建築家 藤本壮介氏の考える「創造の未来」

1971 年生まれの藤本壮介氏は、次世代を担う日本の建築家の中でも、今もっとも注目を集める人物の一人だ。現在、東京とパリに事務所を構え、世界中でプロジェクトを抱えている藤本氏が Autodesk University Japan 2017 での特別講演で語った言葉から、彼が思い描く「創造の未来」を追ってみよう。

バス停や公衆トイレ、個人住宅から、大学の施設、オフィス、商業施設まで。藤本氏は大小さまざま、いろいろなジャンルのプロジェクトを手がけている。最近では武蔵野美術大学の大学美術館・図書館(2010 年)や、ロンドンのケンジントンガーデンで毎年夏にオープンする「サーペンタインパビリオン」(2013 年)を手がけたのも、記憶に新しい。

シンプルで繊細、そして外界との境界を感じさせない独特の建築空間で、多くの人たちを魅了する彼が取り組んでいるプロジェクトのうち、まず紹介したいのが宮城県石巻市のプロジェクト「石巻市複合文化施設 (仮称)」だ。

2011 年に起きた東日本大震災で壊滅的な打撃を受けた石巻市は、震災で使用不能になり解体せざるを得なかった「石巻市民会館」と「石巻文化センター」の再建について検討を重ねてきた。これらの施設が担ってきた博物館機能と劇場機能を組み合わせ、街を象徴するような新たなランドマークを作るべく、2016 年、公募型プロポーザル方式による設計者選定審査が行われた。

審査の過程では公開プレゼンテーションが行われ、多くの市民も参加。そして藤本氏のプランが最優秀に選ばれる。

それぞれの機能を振り分けた、石巻市複合文化施設 (仮称) の街並みのような建築プランのスケッチ

それぞれの機能を振り分けた、石巻市複合文化施設 (仮称) の街並みのような建築プランのスケッチ

建設予定地は町の中心から少し離れたところで、背後に山があり住宅地とも隣り合う土地となる。そのため、藤本氏は「近くからでも遠くからでも、親近感をもって見ることができる石巻の新しい原風景をつくれないか」と考えた。

「石巻市複合文化施設 (仮称)」には、劇場機能のため「フライタワー」が必要だった。「フライタワー」とは、舞台上部を成すタワー状の空間のこと。通常、劇場の舞台の上には各種の舞台演出を可能にするためのバトンや照明、緞帳を収納する場所が必要だ。「フライタワーは一定の高さが必要なため、形としてユニークにならざるをえない」と、藤本氏。それを「圧迫感をなくし、人々の心に残るような建物にするにはどうしたらいいか」を突き詰めて考えたのが、さまざまな建物が横に並ぶ、にぎやかな街並みのような建築プランだった。

原風景の組み合わせで生み出される、どこにもない懐かしい場所

子どもに鉛筆を持たせて「家の絵を描いてみて」といったら、三角の切妻屋根の絵を描くことがほとんどではないだろうか。私たちが普遍的に家の象徴と考える、こういった三角屋根の家。藤本氏の建築プランには、そんな家の象徴が用いられることが多いが、ただ懐かしいだけでなく、それを斬新に捉えなおしていることに特徴があるかもしれない。

それぞれの機能を振り分けた、石巻市複合文化施設 (仮称) の街並みのような建築プランのスケッチ

それぞれの機能を振り分けた、石巻市複合文化施設 (仮称) の街並みのような建築プランのスケッチ

「石巻市複合文化施設 (仮称)」の街並みのようなそれぞれの建物は、内部では全てがつながっており、天井もでこぼこしている。いちばん高いところで天井が 25 m、中に入ると変化に富んだ空間が広がるようになっている。

「ひとつひとつの建物はシンプルです。」と、藤本氏。「人々の記憶の中に刷り込まれているような原風景が、組み合わされることで、どこにもない、でも、どこかにありそうな懐かしい場所ができると考えました」。

Autodesk University Japan 2017 で特別講演を行う藤本氏

Autodesk University Japan 2017 で特別講演を行う藤本氏

この数年で国際的なコンペティションでは BIM 提出が義務づけられることが多くなってきたが、氏はこれまで、従来通りに設計した後で BIM のモデルを外注するというやり方でやり過ごしてきたという。しかし、今回のプロジェクトでは、空調や電気などの設備と構造を三角の屋根に精密に組み込む難しい作業のため、BIM を早い時期から導入しなくてはいけないだろうと判断し、Autodesk Revit 上でのデザインが行われた。現在はエンジニアリング コンサルティング会社であるアラップと、細かな調整を行っているところだ。

「テクノロジーを活用することと同様に、昔ながらの設計方法、模型を手でつくっていくことも、我々には必要な作業です」と、藤本氏。「デジタルとフィジカルの両方を活かし、手で作りながら考えた、ちょっとしたアイデアをデジタルの方に反映させたり、デジタルで理解したことを手に反映していく…というようにフィジカルとデジタルを行ったり来たりすることは、今後もしっかりやっていきたいと思います」。

「石巻市複合文化施設 (仮称)」は 2018 年の秋に着工し、2021 年の春に完成予定となっている。

伝統的な生活スタイルを実現するモンペリエの新たな集合住宅

この施設とは対照的に、フランスの南部、モンペリエで建設が進められている集合住宅のプロジェクトは、見たことのないような建築物が目を引く。このプロジェクトは、藤本氏がフランスに事務所をつくるきっかけにもなった。

地中海に面したモンペリエは、冬でも戸外のテラスでランチが取れるほど温暖な気候だ。室内にこもらず、外に出て過ごす当地の伝統的な生活スタイルを「地上 50 m、17 階建ての高層ビルでどうやって実現できるのか」を考え抜き、最終的にたどりついたのが、リビングルームやベッドルーム、それぞれにバルコニーを設置するという大胆なプランだった。

すべての住戸に空中に浮かんだスペースが複数あり、大きなテラスは幅 6 m、長さ 8 m になるという。外にもリビングルームが出現したというわけだ。

「結果としてとてもユニークな建物になりました」と、藤本氏。「松ぼっくりのような、ブロッコリーのような、あるいは樹木のような…自然の中に建っているような、ある種の複雑さがある、オーガニックなものです。これまでの直線的で堅いコンクリートの集合住宅とは全く異なる姿になっています」。

フランス・モンペリエに建築中の、高さ 50 m、17 階建て、全 105 戸の集合住宅プロジェクト

フランス・モンペリエに建築中の、高さ 50 m、17 階建て、全 105 戸の集合住宅プロジェクト

この集合住宅のプランは、モンペリエ市の市長や都市計画の担当者が審査を行った。「最初はかなり驚かれました。しかし、モンペリエという街が持つ風土、伝統を守りながら、街の未来をつくるということ――その両方が高い次元で組み合わさっていることで、今まで想像もできなかったものが立ち上がるということを理解してもらうことができました」と、藤本氏は振り返る。

モンペリエの集合住宅は、2018 年 9 月の完成を予定しているが、現時点でほぼすべての住戸が売り切れの状態だという。

自然と建築物、フィジカルとデジタル、古いものと新しいもの――一見、対比するかのように見えるこれらの関係性が「21 世紀に入り、新しく融合するような時代になっているのではないか」と藤本氏は語る。彼が創り出す建築設計を通じて、さらなる未来を見据えていきたい。

本記事は「創造の未来」をテーマとするオートデスクのサイト「Redshift 日本版」の記事を、許可を得て転載したものです。

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