2026年7月30日(木)に開催された「建築ビジュアライゼーションMeetUp第9弾」より、ニュージャージー工科大学 准教授 楢原 太郎 氏によるセッション「AI時代の建築ビジュアライゼーション:空間評価と生成AI」の内容をご紹介します。

セッション概要
建築ビジュアライゼーションは、生成AIの登場によって「見せる技術」から「理解し、評価し、設計を支援する技術」へと大きく役割を広げつつあります。本セッションでは、建築設計・AIによる空間評価の研究・映像や没入型作品としての空間表現という三つの領域を横断してきた楢原太郎氏を迎え、個人スケールの実践を軸に、生成AIを制作プロセスへどのように取り入れているのかを、具体的な作品や研究とともに紹介します。
大手ソフトウェア企業や映像制作のプロフェッショナルとは異なる、研究者かつ個人の表現者としての視点から、AIと共創する時代における設計・表現・評価のあり方を考察します。
主催 :株式会社Too
協賛 :オートデスク株式会社
登壇者 :ニュージャージー工科大学 准教授 楢原 太郎 氏
登壇者紹介

ニュージャージー工科大学で准教授をしている、楢原太郎と言います。大手ソフトウェア企業の方や、第一線で活躍される映像制作会社のプロフェッショナルの発表とは、アプローチのスケール感に違いがあるかもしれません。今日は、その点も含めてご覧いただければと思います。
私の活動範囲は大きく三つあります。一つは「建築設計」、二つ目は「AIに空間を評価させる研究」、そして三つ目が「映像や没入型作品として空間を表現すること」です。これらを横断してきたという経緯があります。

まず「設計」についてですが、私は約8年間、設計事務所に在籍した現場経験があります。担当した仕事の一つが、東京の六本木にある森美術館です。当時、ニューヨークでミュージアムの設計を専門とする建築家リチャード・グラックマンのもとでお世話になり、このプロジェクトを担当させていただきました。

複雑な形態を3Dで作成し、構造家や設備設計者、施工業者との共同作業を通じて設計を進めていきました。当時は施工にジョイントベンチャーとして大林組も参加しており、チームで作り上げていく作業でした。

ディテールはかなりカスタムで、ガラスもすべて異なる角度で構成されるなど、細部まで作り込んでいく必要がありました。複雑な形態であったため、この当時から3DのCADを積極的に活用していました。

二つ目の軸は、大学教授としての研究、つまり「理解」のパートです。AIを用いて空間を評価させるという取り組みを行っています。

そして三つ目として、近年は映像を没入型作品として空間を「表現」することにも取り組んでいます。これら三つの領域を横断しながら、日々活動しています。

登壇のきっかけ

昨年、建築パースに特化した国際的なカンファレンス(ASAI)のコンペティションに出展する機会がありました。当時のテーマはAIで、この場で「Thematic Award」を受賞しました。その表彰式に参加したことが縁となり、今回の登壇の機会をいただきました。

都市を媒体とする空間体験へ ― TOKYO LIGHTS2026

最近の作品として、2026年5月に東京都庁で開催されたイベント『TOKYO LIGHTS2026』があります。これは公募のプロジェクションマッピングコンペティションで、過去最多となる400チーム以上、世界65ヶ国から参加がありました。
この作品では、東京都庁のファサードそのものを巨大な映像媒体として使用しました。ビジュアライゼーションが、設計説明のための画像から、都市を媒体とする空間体験へと拡張していった一例として捉えていただければと思います。
コンペティションのテーマは「対話」でした。対話という概念は、いまや人間同士の枠を超えて広がっています。産業革命の時代には機械文明との対話がありましたが、現代では多くの人がAIとの対話を経験しています。GPTのようなツールを通じて、私たちは自らと「似て非なるもの」との対話を始めており、対話という概念そのものが大きく拡張されてきています。こうした現代における対話のかたちを、私なりに表現した作品です。
クライアントがいるわけでもなく、あくまで個人的な思考から出発した表現です。対話の結末として、最後は自然との対話に結びつくのではないかという考えのもと、エンディングを構成しました。プロフェッショナルな審査員が期待するような表現形態をあえて強く意識せず、最近のAIを活用しながら、自分の作りたいものを形にしました。


その結果、約2週間にわたり8回上映され、来場者の投票で最多票を獲得し、「The Audience Award」をいただくことができました。
AIで何ができる?生成AI導入の経緯

創作活動の背景として、生成AIを導入していった経緯についても触れておきます。
こちらは約1年半前に、当時のツールを用いて制作した作品です。人間が時として抱く、「建設への飽くなき欲求」のようなものを描きました。建築家すら介在しないような人々の集合的な行為によって、街が自律的に成長していく様を表現しています。
私自身のきわめて個人的な思考に基づくコンセプトを映像化したものです。AIは同じようなデータで学習され、それをもとにコンテンツを出力するため、表現が平均化していくというジレンマがあります。そうした状況の中で、どのようなオリジナルの表現が可能なのか、そこに挑戦し、いわば反逆したいという思いから制作しました。
かつては、こうした映像を作るための表現技術の習得に多くの時間を要しました。プロの方にとってはあまり感じられないかもしれませんが、一般の人にとっては非常にハードルの高い作業です。以前は自分のPCを一晩中稼働させて一枚ずつレンダリングしていましたが、現在はある程度まで作り込んだうえで、AIに異なるオプションで出力させ、その中から選択して仕上げていくことも可能になりました。その結果、テーマやコンセプト、独自性がより重要になってきていると感じています。
こうした変化は、AIエージェントとともに映像制作を行う時代の到来を示すものだと考えています。振り返れば、図面はかつてインクで手書きしていたものがCADへと移行し、デジタル化が常識となりました。当時は抵抗を感じた人も少なくありませんでしたが、今それに近いパラダイムシフトが起きているのではないかと感じています。
さらに歴史をさかのぼれば、レオナルド・ダ・ヴィンチのように卓越した個人の天才が作品を生み出していた時代から、レンブラント・ファン・レインのように徒弟制度のもとで弟子とともに制作するかたちへと、創作の形態は少しずつ変化してきました。ペンからデジタルへ、そしてAIエージェントとの共創へ。同様のパラダイムシフトが起きつつあることを、日々痛感しています。

この作品は2026年3月頃まで、中国・深圳で開催された「建築・都市ビエンナーレ」において、大型スクリーンで約3ヶ月間展示していただきました。

また、「Architizer Vision Awards」では、スペシャルメンションをいただいています。

制作過程
最適なAIを適材適所で

ここからは、制作過程についてお話しします。建築はフェーズごとに設計を進めるもので、コンセプトから基本設計へと入り、ディテールを詰め、施工図面を描き、プレゼンテーションへと段階が進みます。

現状のAIの発展段階においては、「フェーズごとに最適なAIを適材適所で導入していくこと」が有効だと考えています。一つのツールですべてを完結させることは、まだ難しいのが実情です。
アイデア創発の段階
アイデア創発の初期段階では、テキストから画像を生成する『Midjourney』のようなツールにプロンプトを入力し、ヒントを得たりインスピレーションを受けたりします。ただし、この方法だけでは、プロンプトを打つたびに毎回異なる画像が出てくるものの、そのどれもが偶然の産物であり、狙った形へ意図的に近づけることが難しくなります。繰り返し生成して出てきた絵を眺めては再度生成し直すような状態で、思いどおりのコントロールが効かないのです。
そこで現在は、画像の左下にある設計者が最適と考えるラフなボリューム・形状をまず作成し、それに対してレファレンス画像を用いてAIをかける方法が多く採られています。これにより、高層ビルのガラスのテクスチャーや、木調の高層建築であれば木材の質感といった、さまざまなオプションを検討できます。さらにImage to Videoのツールで動画化し、よりダイナミックなプレゼンテーションへと展開していきます。
CAD出力という領域
最後の段階では、製造可能なCAD出力が求められますが、この領域はまだ発展途上です。多くの部分は、2Dのピクセルを扱うDiffusion model(拡散モデル)の技術が反映されています。
一方で、CADは繰り返しのトランスフォーメーション(変換)が積み重なって成り立つものであり、少し異なる技術が必要になります。私は『SIGGRAPH』のようなコンピューターグラフィックスの会議にも参加しますが、そこで見ていると、Diffusion modelや3D再構成に用いられるGaussian Splattingの系統と、CADの系統とは、重なりつつもドメインが少し異なります。そのため、製造可能なCADにすぐ活用できる出力を得るための「定番ツール」はまだ定まっておらず、この点は今後の面白い課題だと考えています。
形状を保ったレンダリングと環境解析

建築家がラフなボリュームを作成した後、それに対してエッジ検出や深度推定を行った図面を同時にプロンプトへ与えると、元の形状を正確に保ったままレンダリングが可能になります。「ログハウスのようにして」「もっとカラフルなガラスのカーテンウォールで」といった指示で、多様なバリエーションを得られます。

最初に与える形状の生成についても、環境解析ソフトが大きく進歩しています。

これは私たちがチームで5〜6年前にインハウスで開発したツールですが、与えられた都市・敷地の形状に対して、CO2排出量、エネルギー使用量、日射量、景観といった指標を一覧で確認できるようにしたものです。敷地から概算される可能な形態に対し、これらのメトリクスでパフォーマンスを評価し、ユーザーが自らのアプローチを選択・改変していきます。こうした技術は、すでに一般にも普及してきています。

最適化された形態に対してプロンプトを変えれば、テクスチャーや時間帯、天候を制御でき、和風、豪華、ミニマリズム、サイバーパンクといった多様な表現を一度に確認できます。内部空間のインテリアデザインにおいても、風通しや景観、日照条件の解析は、Autodesk製品やGrasshopperのプラグインなどで簡単に行える時代になっています。

以前はStable Diffusionのような一世代前のAIを用いていたため、ハルシネーションが起こり、意味の通らない図面が出力されることもありました。近年は大幅に改善され、多様なバリエーションを高速に試行し、インタラクションを通じて理解を深めながらアイデアを磨いていけるようになっています。これは、そのまま顧客へのプレゼンに使えるとは限りませんが、インハウスでアイデアを練り上げる段階では非常に有効です。
出力が自分のイメージと乖離することもありますが、対話を通じてその差を埋めていく、あるいはあえてAIの出力を選ばないといった姿勢も重要だと考えています。
対話的に連続するプロセスへ

ここ1年半ほどの進歩として、AIが画像を理解する能力が飛躍的に高まりました。画像を生成してもらった後、そこで終わらずに「この画像を拡張してアウトペインティングして」と指示すれば、一度で対応してくれます。

さらに、家具の画像を指定し「これを使ってコーディネートして」と伝えれば、それなりに見られるレイアウトを提示してくれます。他にも、「左側に窓をつけて」「家族を入れて」「ロックバンドを入れて」といった指示にも、即座に対応してくれます。

最も興味深いのは、一回ごとのプロセスがその場で完結するのではなく、つながっていき、AIと対話するようにコミュニケーションを取れるようになった点です。私の周囲でも、多くの人がこうした使い方をしています。
空間レイアウトのアイデア生成

AIは、空間レイアウトのアイデア生成にもある程度活用できます。例えば、駅前の空き地を緑化して公園にするアイデアを求めれば、AIはデータをもとに、ありそうなデザインを数多く提示してくれます。

革新的な案が出るわけではなく、寸法的に100%正確とも限りませんが、初期段階の比較検討には十分なレベルだと考えています。逆に、提示されたものを反面教師として、あえて別のものを生み出すというアプローチもあり得ます。いずれにせよ、こうしたツールが実際に幅広く使われているのが現状です。
建築ビジュアライゼーションの役割の変化

近年、建築ビジュアライゼーションの役割も変化してきています。これまでは、設計者がデザインを持ち込み、Revitの図面などを渡し、それをビジュアライザーの専門家が見せる技術で表現し、顧客や施主とのコミュニケーションを図るという流れが一般的でした。
これからは、デザインを理解し、評価し、設計を支援する技術へと広がっていくと考えています。一方通行の図式から、行き来しながらフィードバックを重ねる関係へ。ビジュアライザーもまた、デザインの生成や改善に関与していく構図へと発展していくのではないでしょうか。

静止画からアニメーションを生成し、その場の雰囲気をすぐに体験・把握することもできます。一日の経過をタイムラプスで表現したり、想定される車の流れや混雑時の状況を描いたりすることも、現在の技術で比較的容易に行えます。
こうした表現に対して、「表面的なフェイクではないか」「人流を実際に計算していないのではないか」という指摘もあります。しかし、この部分についても、AIは今後大きく発展していくと考えています。

群衆シミュレーションとAIの連携

私は設計事務所に約8年在籍した後、奨学金を得て大学院に戻り、MITとハーバードでコンピュテーショナルデザインを専門に学びました。当時はUnityもUnreal Engineもほとんど出回っておらず、マルチエージェントモデルを自ら記述していました。表現にはAutodeskの3ds Maxを使用していました。
こうしたツールを自作していた経験もあり、マルチエージェントの群衆シミュレーションには強い関心があります。

現代では、ソフトウェアパッケージの中に群衆シミュレーション機能が組み込まれています。これを動かすには、鍵となる目的地の座標を複数入力し、地点から地点へ一時間に流れる人流(Flux)を定義する必要があります。さらに、統計的なポアソン分布などを用いて、それらしい群衆の動きを生成します。

これをAIと連携させられないかを試したのが、約3年前、GPTが登場した直後の取り組みです。通常GPTとは文章で会話しますが、ソフトウェアが要求するのは、目的地の座標や地点間のリンクといった構造化された情報です。

そこで、いわゆる「JSONフォーマット」を一度定義してあげると、ソフトウェアが要求するFluxの表を自動生成し、ソフト側へ送ることができます。手間のかかっていた作業が、すぐに行えるようになりました。

一度この処理を学習させれば、「50m北にもう一つ駅を追加して」と入力するだけで、新しい地点を対応表に加え、人流を想定して生成してくれます。

試しに「渋谷ではどうですか」と尋ねると、AIは109やヒカリエといったランドマーク的な地点を自動で引き出し、緯度経度の情報も踏まえて、「1時間にA点からB点へ300人」といった概算の表を出力します。これがそのまま、エージェントベースのシミュレーションとして動くものを作ることも可能でした。
プロンプトの変化と合意形成への応用

AIを使っていると、プロンプトの性質も変化してきます。これまでは木目やマテリアルといった明確な条件を入力していましたが、学生の使い方を見ていると、ムードや感性、美感に訴える表現も多く使われるようになりました。
例えば、画像左上の白い簡素なマッシングモデルを参照画像として与え、それに対して「環境に優しい」「親しみやすい」といったキーワードを添える、という使い方です。生成AIの利用は、公共空間デザインにおいて、普段は感覚的に捉えている文化的テーマや個人的思考に基づく価値観を、視覚的に共有していくうえでも有効だと感じています。
一枚の生成にかかる時間はほんの数秒です。例えば、私が普段仕事をしているアメリカ・ニュージャージーの何の変哲もない殺風景なストリートビューを、「ヨーロッパの賑やかでサステナブルな市場にして」と指示すれば、ある程度の構造を保ったまま、変化に富んだ画像を出力してくれます。
再開発に関する市民との意見交換や合意形成の場でも、こうしたAIはリアルタイムにフィードバックを得ながらアイデアを出し合い、情報を共有するのに役立ちます。言葉だけでは互いの考えが伝わりにくい場面において、有効な手段になり得ると考え、実際にこうした作業を行っています。
ビジュアライザーの将来像

ここからは、ビジュアライザーの将来像について考えます。私が考えるビジュアライザーの将来像は、単に美しい画像を作るだけにとどまりません。AIの出力をさらに選び、検証するという役割がより重要になってくると思います。
手作りで制作する価値は消えることなく残ると思いますが、そこに加えて、選別し検証する部分が入ってきます。空間の魅力だけでなく、機能や体験を可視化することが、より重視されるでしょう。
かつては、権威ある専門家が哲学的な説明を添えて提示すれば、多くの人がそれを信じました。しかし現在は、誰もがスマートフォン上にGPTを持ち、その場で検証できる時代です。顧客も欺けなくなり、本当に価値あるものは何かが問われるようになりました。見かけの良さだけでなく、機能性や実際に使える空間を市民は求めており、その検証をリアルタイムに行えることは非常に重要です。
設計者、AI、映像、リアルタイム技術をつないでいく役割として、ビジュアライザーが必要とされるのではないか。それが、私の描く将来像です。

空間評価の研究|不動産間取り図とAI

AIが主観的な印象評価をどこまで理解できるかという点に関連して、私が取り組んでいる「不動産間取り図の研究」についてもご紹介します。
これは、間取り図の視覚的印象、例えば「開放感」「現代性」「高級感」といった項目のスコアを、AIに予測させる研究です。検証の結果、AIはこうした性質を非常に高い精度で評価できることがわかりました。
一方で、間取りは空間構造を含んでおり、「動線」「水回り」「プライバシー」といった要素は、グラフィックを見るだけでは読み取りにくいものです。私たち人間は図面を見るとき、頭の中でその部屋に立ち、ドアを開け、寝室からリビングを通って玄関まで移動するシークエンスを想像して判断します。そうした思考をAIがどこまで再現できるのかを検証しました。

スコアの基盤としては、先行研究をもとに、約3,000人の参加者を募ってクラウドソーシングを実施しました。1,000枚の間取りに対して9項目のアンケートを行い、5段階評価で採点してもらったデータを用いています。

このデータは統計的に見ても興味深いものでした。例えば、間取り図の部屋のつながり方を示す接続グラフ(バブルダイアグラム)において、居間・寝室・バルコニーが三角形を形成するマイクロ構造を持つ間取りは、ほぼ必ずと言ってよいほど「現代性」のスコアが大きく上昇します。
実際に不動産業界を調べると、これは俗に「ワイドスパンバルコニー」と呼ばれる間取りで、売れ筋の一つでした。間取りの評価には、こうした内部構造からの読み取りが不可欠なのです。

これを、マルチモーダルなGPTに画像を読み込ませて評価させてみました。その結果、開放感・現代性・高級感といった視覚的印象については、相関係数で約0.8という高い予測精度が得られました。主観的評価には人によるばらつきがあるため、0.8はほぼ的中に近い高い水準です。一方、動線やプライバシーのように空間構造の理解を要する項目では、約0.6とやや低下しました。この数値から、現代のAIにも得意・不得意があることがわかりました。

構造的な手がかりの例として、浴室からダイニングへ直結するような間取りは、統計的に評価が大きく下がります。一方で、その間に廊下というバッファゾーンを挟むと評価が上がります。

二つ程度の部屋のつながりであればGPTでも読み取れますが、複数の部屋が絡む複雑な局所パターン「プライバシー評価を高める特定の構造」は、グラフィック的には異なって見えても共通の性質を共有しており、これを一度で見抜くのは現状のGPTには難しいところがあります。

また、失敗例もあります。画像の右側、Case Cの一例です。1階に公共的なダイニングを配し、2階に寝室などの私的空間を分離して、階ごとに公私を分ける間取りは、人間ならプライバシーが高いと一目で判断できますが、GPTはこうした知識を欠いていたのか、正しく評価できませんでした。

なお、この研究は東京大学の山崎俊彦教授と長年にわたって取り組んでいるものです。以前は、この問題に特化したネットワークモデルを用いていました。グラフニューラルネットワークでグラフ入力と画像入力をつなぎ、マルチモーダルなネットワークをこの問題のためにカスタムで構築する必要があり、多大な労力を要しました。それが現在では、GPTのようなマルチモーダルの大規模言語モデルによって、ある程度の汎用性をもって扱えるようになっています。もちろん工夫は必要ですが、一つのツールでさまざまなことができるようになった点は、現代のAIの大きな強みです。
生成AIは設計と表現をどう変えるか

現在の生成AIの強みは、多様なバリエーションを短時間で試し、雰囲気・材料・空間像を探索できること、そして汎用性が高いことです。
一方で弱みは、形状や寸法、隣接関係、物理条件などを人間と同じレベルで完全に把握し、維持することがまだ難しい点にあります。
今後必要になるのは、画像としての魅力と、建築的なコントロールをどう両立させるかという点です。これは日々進歩している領域であり、あくまで2026年7月時点での話としてご理解ください。
映像・没入型作品としての空間表現
最後に、映像や没入型作品として空間を表現する取り組みを、制作テクニックとともに数例ご紹介します。
こちらは2年以上前に制作した、かなり初期の作品です。私は建築出身であり、1960年代のメタボリズムに深く傾倒しています。それへのオマージュとして、自作のデザインの静止画をImage to Videoの技術で動画化し、短くまとめたものです。

当時は研究論文の執筆が中心でしたが、AIの可能性を実感し、空間デザインに長年携わってきた人間として表現の仕事にも挑戦しようと考えました。そこで東京の美術館の公募展に出展したところ、優秀賞をいただきました。これが弾みとなり、現在の制作活動につながっています。

興味深かったのは、左下に示した形状が、古典的で手製のプロシージャルなアルゴリズムで生成した3D形態であった点です。これを主体として段階的に動画を生成すると、面白い表現が得られることに気づきました。

他の作品でも、拡散律速凝集(Diffusion-Limited Aggregation)のような増殖アルゴリズムを応用しています。ハーバードで学んでいた頃、コスタス・テルジディス先生の著書『Algorithmic Architecture』に強い影響を受け、アルゴリズミックデザインに没頭していた時期がありました。
比較的アナログに作成した形態を動画化し、そこにさらにAIをかけることで、さまざまなテクスチャーで表現できます。従来ならテクスチャーの張り替えなど多くの手間を要した作業を、速いペースで数多く検証できるようになりました。

同様に、Pythonなどで任意のアルゴリズムを用い、建築的制約を満たす3Dモデルの形状を作成し、それを動画化したうえでAIによってレンダリングやテクスチャーを与えることで、完全にAI任せにするのではなく、作り手の要求条件を取り入れた設計が可能になります。
コントロール可能なAIが広がっていけば、2〜3年前には「AIは邪道だ」と言われていたものが、レンダリングを最速で仕上げる環境へと変わり、AIエージェントとともに設計する文化が加速度的に進化していくと考えています。
こちらは約1年前の、より新しいAIを用いた作品です。東京科学大学の副学長からご依頼を受け、プロモーション用に「境界のない、開かれたコミュニティ」を表現しました。同大学は合併を経てグローバルに活動しており、「大学城下町」というコンセプトを掲げています。
こうした概念的なビジョンを迅速に可視化できる点でも、AIは役立ちます。1年を経て、より写実的な表現にも対応できるようになったと感じています。
AI時代の創造性と個人の主観性

私は幼少期から映画に熱中しており、映画監督を夢見た時期もありました。その夢は破れましたが、現代ではAIの進歩によって、誰もが映画制作に挑戦できる時代が訪れました。非常に面白い時代である一方、危険も孕んでいます。同じような画像データセットで学習されたAIを誰もが使えるようになった結果、平均化された出力の作品がWeb上に溢れかえるリスクがあるのです。
ソフトウェア業界がAIを製品として実装するには相応の時間がかかりますが、その先で真に価値ある貢献をするには、AIを使ったうえでの個人の判断がより重要になると考えています。

実際、検索すればザハ・ハディド風の緑化建築のような、それらしい画像がいくらでも出てきます。その背景には、想像力豊かな過去の名建築家たちの作品群が、どこかでAIの学習データに含まれているという事情があるのだと思います。
こうした状況を踏まえると、現状のAIが人間を超える創造性を獲得するには、まだ至っていないのではないかと考えています。ただし、この点は今後の発展として非常に面白い領域でもあります。

1983年にザハ・ハディドが一連のパースペクティブを発表したとき、当時の建築家の多くは「これを実際に建築できる」とは考えていませんでした。私自身も含め、非常にセンセーショナルな出来事でした。
いまの世代は多様なものを見慣れているため驚かないかもしれませんが、こうした前例のない建築を想像することがAIにできるかどうかは、まだわかりません。しかし、絶対にできないとも言い切れません。5年前には「AIはそこまでクリエイティブにはなれない」と多くの専門家が否定していましたが、いまや誰もそう断定できない時代になっています。

数年前、Google DeepMindは、タンパク質の折りたたみという、科学の世界で長年「人間には解けない」とされてきた難問をAIによって解き、ノーベル賞を受賞しました。これを見ると、私たちが日々悩んでいるような問題、例えば意匠図と構造図の照合や図面の整合性の取り合いなども、いずれは解決されるのではないかと考えられます。
先日、日建設計で発表させていただいた際にも、若い方から「意匠と構造の取り合いの調整に非常に時間がかかる。AIはいつこれを解いてくれるのか」という質問を受けました。「明日にでも」、とは言えませんが、こうした論理的思考の帰結にある実用的な問題は、いずれ解決していくでしょう。タンパク質の折りたたみに比べれば、間取りの自動生成のような課題は、それほど待たずに相応の成果が現れるかもしれません。
そうなると、人間としてユーザーがいかにAIとの共生から恩恵を受けるべきか、そして何をすれば人間にしかできない価値ある貢献につながるのかが、より重要になってきます。GPTを使っていると、問題を投げかければ回答が返り、こちらが何も入力せずとも「次はこれをやりましょう」と次々に発展していき、気づけば作業が終わっている、という経験をされた方も多いでしょう。
論理的な帰結として一歩ずつ進めていけば、合理的なエージェントはある程度幅はあれど同じゴールに行き着きます。だからこそ、人間として、個人としてどのような「味」を出せるかが、これから非常に重要になると考えています。

同じ結果が出たとしても、そこからどのように自分の価値として売り込んでいくか。これは特別な表現者に限らず、社内でチームを組んで制作する方にとっても同様です。他社とどう違うのか、自社ならこういう作品が作れるという点が、皆がハイレベルで並ぶ時代における競争の鍵になると考えています。
英語で言うSubjectivity(主観性)に、これから多くの人が注目していくのではないでしょうか。人それぞれ異なる解釈のなかで、自分は何を表現したいのかが、より問われるようになると考えています。
まとめ

ビジュアライゼーションは単なる「見せる技術」から、理解し、評価し、設計を支援するものへと広がりつつあると感じています。生成AIの強みは、創造の停滞を打破し、従来の設計プロセスを拡張してくれる点にあります。
常識的な知的作業の効率化・自動化は、比較的近い将来にさまざまな形で解決されていくと考えられます。ただし、それが実際にソフトウェアとして実装されるまでには相応の時間がかかることも理解しています。技術的には、思ったより早く高い水準のものが登場するのではないかと見ています。
だからこそ、固有の価値創造にAI活用を生かせるかどうかが重要です。現状のAIには課題も多く、3D CADモデルやRevitで即座に出力できる「これを使えば完璧」という定番ツールはまだ定まっていません。AIの出力は完璧に正確・精緻ではないため、ミリ単位で寸法を扱う場合には注意が必要です。そして、前例のない形態を生み出せるかどうかは、今後の興味深い課題だと考えています。

建築ビジュアライゼーション MeetUp第9弾 イベントレポート
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