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建築設計におけるコンピューテーショナル・デザインの技法と応用
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第5回:デジタルツールと伝統技術の融合 -Voronoi Tatami TESSEを例として-

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第5回:デジタルツールと伝統技術の融合 -Voronoi Tatami TESSEを例として-

Who We Are

2007年に設立。現在、豊田啓介、蔡佳萱、酒井康介の3名のパートナーを中心に、国籍もバックグラウンドもさまざまなメンバーが集まり、東京・台北の二拠点で活動する建築デザイン事務所です。
ここでは全6回のコラムを通して、私たちが普段、実務の場で多用している、Rhinocerosと、ヴィジュアルプログラミングツールのGrasshopperを中心に、<シミュレーション、ファブリケーション、ビュジュアライゼーション、タイリング>など、建築を主軸にプロダクトデザインから都市開発までさまざまな規模や分野において応用可能なコンピューテーショナル・デザインの技法をプロジェクト実例を交えつつ紹介します。

手仕事とデジタルツール

近年、生産の分野においては、デジタルファブリケーションの発展によって何かを形にするというハードルが下がってきています。一方で、手仕事でなければ生成できないプロダクトも多々存在することは明らかであり、これらについてもデジタルツールを適応させて、新しい価値を生み出すことへの取り組みが必要となっています。

そこで連載コラム第5回は、「デジタルツールと伝統技術の融合 -Voronoi Tatami TESSEを例として-」と題して、伝統産業における職人の技術をどのようにアルゴリズムへ組み込むかについて考察します。

2019年に正式ローンチを行ったプロジェクト「Voronoi Tatami TESSE」は、高い技術力をもつ畳製作会社、株式会社国枝と共同で開発したプロダクトです。この、畳を製作する上でのデジタルツールの使用方法や実装した際の発見・工夫についてまとめました。

なぜボロノイ図??

Voronoi Tatami TESSEは、その名の通りボロノイ図を基にしてデザインを行っています。ボロノイ図は平面上の母点が、他のどの母点と最も近いかについて領域を示した幾何学図形であり、各母点を結んだ直線は、ボロノイ図を構成する直線によって二等分されるという性質を持っています。トンボの羽やウミガメの甲羅、キリンの体の模様など自然界に頻繁に表れ、実際的には情報処理の分野などに応用されています。

Voronoi Diagram
Voronoi Diagram
キリンの体表
キリンの体表

今回TESSEに使用した理由の一つとして、ボロノイ図が平面充填という数学的な概念と非常に相性が良いことが挙げられます。つまり、ボロノイ図を使用すれば、基本的にどのような形状の部屋であっても、畳を敷き詰めるこごたできるということです。ちなみに、TESSEという製品名は平面充填の意である“tessellation”が由来となっています。

畳の製作方法と業界の現状

TESSEがどのように生産されているかを説明するため、まず畳の製作方法について簡単に説明します。

1_収穫した「い草」を泥染めし、その中でも良質ない草を選定して畳表を織り上げます。TESSEでは熊本県産の「ひのさらさ」という品種を使用しています。

2_よく乾燥させた藁を重ねて畳の芯にあたる畳床を作成し畳の形状に合わせて切断します。藁の代わりにポリウレタンフォームを使用して断熱性を高めたものも存在します。TESSEの場合は、できる限り国産の有機素材を用いることを前提とし、気密性の高い現代建築との相性を考慮して、原則としてクッション性、防虫性に優れたひのきチップの畳床をベースにしています。また、畳の製造を受け持つ国枝では、noizで生成した畳のCADデータから切削角、畳表の巻き付け分の距離などをパラメトリックに調整した上で、デジタルデータからNCルーターで直接畳床の切り出しを行っています。

3_畳床を畳表で縫い付け、縁を畳縁で緊縛することで完成となります。近年は、畳表は機械縫いが主になっており、TESSEでは角の機械縫いが困難な部分のみ手縫いを行っています。また、畳縁に関しては、あえて使用しない縁なし畳とし、通常の畳よりも高い技術力を必要とするものの、よりミニマルで現代的なデザインを実現しています。

ひのきチップを圧縮した畳床
畳床をNCルーターで切断
畳表を畳床に機械縫いで束縛する
 畳の角部分を手縫する
左上: ひのきチップを圧縮した畳床 右上: 畳床をNCルーターで切断 
左下:畳表を畳床に機械縫いで束縛する 右下: 畳の角部分を手縫する 写真:Munemasa Takahashi

このように畳の製作には、い草の生産から畳表の縫い付けまでに様々な工程が存在し、各工程に専門的な技術が必要となりますが、生活様式の変化、職人の高齢化などの問題により衰退していることは確かです。また、流通しているい草の多くが中国産であり、価格競争を超えて国産い草の品質の良さを伝えることができるような工夫が求められています。

アルゴリズムとして職人の手仕事を記述する

この章では、これらを満たすアルゴリズムと製作図の作成を、3D CADソフトウェアのRhinocerosとプラグインであるGrasshopperを使用してどのように行ったかについて説明します。

GH内のコンポーネント配列

GH内のコンポーネント配列

1_Boundary Line(部屋形状)、母点の入力

最初に、採寸や3Dスキャニングで得た部屋の形状データをRhinoceros内でライン化し、製作する畳のピース数(畳の全体における分割数)分の母点とともにGrasshopperに入力します。部屋の形状は、基本的に2Dラインで表記できるものであればデータとして入力することができます。例として、4畳半(2700mm×2700mm)、12ピースのボロノイ畳を製作するとして説明を行います。

Boundaryと母点の入力

Boundaryと母点の入力

2_制約の判定

次に、国枝との実験を基に設定した畳の製作における寸法、構造上の制約において、1の情報をもとに作ったボロノイ図が製作可能かどうかの判定を行います。実装する上で様々な制約がありますが、今回は形状に関する主な制約として「畳のエッジ長さの制限」、「畳の角度の制限」、「畳のサイズ制限」の3点について説明します。

■ 畳のエッジ長さの制限
畳表の剛性や角の折り込み、重ね合わせなどを考慮すると、各畳の辺は最小50mm必要となります。そのため、パターンの生成段階において、辺の長さが50mm以下となるものは自動的に候補から排除されます。

■ 畳角度の制限
畳床の構造的な制約や製品としての強度などの点から、畳の頂点の最小角度は30度に設定しています。そのため、頂角が30度よりも小さい多角形を含むパターンは自動的に排除されます。

■ 畳のサイズ制限
畳の表面を覆うい草製の畳表にも規格寸法が存在するため、多様な多角形になるボロノイ畳の各ピースがほぼ3/6判の畳表に収まることが条件となります。畳表に対してどの向きに配置しても収まらないピース形状を持つパターンは自動的に排除されます。

畳のエッジ長さの制限
畳のエッジ長さの制限
畳角度の制限
畳角度の制限
畳のサイズ制限
畳のサイズ制限

3_目地方向の調節

TESSEにおいて畳の目地の向きは、各ピースが畳表に収まる角度の範囲でユーザー自身が選択でき、その目地への光の反射が織りなす銀から濃鶯色までのグラデーションも大きな魅力の一つです。Grasshopper内の操作としては、各ピースを1~180度まで回転させて3/6判に収まった角度のみを表示します。次に、目地の方向をnumber sliderを操作することで回転させます。number sliderの値がどのような数字となっても、最初に抽出した角度の範囲で目地が選択されるように制限をかけています。

目地範囲

目地範囲

目地調節

目地調節

4_検討結果の図面化(Bake)

Grasshopper内で行っていた検討をBakeすることにより、畳製作用の図面を描画します。描画内容としては、畳のエッジ長さ、角度、目地、畳の形状を内接できる最小の四角形のサイズとなります。これらを畳製作会社に送付することで、畳の製作がスタートします。

畳の図面化

畳の図面化

デジタルツールで変化する素材の見え方

一般に、畳の配置や分割は部屋のサイズに応じて決まり、1:2の長方形ユニットをベースとして直行系の中でパターンを生成してきました。広間や茶室など、畳のパターンとその目地は、その部屋に座る人の立場と階層を図式化し、社会構造の反映ともいえる状況を伝統の中に作り出してきました。一方で、ボロノイ図は縦・横といった支配的な軸や系を持たない幾何学図形であるため、このような制約とは関係なく自由に敷き詰めることができます。

加えて、TESSEは畳表の目地の向きを自由に変更でき、不均一に並べられた異なる向きの目地は様々な方向で光を反射します。そのため、同じい草を使用しているにもかかわらず、光源の位置や天気、人の動きなどに応じて常に移り変わる、多様な表情をみせます。

 Voronoi Tatami TESSE 写真:Yasuhiro Takagi

Voronoi Tatami TESSE 写真:Yasuhiro Takagi

以上ようなTESSEのもつ製作プロセスの動性や、モノとしてのパッシブなインタラクティブ性をあえてメディアアートとして提示したのが、今年3月に開催されたMedia Ambition Tokyo 2019での展示となります。プロジェクターから投影される映像は、プロジェクションマッピングにおいてよくイメージされるカラフルなものではなく、ただ光の強弱を変化させる操作のみでデザインされています。しかし、様々な色に見えるTESSEの特徴により、プロジェクションの映像が様々な色を持っているかのような見え方をします。

Media Ambition Tokyo 2019 展示 展示作品: noiz + 国枝 映像: Ryo Shiraki

このように、伝統産業の生産工程の中に現代的なデジタルツールを取り入れることで、今まで顕在化しなかった素材の特徴が浮かび上がり、新たな可能性を見出すことができます。デジタルツールの使用による単なる効率化の向上のみならず、アウトプットされたプロダクトが新たな価値を獲得したというこの実例は、他の既存産業の価値を再評価するカギとなり得るかもしれません。

マスカスタマイゼーションの実装と伝統産業の可能性

noizではカスタマー自身がWeb上で畳パターンの生成を行えるTatami Generatorというサービスを開発しています。畳産業は寸法精度を担保するために、業者が直接部屋の採寸ができる近所の範囲での販売に限られていました。しかし、3Dスキャニングの精度の向上、機材の普及はそのような制約を取り払う可能性を十分に持っています。将来的に、TESSEでは3Dスキャナーをカスタマーへ送付し、自身で部屋を採寸、Web上のTatami Generatorへの情報の入力をしていただくことで、ボロノイパターンの生成から畳の発注までできるようにすることを目指しています。

カスタマーとWeb上のアプリケーションにおけるネットの双方向性の強化によって、TESSEは理論で提唱されてはいるものの、明確に活用されている事例がほとんどない「マスカスタマイゼーション」の概念を実現した世界的に珍しいプロダクトとなっています。こうした生産と流通体系の変化によって、TESSEのように身近な範囲で完結していたマーケットがインターネットによって世界中へと拡大し、斜陽といわれているような既存産業の価値も同様に大きく変化する可能性があります。

また、物・産業の価値が再評価されうる可能性の創造のために、人の手で生み出される技術を直接プログラムとして記述するのではなく、TESSEで提示したような何か別の要素(今回はボロノイ図)を媒介として技術を表現することは、既存の産業プラットフォームを一から刷新するのではなく、人々が長い年月を経て積み上げてきた技術を尊重しながらアップデートするという目的に適していると思います。

noizでは既存の産業における技術を尊重しつつ、デジタルツールを生かして産業の新たな価値を再編集する試みを続けていきたいと考えています。