。ドアノブを作ったり、手すりや階段をGrasshopperで作り、Rhinocerosで全体の形を決めていくことができるようになります。

2年前期では、実際のものに具現化していく授業になっています。モデリングはここまでで習得しているので、Autodesk Fusion 360を使ったレンダリングやCAMデータの書き出しなどを追加で教えます。

こちらは、レーザーカッターを使った課題です。材を組み立てながら、プロトタイプで橋を作り、強度を上げていくことを覚えます。
何キロに耐えられるのかを考えるのですが、負荷をかけてみて500g持たない学生もいれば、5kgもつ学生もいて、「これもデザインなんだ」というのを体感してもらいます。イメージをデザインに落とし込めない学生が、この時点ではまだ多いですね。

橋のデザイン

 

別の課題で椅子を作る際にも椅子が重ねられたときにどう見えるのかを考えていきながら、モックアップを作って組み立てまで行います。

椅子のスタッキング考察

 

ここまできたら、最後のBIM実習に入ります。より建築に特化したソフトとしてAutodesk RevitとArchiCADの2つのBIMを、2つのグループに分かれて学びます。使用するソフトは違いますが取り組む課題は同じなので、ある種の競争意識が生まれ、グループ内の結束感が強まるように思います。学年の半分くらい、60名程度の学生がここまでのデジタルデザイン系授業をクリアして、3年生では各ゼミに配属されていきます。

BIM実習

BIM実習

図面の書き出し

図面の書き出し

BIM実習を受けた60名の学生

 

研究室でのプロジェクト学習

その後、3-4年生は、研究室に配属されます。これはうちの研究室の内容です。3年生は、デジタルファブリケーションの拡張版を行います。パビリオンを作ったり、道具を教えながらプロトタイピングをする方法を学びます。また、4年生で卒業研究をし、院生を含めた全員でプロジェクトに関わる活動をしています。

杉田さんの研究室プログラム概要図

杉田さんの研究室プログラム概要図

これは、3年生が作ったデジタルファブリケーションの活用例です。このようなパビリオンを作ります。

デジタルファブリケーションを取り入れたパビリオン

デジタルファブリケーションを取り入れたパビリオン

研究と学び

建築情報学系の研究室に属し、「様々なソフトに詳しくなる」では、不十分だと考えています。どんなソフトをどのように使い、社会に貢献するのかを各自で考えてもらうためには、実践を伴う研究やプロジェクトに関わる必要があり、それが出来れば学生は何倍も成長していくのではと考えています。

デジタルパブリケーションを取り入れたパビリオン

研究目的

たとえば、こちらの研究をご覧ください。
「Roomba:BIMとロボットの連携による清掃システムの開発」です。

Roomba:BIMとロボットの連携による清掃システムの開発

Roomba:BIMとロボットの連携による清掃システムの開発

ロボットとBIMの情報を使うことで、新しい維持管理が可能になるのではないかと研究しています。ロボットに建物内を走りながらいろいろな情報を取らせたり、ロボットが自分の動き方を理解しながら仕事をすることを想定し、BIMの情報でルンバを動かし、建物内の情報をBIM上で可視化する方法などを実践しています。

また、デジタルファブリケーションのプロジェクトとして、インテリアの仕事を実践しています。NC加工された木組みを、実際に現地で組み立てるなどを学生とともに取り組んでいます。学生がリアルに課題をみつけて学んでもらうことを重点に置いています。

まとめ

こういったプロジェクトを進めながら、産学連携や社会活動に、何かしらの新しい働き方が隠れているのではないか、と感じられてきました。こちらが、その概念図となります。

「新しい建築」と「新しい働き方」を繋ぐ、産学連携と社会活動、研究

「新しい建築」と「新しい働き方」を繋ぐ、産学連携と社会活動、研究

このイメージを検証しつつ、これからも学生とともに、「新しい建築」と「新しい働き方」を視点に、若者を育てていきたいと思います。
本日はご清聴いただきまして、誠にありがとうございました。