第1回 NYで学び・教え・経営し、iPadアプリを開発するまで – Morpholio LLC 長谷川徹 氏 第1話

Morpholio LLC 長谷川徹 氏

長谷川さんの経歴についてお聞かせいただけますか?

法政大学デザイン工学部建築学科で建築家渡辺 真理教授のゼミに所属し、2003年春に卒業しました。その後、2003年9月からコロンビア大学院で建築学の修士課程を3年間で修了しました。コロンビア大学在学中もnARCHITECTSDiller Scofidio + Renfroといったさまざまな建築事務所でインターンを行い、2006年の卒業後、2011年まで自分のデザイン事務所を構え経営しました。

長谷川さんのデザイン事務所

Diller Scofidio + Renfroは、アップウェストサイドの線路を公園に改築した「Hight-Line」や、ハドソンヤード横にある屋根が動く建築物「The SHED」を設計した有名設計事務所

Diller Scofidio + Renfroは、アップウェストサイドの線路を公園に改築したHight-Lineや、ハドソンヤード横にある屋根が動く建築物The SHEDを設計した有名設計事務所

長谷川さんのように卒業してすぐに事務所を構える人は多いんですか?

あまり多くないと思います。僕はたまたま卒業とともに2006年からコロンビア大学で教員としても教え始めたんです。事務所かたわら、教員としてコンピューテショナルデザインを主に教えていました。パラメトリックやアルゴリズムといったことですね。

14年前からコロンビア大学ではコンピューテーショナルデザインを教えていたんですね!

コロンビア大学院建築学部の歴史を少し話すと、90年代にベルナール・チュミ(Bernard Tschumi)という有名な建築家がペーパーレス・スタジオを始めたのがきっかけで、彼の理念に基づき、大学でも手描きや図面は捨て、建築にデジタルを導入しましょうという流れになりました。

コンピュータを新しく導入しグレッグ・リン(Greg Lynn)氏やハニ・ラシッド(Hani Rashid)氏といった新進気鋭の建築家を教授に招き新しい建築学部を立ち上げました。90年代はデジタル建築第一世代から学び、00年代になるとMayaやRhinocerosといったツールが活躍した第二世代、2006年に僕がアルゴリズムやコンピューテーショナルの初代授業を受け持ったのが第三世代になるかと思います。

コロンビア大学

コロンビア大学

事務所を構えながら教員として両立するのは難しかったのでは?

教えることは興味あることだったので苦ではなかったですね。

あと時代ですよね。数十年前は資本金があって、クライアントがいて、様々なツールを用意する必要があったけれども、今の時代であれば、初期投資をあまりかけなくてもコンピューター1台あれば仕事ができる。ちょうどその移り変わりの時期だったんだと思います。

事務所ではどんなお仕事をされていたのですか?

デザインして建物を建てるというよりは、建築事務所からこんなパラメトリックのファサードをつくりたいけどツールがない!という要望を聞き、ツールを開発していました。要はコンサル的な仕事内容でしたね。

もう10年前になりますが、コロンビア大学ジャーナリズム学科の図書館の天井は、うちの会社でつくったソフトを使って建設されました。どのパターンが一番音を吸収するか音響に関してコンピューテーショナルをやったり、パネルのデジタルファブリケーションを行ったりしました。

Stabile Center, with Marble Fairbanks Architects

http://www.proxyarch.com/media.html

https://www.flickr.com/photos/proxyarch/3982081475/

なるほど。お客様のためにツール開発したコンサルティングの下地が、Morpholioの立ち上げに繋がったのですね?

コンサル業をやっていてわかったのがビジネスがスケールできないことでした。僕1人の脳みそから1つのプログラムを書くことはできても、100個の新しいツールを生成することは時間的に難しい。もちろん100人いればできるけれども、つまりは100人分の仕事を取ってこなければいけない。人を増やすこともできましたが、ビジネスをするにあたりスケールをちゃんと考えないといけないなと当時感じました。

Morpholioの開発に繋がるまでどのようなプロセスがあったのですか?

本当にタイミングですよねー。

建築業界の場合Win PCを使うのが当たり前だと思いますが、2006年に最初のiPhoneが出たときに、今のMorpholioのファウンダーの1人がiPhoneとMacを買ったんです。

例えば90年代、突如インターネットが生まれ、世界はウェブサイトが必要という流れがあったかと思います。同じ波が2007年にAPPストアが初めて出たときに来たんです。アプリという概念がなかった時代、iPhoneが出たことによって、アプリって何?よくわからないけれど欲しい!という需要の波です。

iPhoneのアプリ開発者はほとんどいなくて、でも様々なところからiPhone用アプリを作ってくれという需要があった。我々は建築畑の人だったので、アプリというビジネスをどう回してよいのか全くわからず…でも沢山の要望が降ってきたので、勉強しながらコツコツアプリ開発を行っていました。値段の付け方もわからないから時給制にしたり、アップデートの考え方もなかったりと試行錯誤でした。

2010年初代iPadが出たことによりMorpholioを作るきっかけに

Morpholioは建築家4人がファウンダーなんですが、2010年初代iPadが出たことによりデジタルツール(ハード側)の延長としてiPadが使えるなという感触を受けました。こんな大きいスクリーンをタッチインターラクションで簡単に動かせるんだ!と。Steave Jobsがプレゼンでやった「スワイプ」なんて本当に歴史が変わる出来事でしたね。iPadとの出会いがMorpholioを開発するきっかけになりました。僕ともう1人の建築家が最初のアプリの開発を開始しました。

最初のアプリ「Morpholio」開発秘話

MorpholioはMorphology (形成理論)+ Portfolio(ポートフォリオ)を合体させた造語です。2010年ごろ自分の作品(ポートフォリオ)を掲載する格好良いサイトがなかったので、まずポートフォリオを掲載するアプリを作ったんです。

もちろん、初めはダウンロード数も多かったんですが、すぐにこれはビジネスにはならないと気づきました。ポートフォリオって、転職するタイミングには使いますが頻繁に使うものではないです。こういったアプリは毎日使われないとビジネスにはならないんだと気づき白紙に戻しました。

次のアプリ「Morpholio Trace」が出来るまで

建築家が毎日することは何だろう?と考えたときに「スケッチ」だと思い浮かびました。当時スケッチはすべて紙ベースでやっていたんです。紙に赤線を引いてスキャンしてPDFで送る。あるいは紙を持参してコミュニケーションを取る、と非常に非効率でした。

先ほどのペーパーレス・スタジオに戻りますが、遡ること90年代、紙を無くそうという動きから始まったのがCADです。デジタル化しましょうという流れにインターネットの出現も合わさりました。さらに20年後の2010年には、インターネットがある、デジタルツールがある、そしてiPadが来ました!もう後戻りはできませんよね。Morpholio Traceの開発が始まったのがその頃です。

Morpholio Traceのプロトタイプは3週間ほどでつくりました。本当に初めは見た目が格好良くなかったのですが、Herman Millerにスポンサーになってもらい、Morpholio Traceプロトタイプお披露目パーティーを開いたんです。プロトタイプなので具体的に売ることはまったく考えていなかったのですが、出席した建築家から明日からすぐにでも使いたいと評価をもらいました。その時初めて「あーこれがソフト(アプリ)のビジネスなんだ」と気づきました。

デジタルが本当に求められていることとは?

何が求められていてどこにデジタルが役に立つのか本当の意味でそれまで理解していなかったんです。ちょっと成長しましたね。もちろん、コロンビア大学院時代デジタル建築学を教えていましたが、応用の仕方がまったく異なるんです。

コンピューテーショナル建築で教えていることはデザインをつくるプロセスの中で活用できることです。例えば、MayaやRhinocerosといったデザインのイメージをつくったり、アイデアを作るといったようなこと。

でもデジタルの強みはコミュニケーション側にもあったんです。「建築+コミュニケーション+デジタルツール」ってその当時ほとんどありませんでした。恐らくメールぐらいじゃなかったかな。

建築家が日々行っている描くという動作をコミュニケーションツールとしてデジタルで補完できたんです。

コロンビア大学 建築学科の写真

コロンビア大学 建築学科の写真
建築書・図面や歴史的にも有名な書物が所蔵されている

槙田 淑子

槙田 淑子Producer, Facilitator, Writer

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建築パース・建築ビジュアライゼーション分野のポータルサイト『Kviz』編集長。デジタルメディアシステム部 所属、社内ワークスタイルサポートプロジェクト「わくすた」リーダー。エンターテイメント・文教などデジタルメディアを使う業界向けの製品プロモーションやセミナーも担当しています。

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