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建築設計におけるコンピューテーショナル・デザインの技法と応用
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第1回:インスタレーションにおけるGrasshopperの活用法

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第1回:インスタレーションにおけるGrasshopperの活用法

Who We Are

2007年に設立。現在、豊田啓介、蔡佳萱、酒井康介の3名のパートナーを中心に、国籍もバックグラウンドもさまざまなメンバーが集まり、東京・台北の二拠点で活動する建築デザイン事務所です。

ここでは全6回のコラムを通して、私たちが普段、実務の場で多用している、Rhinocerosと、ヴィジュアルプログラミングツールのGrasshopperを中心に、<シミュレーション、ファブリケーション、ビュジュアライゼーション、タイリング >など、建築を主軸にプロダクトデザインから都市開発までさまざまな規模や分野において応用可能なコンピューテーショナル・デザインの技法を、プロジェクト実例を交えつつ紹介します。

noiz(以下、ノイズ)では建築を軸に、内装やプロダクト、都市計画からインスタレーションの制作まで、多岐に渡るプロジェクトのデザイン設計を行っています。これらすべての設計工程において欠かせないツールのひとつとして、ヴィジュアル・プログラミングツールのGrasshopperが日常の業務に溶け込んでおり、特に3D形状をリアルタイムにチェックし、決定していく必須性はとても高くなっています。

連載第1回目のこの記事は「インスタレーションにおけるGrasshopperの活用法」をテーマとし、Grasshopperの「リアルタイム性」にフォーカスし、その特性を最大限に活用可能なインタラクション系の設計事例を交えつつ、リアルタイムに情報を確認しながら設計する手法を紹介します。

BAO BAO ISSEY MIYAKE Ginza Autumn Window Display(2016) Teppei Nomoto 
写真:Yasuhiro Takagi 
Hermes Taiwan Special Window Display(2017) 協働: noise kitchen写真:Kyle Yu

Flipmata(2014) 協働: Kazuhiro Jo, Whyixd 写真:Kyle Yu

ノイズで行ったインタラクションの事例

 

How we use Grasshopper

《Hermes Taiwan 2017 Special Window Display》は、来場者が風車に息を吹きかけることによってウィンドウ内のオブジェクトが大きく揺れ動き、更にその動きがディスプレイ内にある液晶画面のコンテンツと連動するプロジェクトです。

左右のウインドウに設置した木と馬のモチーフは、それぞれ「やじろべえ」を複数重ね合わせた二重振り子〜四重振り子の構成になっています。重さのバランスで成り立つやじろべえの性質上、このバランス状態を作り出すための構造、ディテールに至るすべてが綿密に組まれており、ヒンジの位置が少し下であったり、錘(おもり)の位置が少しずれているだけで成立しないなど、シビアな構成を設計に落とし込んでいるのが特徴です。このプロジェクトにおいてどのようにGrasshopperが活用されているのか、以下でその断片をお見せします。

Hermes Taiwan 2017 Special Window Display

1. バランスを作る上での概形、錘(おもり)の分布の検討

Rhinoceros、およびGrasshopperは一般的には主に3Dの形状検討に利用されますが、同時に2Dでのスタディにも有効です。

以下はやじろべえを積み上げる際のそれぞれの錘(おもり)の比重と位置関係をスタディした図版です。Rhinoceros上の図形として描画した円のサイズ、点の位置、棒の位置の3つをGrasshopperに対するインプットとすることで、スライダー等はいじらず直感的に全ての検討ができる仕組みとなっています。

やじろべえを積み上げる際のそれぞれの錘(おもり)の比重と位置関係をスタディした図版

2、干渉を含めた形状の検討

Grasshopperの強みは「動きもの」のシミュレーションにも簡単に利用できる点で、Kangarooなどの物理シミュレーション系のプラグインを利用することで、物理に即した動きを作ることが可能です。衝突判定なども物理シミュレーションの一環に含まれるため、利用用途は多岐にわたります。

今回は物理シミュレーションそのものは使っていませんが、動きを与えるためにKangarooのTimerコンポーネントを使用しています。Timerは簡易なアニメーションをGrasshopper上で再現するために、最もよく使うコンポーネントでもあります。ただし、このコンポーネントの欠点は、処理の重さによって動きの速度を制御しきれない点です。動きを正確に制御したい場合には、Max/MSPなどの外部ソフトから通信するといった工夫が必要です。

可動範囲のシミュレーション

可動範囲のシミュレーション

動きを調整している様子

動きを調整している様子

衝突部分のシミュレーション

衝突部分のシミュレーション

3、錘(おもり)の調整とそのディテールの決定

このプロジェクトでは、錘の量や位置がシビアにバランスに影響するため、固定用のL字鋼材などを含めたすべての部材をモデリングし、その比重から全体の重心を割り出しました。Rhinoceros上でレイヤー分けなどによって各オブジェクトに属性を持たせ、その属性をそのままGrasshopperで利用しています。レイヤーを変えるだけで素材が変更でき、各材の位置を変えるだけで重心を表す赤い球の位置を確認することができます。以下の図では錘を実際に動かしてみながら、錘一つはどの重さが最適か、錘調整の可動域はどの幅が最適かを検討しています。

錘の位置調整とそれによるバランスの変化のビジュアライズ

 

4、動きを与えるためのメカニカルな機構の検討

Grasshopperはメカニカルな設計の検討にも役立ちます。カムの動きを正確に検証し、その結果リンク機構などがどのように動くかのビジュアライズも簡単に行うことができます。カムの形を少し変えることで全体の動きがどう変わるのかなど、少しづつ細かくテストしながらの設計が可能です。

機構可動範囲のビジュアライズ

機構可動範囲のビジュアライズ

機構シミュレーションの様子

機構シミュレーションの様子

5、全体の見え方の調整とインスタレーションのコンテンツの仮検討

Grasshopperを使った上記のようなディテールの検討と、Rhinocerosによる全体的なビジュアルの検討を常に行き来しながら調整していくことで、毎回図面として書き出す必要なく、周囲のバランスを見ながらオブジェクトの位置関係やサイズ感などを詰めていくことができます。Rhinoceros上にはレンダリングビューをはじめとした、さまざまなリアルタイムシェーダーが用意されていることも利点の一つです。

3D上でのシミュレーションの様子

3D上でのシミュレーションの様子

Possibility of Rhino + Grasshopper

今回は、インスタレーションにおけるGrasshopperの活用方法を事例を挙げて紹介してきましたが、これらの検討は建築設計における縮図例です。構造や可動機構の検証は、建築における構造や設備の設計、細部の収まりや建具の可動範囲の検討などにそのまま応用可能です。

建築ではこのように複数の属性をまとめて扱いながら、意匠・構造・設備までを行き来しながら設計できるシステムとしてBIMが活用されていますが、今回紹介したGrasshopperの使い方も簡易的なBIMと言えるかもしれません。GrasshopperがRevitなどをはじめとする一般的にBIMと呼ばれるものと違う部分は、機能を自由かつ簡単に自分好みに変えていけること、そして無数のプラグインをとても簡単に組み合わせて使える点です。

ノイズではRevitなどをはじめとしたBIMソフトウェアの活用方法の検討も含めたうえで、映像や音楽など多様なジャンルのソフトウェアを積極的に導入・テストを進めていますが、今でも一番手軽に、そして最も業務に溶け込んでいるのはRhinoceros + Grasshopperだと感じます。今後ともGrasshopperを使いながら、面白い、役立ちそうなトピックが見つかれば継続的に公開していければと思います。

 
記載のない画像はすべてnoiz