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建築設計におけるコンピューテーショナル・デザインの技法と応用
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第6回:時間軸のビジュアライゼーション ━ 動的な設計のあり方

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第6回:時間軸のビジュアライゼーション ━ 動的な設計のあり方

Who We Are

2007年に設立。現在、豊田啓介、蔡佳萱、酒井康介の3名のパートナーを中心に、国籍もバックグラウンドもさまざまなメンバーが集まり、東京・台北の二拠点で活動する建築デザイン事務所です。
ここでは全6回のコラムを通して、私たちが普段、実務の場で多用している、Rhinocerosと、ビジュアルプログラミングツールのGrasshopperを中心に、<シミュレーション、ファブリケーション、ビジュアライゼーション、タイリング>など、建築を主軸にプロダクトデザインから都市開発までさまざまな規模や分野において応用可能なコンピューテーショナル・デザインの技法をプロジェクト実例を交えつつ紹介します。
ここまで5回の記事を通して、弊社で行ってきたプロジェクトをベースにGrasshopperやゲームエンジン、アニメーションソフトウェアといったビジュアライゼーションとしての様々なソフトウェアの使い方を紹介してきました。
設計におけるビジュアライゼーションといっても、一般的なレンダリングに限らず様々な形があることを感じていただけたと思います。

そんな本連載もこのコラムで第6回、最終回となります。
今回は初心に戻り、インスタレーションにおけるRhinoceros+Grasshopperの活用事例を再度お届けします。とはいいつつ切り口は変えて、“時間軸のビジュアライゼーション”というテーマを掲げながらRhinoceros+Grasshopperの枠を超えた設計の考え方そのものの変化の片鱗をお見せできれば幸いです。

DNP Milan Design Week “PATTERNS AS TIME”

PATTERNS AS TIME

《PATTERNS AS TIME》は、2019年のミラノデザインウィークにおいてDNPが出展したインスタレーション作品であり、中央で対比させた空間のうち片側のデザインをnoizが担当しました。

noizエリアでは、DNPが開発に関わる電子ペーパーを用い、その特有の柔軟性、経時変化を許容するプログラム性、自発光とは異なる独特の質感を活かし、自然界に多様に現れるパターンのエッセンスを展示空間に凝縮することを試みました。電子ペーパーが組み込まれた“ゼブラ”チェアは、自然界に多様にみられるチューリングパターンが浮かび上がったり消えたりすることで、背景に溶け込んだり現れたりを繰り返します。同様に電子ペーパーが組み込まれた“クラゲ”スツールは、海中をただよう生物の幼生のように、ゆっくりと呼吸するように色のグラデーションを変化させます。

DNP ”patterns as time” at Milan design week 2019

インスタレーションにおいて重要なのは演出の設計です。建築事務所である以上、物の構成や質感を用いて空間の在り方を提案するのが仕事ですが、本プロジェクトにおいて言えば電子ペーパーの変化をどのように制御するかの演出の計画もまた、広義の意味で質感の制御による空間の設計になります。

電子ペーパーが起こす変化はダイナミックでありながら単純でもあり、いわゆる液晶モニターのような自由な演出が可能なわけではありません。具体的には、黒/チューリングパターンの2つのテクスチャを以下の2通りの方法で切り替えています。

1. 全面同時に徐々に変化する
2. 片側から少しづつ変化していく

その切り替えの時間は0~8秒で自由に設定できますが、切り替えに要した時間の分次の切り替えまで待つ必要があるなど、色々な制約の中で計画する必要がありました。そのシンプルな演出の積み上げで、いかに空間全体が生きているような印象を与えられるのかにこだわっています。

同時に、演出の設計後には電子ペーパーを扱うエンジニアが別途プログラムとして書き込む必要があり、建築における図面のように設計者・エンジニア双方が理解できる形でビジュアライズする必要がありました。

時間軸の設計と記述

時間軸を設計・記述し、共有する最も適した方法は何だろうか。
その問いに対して今回は『楽譜』の考え方を利用しました。

楽譜

楽譜の原型は紀元前より存在し、西暦1000年頃には現状の楽譜の形が出来上がっていました。世界共通で解釈可能であり、音楽という時間の流れを正確に伝えることが可能なこの仕組みは色々な分野で応用元として参照されてきたものでもあります。

現代のクリエイティブの現場において時間軸を設計・表現する手法を見てみると、個人的観点ではありますが、以下の2種類に大きく分類できるのではないでしょうか。

横タイムライン型の時間記述
本コラムの第4回で数多く紹介しているAfter Effectsなどのソフトでよく使われているものです。横軸に時間を取り、そこにエフェクトや素材をあてはめていく仕組みは楽譜の仕組みと極めて類似します。ぱっと見で全体の流れ・雰囲気がわかることが利点であり、現代における映像や音楽制作のほとんどではこのような仕組みを用いて計画されます。
代表的なソフトとしては:After Effects , Premiere Pro, Final Cut Pro, ….etc.

代表的なソフトとしては:After Effects , Premiere Pro, Final Cut Pro, ….etc.

ノード型の時間記述
こちらはプログラミングの概念が浸透した中で電子音楽の世界で使われるようになったものです。ルールベースで複数の時間軸をコントロールしていくことに向いており、条件によって分岐するなど楽譜では実現できないインタラクティブ性を表現できます。
楽譜ほどの可読性や汎用性はありませんが、ある程度知識があれば全体を見るだけで流れが大まかに理解でき、改変も容易であることから楽譜に代わる設計図として注目されています。近年はUnreal EngineにおけるBluePrintに見るようにゲームの分野でも活用が広まっています。
代表的なソフトとしては:MaxMSP, Pure Data

ノード型の時間記述

Grasshopperを利用した時間軸の設計

《PATTERNS AS TIME》で実際に時間軸の設計と記述に用いたのがRhinoceros+Grasshopperでした。
動画作成ソフトやゲームエンジンの利用も考えましたが、できるだけ短時間で設計、電子ペーパーの制約の検証、そのビジュアルでの確認、指示書の作成までを通貫して行うにはRhinoceros+Grasshopperが適していると判断しました。
Grasshopperは仕組みとしてはノード型の時間記述に分類されますが、ほかのソフトと違って時間をコントロールするコンポーネントがほとんど存在しません。そのためRhinoceros上で楽譜のような表現を行い、Grasshopperでその編集やビジュアライズを行っていく形を取りました。
横タイムライン型とノード型のいいとこ取りといえます。

横タイムライン型とノード型のいいとこ取

上画像が実際に作成した設計図です。楽譜と同じように横軸に時間を取って、13個ある家具(13枚の電子ペーパー)の演出の種類と秒数、演出を起こさない待機時間をまとめています。

演出の考え方としては、普段は個別のリズムで呼吸をしている13体の生き物が、ある時突然揃った瞬間に、空間全体が生きているようなダイナミックな動きを作り出すことを目指しています。ランダムさと統一感の自然な繋げ方が肝となります。

楽譜と同じような記述方法を行っていることで、何となく全体がばらばらに動いているのか連携した動きをしているのか、激しく移り変わるのかゆったりと移り変わっているのかが、読者のみなさんもぱっと見で理解できるのではないでしょうか。

楽譜を作成すると同時に、その結果のプレビューもアニメーションとして上の動画のように行われます。また、実際にはアニメーションを再生しながら自由に視点を変更することもできます。行っていることはゲームエンジンによるリアルタイムビジュアライゼーションに近いですが、元々3Dを扱うことに特化したソフトウェアであり、そのための機能が色々と組み込まれているので、いちいちシェーダーを作るといった手間を掛けずに簡単・直観的にビジュアライゼーションやその調整が可能なのがRhinoceros+Grasshopperの利点です。

Rhinoceros+Grasshopper

点を好きなレイヤーに置いていくだけの極めてシンプルな工程で、実際の設計は進められます。レイヤー名で演出の種類と長さが変わります。

建築設計における時間軸の設計の重要性

建築の場合は設計し記述する方法は図面の形を取るのが一般的です。しかし、近年ではBIMという設計から施工までのスパンを時間軸でコントロールする考え方や、本コラム第2回で取り上げたゲームエンジンによるリアルタイムなビジュアライゼーションなど、時間軸を取り入れた表現方法に注目が集まっており、新しい “楽譜” の形が出来上がるのも近いのかもしれません。

建築設計における時間軸の設計の重要性

BIMのように設計をパラメトリックにすることで、今まではそれぞれの専門家が設計・施工・運営という順で独立に進めることしかできなかったプロセスが、全体の時間軸を行ったり来たりしながら様々な要素を同時に検討できるようになります。

設計手法に限らず、建築の空間自体も時間軸が設計され、“固定されたもの”という固定観念から解き放たれれば、体験がより動的かつ人の心を動かす空間が作り出されるはずです。時間軸のとらえ方にもいろいろなあり方が存在し、その設計の仕方と記述方法が極めて重要になってくるのではないでしょうか。

そう考えると今までの5回のコラムも、時間軸の設計への考え方の布石であったとも捉えられるのかもしれません。

Grasshopperの本がリニューアル

幅広い使い方のできるRhinoceros+Grasshopperですが、今年に入りRhinocerosがVersion6へとアップデートされ、Grasshopperも標準搭載されました。また、細かい機能にもいろいろとアップデートが入り、さらに使いやすいソフトウェアへと進化しています。弊社ではRhinoceros+Grasshopperの入門解説書を以前から販売していますが、先日ついにRhino6対応改訂版を出版しました。

全編通してRhino6へとアップデートされているほか、スタッフが今まで実務で使ってきた中で蓄積したノウハウや設定などを元に、細かな点にも修正を加えています。

新しくGrasshopperを始める人だけでなく、もう少し深く掘ってみたいというような人にもぜひ手に取っていただきたいです。周りの新しく始めようとしている人へもぜひ紹介を!!

最後に

本コラムで全6回を終え、ついにお別れの時間です。とはいえここまで紹介してきたソフトウェアや手法は極めて発展途上であり、刻々と変化していく状況でもあります。

ぜひ色々なところにアンテナを張り巡らせ、様々な活用事例を参考にしながら自分ならではの活用方法を見つけ出してください。noizからも媒体を変えながら様々な発信を行っていく予定ですので、そちらもどうぞお楽しみに。