2026年1月28日(水)に開催された「Kviz特別セミナー『Studio Tim Fuが語る、AIと建築デザインの未来』」のイベント内容をご紹介します。

セッション概要
建築ビジュアライゼーションは、テクノロジーの進化によって大きな転換期を迎えています。本セミナーでは、「Studio Tim Fu」を率いるTim Fu氏を迎え、生成AIや最新ツールを活用した建築表現の最前線を紹介します。アイデアをいかに迅速かつ魅力的に可視化し、設計や提案の質を高めていくのか。実例を交えながら、その思考法と制作プロセスを紐解いていきます。
本記事では、これからの建築ビジュアライゼーションの可能性を考察します。
【主催】株式会社Too
【協賛】オートデスク株式会社
【登壇者】Studio Tim Fu 創設者 / 建築デザイナー Tim Fu 氏

↓当日の模様を映像化し公開しております。合わせてご覧ください↓
詳しいイベントの詳細は「株式会社Too」のWebサイト告知ページをご覧ください
⇒ too.com
登壇者紹介

私はTim Fuと申します。建築分野におけるAI活用に取り組んでいるデザイナーです。これまでザハ・ハディド・アーキテクツのリサーチチームに所属し、先進的な設計手法の研究に携わってきました。現在は、自身のスタジオであるStudio Tim Fuを設立し、AIを建築デザインに統合した新しい設計プロセスの実践に取り組んでいます。
建築とテクノロジーの融合をテーマに、世界各地のカンファレンスや展示会でプロジェクトや思想を発表してきました。スタジオでは、建築家とテクノロジストによる専門チームを率いながら、国際的なプロジェクトを展開しています。
また、デザインとテクノロジーに関する知見を積極的に発信することで、多くのオンラインフォロワーにも支えられてきました。AI時代における建築のあり方を探りながら、新しい創造の可能性を切り拓いていきたいと考えています。
思考を拡張するAI建築

AIは、もはや単に何かを生み出すためのツールではありません。いまや、考え、感じるためのツールへと進化しています。例えば、手書きのスケッチのような非常にシンプルなイメージから出発したとしても、AIはそこに込められた意図を汲み取り、発想を広げる役割を果たします。

コンセプトを与えると、AIはそれを瞬時にリアリスティックな建築表現へと落とし込みます。わずか数秒で、抽象的なアイデアは具体的なビジュアルへと変換されます。ただし、その先を決定づけるのは人間の役割です。どのような指示を与え、どこまで具体化していくのか。その精度と感性が、最終的な成果を左右します。
技術そのもの以上に重要なのは、それをどう感じ、どう活用するかという姿勢です。AIを用いることで、建築分野における発想と表現の可能性は大きく広がります。

例えば、フランク・ゲーリーは、紙をくしゃくしゃに丸めた造形から着想を得て、独自の幾何学的建築を生み出してきました。かつては手作業で行われていたこうした思考のプロセスも、いまではAIを活用して再現することが可能です。
その発想に着想を得て、実際に紙を丸めた形状をもとにAIで検証してみます。

プロンプトに「フランク・ゲーリー」と入力し、そのスタイルで建築を生成するよう指示を与えると、瞬時にフランク・ゲーリーらしさを備えた造形が立ち上がります。

さらに、ザハ・ハディドやダニエル・リベスキンドといった著名な建築家の名前をプロンプトに用い、同様に生成を試みます。具体的な指示を与えるだけで、それぞれの建築家が持つ特徴的なフォルムや空間性が明確に表現されることが分かります。

このプロセスの力強さは、想像以上です。
くしゃくしゃに丸めた紙という極めてシンプルな出発点から、AIによって多様な建築案が立ち上がり、それらをさまざまな実在の敷地へと展開することも可能になります。アイデアの源は単純であっても、そこから広がる可能性は限りなく豊かなものとなります。

Midjourney

ここで紹介するのが、『Midjourney』です。テキストからイメージへと変換し、抽象的な言葉を具体的なビジュアルコンセプトへと置き換える、初期の代表的な生成AIの一つです。

当時、私は「ザハ・ハディド・アーキテクツ」に在籍していました。その頃、このMidjourneyがAIを活用した新しい設計支援ツールとして登場し、大きな可能性を秘めていることに気づきました。

日中は建築事務所で、複雑な幾何学形状をいかに建設可能なかたちへ落とし込むかという実務に向き合いました。一方、夜は新たに登場したAI技術を用いて、その挙動をどのように制御できるのかを探るという、二つの思考を往復する日々が始まりました。
ツール自体は直感的で扱いやすいものの、意図した結果を引き出すためには、繊細なコントロールと試行錯誤が欠かせません。

例えば、「ザハ・ハディドによるヴィラ」といったシンプルなプロンプトを入力すると、確かに複雑な造形は生成されますが、必ずしもリアリスティックとは言えない結果が現れます。

そこで重要になるのが、「プロンプトクラフティング」です。
言葉とイメージの関係性を読み解きながら、どのような表現がどのような造形を生むのかを分析し、望ましい方向へと誘導します。AIとの対話を通じて、意図を的確に伝える方法を模索していきます。

大まかな方向性が定まると、次はジオメトリーを何度も再定義し、反復的に洗練させていく段階へと進みます。

試行を重ねるごとに、検討は全体から細部へと移行し、建築として成立する精度へと磨き上げていきます。ディテールに至るまで丁寧に設計し直すことで、コンセプトはより現実味を帯びていきます。

最初に単純なプロンプトから生成されたイメージと、幾度もの反復を経て洗練された最終成果とでは、その完成度に大きな差が生まれます。AIは一瞬で形を示しますが、質を高めるのは人間の思考と編集の積み重ねです。

生成過程では、意図しない奇妙な結果も数多く現れます。しかし、その試行錯誤の中で、ザハ・ハディド特有の流線的なフォルムや空間構成をどのように実現できるのかを探求していきます。

そのプロセスを通じて実感したのは、AIの大きな可能性でした。異なる建築様式や特徴を組み合わせ、新たな造形へと昇華させる力があることに気づきます。例えば、ルネサンス建築の構成と現代的な流線形デザインを融合させることも可能です。

さらに、アール・ヌーヴォーといった伝統的様式にも応用し、歴史的意匠を再解釈する試みを重ねます。

やがて、建築全体だけでなく、個々のエレメントに着目します。石柱や中棟といった構成要素に分解したとき、それぞれはどのような表現になり得るのか。スケールを落として検証することで、より具体的な可能性を探ります。

そこから得られたアイデアをもとに、3Dモデリングを用いて建築可能な形状へと落とし込み、図面として具体化していきます。AIによる発想は、デジタルモデリングを経て、現実へ近づいていきます。

やがてドイツの石工職人ティル・アプフェル氏との出会いが生まれます。彼は図面を丹念に読み取り、卓越した石工技術によってコンセプトを実体化しました。デジタル上の構想が、素材を伴った現実の造形へと転換された瞬間でした。

この経験を通じて、AIが生み出すアイデアを実社会で実現できることを確信します。
産業革命以降、一般的な構図は人間が構想し、それを機械によって具現化するというものでした。しかし、AIの時代においては、発想そのものの段階からAIを介在させることが可能になります。
そのとき、人間はどのような役割を担うのでしょうか。創造のプロセスが変化するなかで、あらためて問い直す必要が生まれています。

Studio Tim Fuの設立

こうした思考の延長線上で、「AI時代において建築家はどのような役割を担うべきなのか」という問いに行き着きます。その答えを探るため、ザハ・ハディド・アーキテクツを退職し、自身のスタジオ「Studio Tim Fu」を立ち上げました。AIの持つ力を積極的に取り込みながら、新たな設計システムの可能性に挑戦することを決意しました。

プロセスが変われば、組織のあり方も変わります。従来は建築家としての実績や経験が重視されてきましたが、それだけでは十分ではないと感じるようになりました。そこで、採用基準も刷新しました。
国際的なコンテストやハッカソンに足を運び、それぞれがどのようなスキルを持ち、AIのような新しいツールを柔軟に扱えるかを重視します。変化の激しい環境に適応できる人材かどうかが、新しい時代の資質として重要になりました。

そして自らがリーダーシップを取り、新たなチームを立ち上げます。このチームは効率的に方法論を開発しながら、自らも進化し続ける組織を目指しました。
結果として若いメンバーが多いチームとなりましたが、これは偶然ではありません。既存の枠組みにとらわれず、革新的な発想を自然に受け入れられる世代が、結果として多く集まったのです。

1年、2年と時間が経つにつれ、チームは拡大し、事業も広がっていきます。大小さまざまなプロジェクトに携わり、多くのクライアントから声がかかるようになりました。
守秘義務の関係で詳細は限られますが、その中から2つの事例を紹介していきます。
事例1|スロベニアのヴィラ

最初のプロジェクトとして取り組んだのが、昨年手がけたヴィラの計画です。本計画では、構想段階から設計の各フェーズに至るまで、AIを積極的に活用しました。

計画地は、ヨーロッパ・スロベニアにあるブレッド湖です。アルプスの風景に囲まれたこの湖は、ヨーロッパでも有数の景勝地として知られています。

敷地周辺には、スロベニアの伝統的意匠をまとったヴィラが建ち並び、地域固有の建築文化が色濃く残っています。

クライアントからの要望は、「世界水準のラグジュアリーな建築を実現したい」という明確なものでした。しかし同時に、「この土地の伝統や文化を尊重し、地域社会からも受け入れられる存在でなければならない」という、その両立が求められました。

「高度なデザイン性と地域性の統合」という難題に対し、AIの分析力と人間の専門性を掛け合わせることで、新しい建築のあり方を模索しました。プロセスを段階的に構築し、検証を重ねていきました。

まず取り組んだのが、「Heritage Data Set」と呼ぶ独自のデータセットの構築です。地域に根付く建築様式や文化的要素を収集し、それらをアルゴリズムへと変換してAIに学習させました。

このデータセットは、単なる分析ツールにとどまりません。デザインチームがそれを参照しながら、初期段階から豊富なアイデアを生み出すための創造的な基盤となりました。

早期の段階で多様な案が生成され、それをもとにクライアントとの対話を開始しました。どの方向性が響くのか、どの要素を実現したいのかを具体的に議論できたことは、大きな成果でした。設計初期の段階から、クライアントとの深いコミュニケーションを可能にしたのです。

検討を進める中で、ヴィラの形態には伝統的な要素が確かに息づいていることが見えてきます。その本質を理解したうえで、現代的に再解釈する方法を探りました。

地域建築の特徴を一つひとつ分析し、それをベースに現代的な空間へと昇華するプロセスを重ねました。大きな窓から湖の眺望を取り込む構成や、屋根裏空間を活かした縦方向の広がりなど、ローカルな建築の魅力を積極的に取り入れました。

特に屋根裏空間は、従来の限られたスペースにとどまらず、より開放的な空間へと再構築できないかを検討しました。そこから導かれるインテリアのあり方についてもスケッチを重ねました。

具体化の段階ではAIを活用し、紙とデジタルを往復しながら検討を深めました。手描き、コンピューター、そして再び手描きという反復によって、構想は徐々に精度を増していきました。

最終的には3Dモデルを作成し、レンダリングによって全体像を提示します。

同時に、レイアウトや動線計画といった伝統的設計手法も丁寧に組み込みます。

さらに、6つのヴィラをそれぞれ異なる表情にするため、モジュール設計を導入しました。AIに複数のパラメータを与え、最適解を導き出しました。日照条件や空間効率、動線計画、湖への眺望といった要素を同時に最適化させました。

人間の設計力とAIの計算能力を組み合わせることで、高精度な3Dモデルが完成します。

このモデルをもとに、再びAIでレンダリングを行います。ただし今回はコンセプトイメージではなく、実際の3Dモデルに忠実な高精度レンダリングです。

さらにAIを用いてディテールの検討を進めます。そのスピードは驚異的で、多様な可能性を短時間で比較検討することが可能になりました。

最終的に、数多くの選択肢を経て最適解へと到達しました。このプロセスにおける人間の役割は、キュレーターであり、最終判断者でした。

同様のアプローチはインテリアにも適用されます。外部のレンダリング会社やコンサルタントに依存することなく、社内で一貫して制作を完結させました。

その結果、短期間でマスタープランを完成させることができました。ヴィラ全体とサイト全体の意図が明確に示される完成図となります。
以上が、スロベニアのブレッド湖の事例です。続いて、別のプロジェクトをご紹介します。
事例2|紅海のリゾート
続いて紹介するのは、より大規模なプロジェクトです。紅海沿岸のビーチに展開するラグジュアリーリゾートの計画でした。

中東のプロジェクトにおいては、何よりもスピードが重視されます。細部の検討よりも、まず全体像を迅速に可視化し、最終的にどのような体験価値が生まれるのかを確認したいというのが、クライアントの強い要望でした。
そこでまず、プロジェクトの類型を示すスケッチから着手します。この段階からAIの力を最大限に活用しました。

マスタープランニングチームが全体コンセプトを構築し、空間の方向性を定めます。

通常であれば、ここから3Dモデルを制作する工程に進みます。しかし、本プロジェクトではそのプロセスを省略しました。構築したコンセプトを直接AIに入力し、リアリスティックなビジュアルを生成させたのです。

さらに、最新のテクノロジーを活用することで、生成された空間をさまざまな視点から確認することも可能になりました。

そして、個別のヴィラタイプの検討においても、AIは大きな役割を果たします。

昼景だけでなく夜景も瞬時に描き分けることができ、時間帯による雰囲気の違いまで可視化できました。
これらのテクノロジーを統合し、ひとつのパッケージとしてまとめたのが本プロジェクトの提案資料です。コンセプトチームが描いたビジョンをもとに、AIを活用して映像化しました。
このパッケージの目的は、技術的要件を解決することではありません。クライアントに対して明確なビジョンを提示し、物語として体験してもらうことにあります。そこでどのような時間が流れ、どのような体験が可能になるのかを、臨場感をもって伝える。そのために、リアリズムを徹底的に追求しました。

Studio Tim Fuのチーム構成

現在、弊社のチームは3つの部門に分かれて活動しています。
中核となるのは、従来通り建築設計を担う専門チーム、『STF Design Studio』です。それに加えて、建築や開発プロセスにおいてAIをどのように活用できるかを探るリサーチラボ『STF Labs』を設けました。さらに昨年からは、AIを用いたビジュアライゼーションに特化したビジュアル部門、『STF Visuals』も立ち上げています。
STF Labs

リサーチラボの取り組みの一例として、NVIDIAと共同開発したアプリがあります。AIカメラによる空間解釈を行い、最終的なレンダリングまでAIで完結させる仕組みです。

また、VRを活用したバーチャル空間でのモデリングにも取り組んでいます。仮想空間内で構築したモデルを、AIによって高精度にレンダリングするプロセスです。

さらに、都市設計に特化したツールとして「UrbanGPT」を開発しました。これはLLMを基盤とし、Rhinocerosのような空間モデリングツールと連携することで、都市スケールの構成を導き出すものです。

操作は自然言語で行います。例えば、「川をつくり、その周囲に建物を配置する」と入力するだけで、都市構造の骨格が生成されます。

中央にセントラルパークを配置する、といった指示も可能です。

あらかじめ決められたコマンドに従う必要はありません。自然言語で多様な条件を与えながら、高密度エリアと低密度エリアの勾配を探るなど、複数の都市構成を柔軟に検討できます。

都市設計では、初期段階でどのような空間になるのかを把握することが重要です。そのため、精度の高い空間モデルとAIレンダリングモデルをリンクさせました。現在はまだ初期バージョンですが、開発は進行中であり、近い将来さらに進化した形で発表できる見込みです。

AIの活用は設計やレンダリングにとどまりません。コーディングの分野にも応用が広がっています。いわゆる、「バイブコーディング」と呼ばれる手法です。チームメンバーが高度なプログラミング技術を持っていなくても問題ありません。実現したい機能や構造をアルゴリズムに対して自然言語で指示し、AIにコードを生成させることで、必要なシステムを構築していきます。

機械学習やAIを活用する最大の利点の一つは、膨大なデータを瞬時に評価できる点にあります。近年では、この特性がアーバンプロジェクトにも広く応用されています。
例えば、都市全体のデータを解析し、高層ビルをどこに配置するのが最適かを導き出すことが可能です。人間だけでは扱いきれない規模の情報を統合し、合理的な判断材料を提示する。それがAIの大きな強みとなっています。
STF VIsuals

続いて、ビジュアルチームの取り組みです。
このチームは、精度の高いレンダリングを実現するための独自の技術やメソドロジーの開発に注力しています。単に美しい画像を生成するのではなく、設計意図を正確に反映したビジュアルをどのように構築するかを追求しています。

AIを活用することで、同じ空間を異なる時間帯や天候条件、さらには多様なスタイルで即座に検証することが可能になります。昼と夜、晴天と曇天といった環境変化を瞬時に切り替えながら、空間の魅力を多角的に探ることができます。

また、AIはクリエイティブレンダリングにも有効です。建築の枠組みにとらわれない発想や、通常の設計プロセスでは生まれにくいアイデアを探求する際に、大きな力を発揮します。

その一例が、「リビングスケッチ」と呼ぶ手法です。例えば、ガウディの建築を参照し、そのスタイルを踏襲しながら手描きスケッチ風に再解釈できます。AIによって、建築をまるで生きているかのような表現へと変換します。
建築は機能や構造だけでなく、楽しさや物語性を持ったかたちでも提示できます。こうして制作したビジュアルを公開したところ、大きな反響を呼びました。結果としてガウディ財団から連絡を受け、今年初めより正式なコラボレーションが始まっています。今後は展示会をはじめとするさまざまな取り組みが予定されています。

私たちの提供するサービスを整理すると、まずアイデア創出から始まり、それをモデルとして具現化し、スタイライズされたビジュアルへと昇華させます。さらに映像制作や動画化、そしてSNSでの拡散を見据えた最適化まで、一連のプロセスを包括的に手がけています。

最後に

最後に、最近取り組んだビジュアル分野のプロジェクトを紹介しながらまとめていきます。

いまやAIは、高度なリアリズムを実現できる段階に到達しました。制作スピードも飛躍的に向上しています。しかし、私たちが追求しているのは効率性だけではありません。重要なのは、アイデアであり、ビジョンであり、ストーリーテリングです。AIは単なる描画ツールではなく、物語を構築するための装置へと変化しています。
そこには、建築家として培ってきた知識も色濃く反映されています。建材の理解や光の扱い方、カメラアングルの選定など、これまでの専門的経験がプロセスの中に組み込まれています。さらに、映像的な表現を追求する中で、映画撮影の技法についても多くを学びました。
現在、私たちは小規模な組織でありながら、建築設計にとどまらず、ストーリーテリング、ビジュアライゼーション、映像制作までを一貫して担うことのできる、ユニークな立ち位置にいます。

このプロセスにより、必要な人数は以前より少なくなりました。一方で、チームの一人ひとりには、より幅広いクリエイティブ領域への対応力が求められます。
本日お見せしたのは、「今のAIでは何が可能か」という一例に過ぎません。ここ2、3年でAIは驚異的な進化を遂げましたが、それでもなお、その可能性の表層に触れている段階にすぎないと感じています。
技術の進展は非常に速く、私たちも遅れを取らぬよう継続的にリサーチを重ねています。これからの10年で、AIは建築に何をもたらすのでしょうか。1年、2年前までは、AIを積極的に活用する事務所は限られていました。しかし現在では、多くの建築事務所でAIの活用が当たり前になりつつあります。
私としては、競合であってもぜひAIを用いた探究を進めてほしいと考えています。AIは単なる効率化の道具ではなく、思考や制作のあり方そのものを変革する力を持っているからです。
これは始まりに過ぎません。これからの未来は、さらに刺激的で創造的なものになるはずです。

質疑応答
Q1. 「プランニングの最適化」とは、都市開発での手法と同様に、Grasshopper上でGPTなどを用いて自然言語からコードを生成し、最適化アルゴリズムに流すような形で行っているのでしょうか。具体的に、どのような手法やアルゴリズムを用いていますか。
段階を追ってご説明します。まずRhinocerosのGrasshopperを基盤にし、LLMを併用しながら進めます。入力したデータを受け取り、必要なアウトプットを取り出し、それを数値化して整理します。例えば、Excelのような形で指標を一覧できる状態に整えるところから始めます。
次に、その数値データをもとに生成アルゴリズムを走らせ、最適化を行います。このときは複数の評価基準を設定し、それらを満たす方向へ探索を進めます。Grasshopper内では、GalapagosやOctopusといった最適化ツールを取り込み、パラメータ探索を実行していきます。
また、LLMをスクリプトの一部として扱い、ChatGPTに読み込ませたうえでAPIと接続し、さまざまなデータを管理しながら最適化のプロセスを回していきます。こうした連携によって、設計と検証の往復をより滑らかに進められる点が特徴です。
Q2. AIで生成したスケッチや画像を3Dメッシュとして個別のオブジェクトに変換し、RhinocerosやRevitなどでスケールを与えたモデルとして扱うことで、ビジュアライゼーションのコントロール性を高めるアプローチについて、どのように考えていますか。
結論から言うと、そのアプローチは非常に有効だと考えています。実際に、現在取り組んでいる事例の一つとして、『Tripo』というサービスがあります。例えばAIで生成したタワーのデザインを、比較的高精度なメッシュモデルとして直接出力することが可能です。
ご指摘のように、個別のオブジェクトとして3D化し、スケールを与えて扱うワークフローは、コントロール性の観点から非常に理にかなっています。例えば、複数のタワーを設計する場合、それぞれをAIで生成し、個別に調整したうえでクラスターとして構成する方法も有効です。
ただし、注意すべき点もあります。オブジェクトを個別に分解しすぎると、マスタープラン全体をホリスティックに捉える視点が弱くなる可能性があります。私たちが広大な敷地に多数の高層建築を配置するような計画を行う際には、まず拡散モデルやイメージモデルを用いて、全体として一貫した建築言語を確立します。そうすることで、各建物を貫くビジョンを明確にし、全体像を「ロック」するのです。
そのうえで、必要に応じて個別の要素を3Dモデルとして扱うという段階的なアプローチを取ります。
なお、Image to MeshやImage to Modelといった技術は、まだ発展途上の領域です。しかし成熟が進めば、設計プロセスにおいて極めて強力なツールになる可能性を秘めていると感じています。
Q3. プレゼンテーションで多用されていた動画は、Image to Videoで制作しているのでしょうか。それとも、モデルを動かした映像をベースにAIでエンハンスするVideo to Videoのアプローチを採用しているのでしょうか。
ご質問の内容は、フォトグラメトリに近いアプローチも含んでいるのではないかと理解しました。現在存在している技術の一つとして、動画データをAIに入力し、そこから点群を生成し、さらに3Dメッシュの近似モデルを構築する方法があります。
私たちもその技術を活用しています。特にマスタープランの段階では、スケッチやイメージから生成されたコンテンツをメッシュ化し、それを動画として展開するプロセスを取り入れています。
ただし、現時点ではAIによる動画生成の精度はまだ十分とは言えません。生成されたメッシュにも誤差や不安定な部分が含まれることがあり、完成度の面では限界があります。
とはいえ、これはあくまで現在の技術水準の話です。今後この分野が成熟していけば、Image to VideoやVideo to Video、さらにはImage to Meshを組み合わせたワークフローは、非常に強力な制作手法へと発展していく可能性を秘めていると考えています。

Q4. ビジュアル制作チームでは、具体的にどのようなツールを使用していますか。
ビジュアルチームが使用しているツールは、基本的にはデザインチームと共通しています。ただし、内製で独自に開発しているツールも一部あります。一方で、すでに一般公開され、多くのクリエイターが利用している外部ツールも積極的に取り入れています。
具体的には、プレゼンテーションでも触れたMidjourneyをはじめ、Nano Banana、Photoshop、Veo、Klingなどを用途に応じて使い分けています。これらのツールについては、リサーチチームが継続的に検証と比較を行い、最適なものを選定しています。
AI関連ツールは進化のスピードが非常に速く、主流となるサービスも短期間で入れ替わります。かつてはKlingを中心に使っていたものが、VeoやGeminiへと移行することもあります。そのため、常に最新動向を把握し、どのツールが現在最も高いパフォーマンスを発揮しているのかを追い続ける姿勢が重要です。
Image to VideoやText to Videoなどの分野では、各種リーダーボードが公開されています。そうした情報を定期的に確認しながら、最適な選択を行っています。
Q5. 「リビングスケッチ」の動画内で動いている人物も、すべてAIによって生成されているのでしょうか。
はい、基本的にはすべてAIで生成しています。ただし、注意深くご覧いただくと分かるように、現時点の技術はまだ完全ではありません。人物の動きの細部には不自然さやエラーが残ることがあります。
特に小さな動作や繊細な挙動については、AIが十分に再現しきれていない部分も見受けられます。とはいえ、こうした課題を含めて現在の到達点であり、今後の技術進化によってさらに精度は高まっていくと考えています。
Q6.AIによって一度に大量の設計案を生成し、マトリックス状に提示する場合、クライアントが情報量に圧倒されたり、AI特有のエラーに目を奪われてしまったりすることがあります。こうした状況において、効果的なコミュニケーションを行うためのポイントは何でしょうか。
まさにその点は、私たちの取り組みの核心にあたるテーマです。常に課題意識を持って向き合っています。
ご紹介したプロジェクトのクライアントは、私たちに依頼する前に、従来型のワークフローで設計を行う地元の建築事務所をいくつか訪れていました。しかし提案内容に満足できず、よりラディカルなアプローチを求めていました。AIを活用している私たちの存在を知り、非常にオープンマインドな姿勢でプロジェクトに臨んでくださったのです。
一方で、ローカルコンサルタントとして参加した地元の建築士の方は、私たちの提示したマトリックスに強い違和感を示しました。「構造が成立しない」、「柱が細すぎる」といったディテール面への指摘が続き、コンセプト段階の探索であることが十分に共有されていなかったのです。
私たちはクライアントに対し、「量から始めて質へと絞り込む」プロセスであることをあらかじめ説明していました。しかし、このAI以後の設計プロセスに対する理解は、世代や経験によって大きく異なります。結果として、クライアントの判断により、その建築士の方は一時的にプロセスから外れることになりました。
2ヶ月後、詳細なプランニングと高精度な3Dモデル、完成度の高いレンダリングを提示した際、その建築士の方は「おめでとう」と評価してくれました。最終成果を見て初めて、プロセス全体が理解されたのです。
この経験から学んだのは、「単に設計案を見せるだけでは不十分」ということです。プロセスそのものを丁寧に説明し、初期段階は探索であること、そこでは量を広げることが目的であることを共有する必要があります。
フランク・ゲーリーが紙を丸めて発想を得たように、初期段階のアウトプットはあくまでスケッチです。たとえフォトリアリスティックに見えるレンダリングであっても、それは「完成形」ではなく「思考の途中段階」であるという認識を共有することが重要です。
最終的な精度は、イテレーションを重ねることで高めていきます。その流れを理解してもらえるかどうかが、コミュニケーションの成否を分けます。
クライアントがオープンマインドであれば、一緒に探索する姿勢を共有できます。一方で、より確実性や正当性を重視するタイプであれば、提案のパッケージや説明の順序を調整する必要があります。
重要なのは、相手に合わせてプロセスの見せ方を変えることです。AI時代の設計においては、成果物だけでなく、その背景にあるメソドロジーまで含めて伝えることが、効果的なコミュニケーションにつながります。

Q7. 実際にAIを活用してきた立場から見て、AIの弱点はどこにあると感じていますか。
AIの弱点の一つは、「それらしいもの」を簡単に作れてしまう点にあると感じています。
例えば、建築を学び始めたばかりの学生であっても、建築家としての責任や空間のニュアンス、スケール感や機能的要件への理解が十分でなくても、AIを使えば一見完成度の高いアウトプットを生成できます。しかし、それが実際に機能する設計かどうかは別問題です。深い理解や責任を伴わないまま成果物だけが先に現れてしまう危険性があります。
私たちの事務所にも若いインターンがいますが、AIを使えば魅力的なビジュアルを作ることは可能です。しかし、スケールや機能、構造といった建築の基礎的要素に対する理解が伴わなければ、実務に耐えうる設計にはなりません。そのため、ツールの使い方だけでなく、建築家として何を考えるべきかを丁寧に教える必要があります。AIの弱点は、使う側の思考や責任感が不足していても成果物が成立してしまう点にあるといえます。
ただし、この精度の問題については、時間とともに改善されると考えています。3年前と現在を比べれば、その進化は明らかです。利用できるデータセットも増え、モデルの精度も着実に向上しています。現時点では弱点であっても、将来的には大きな制約にはならなくなる可能性が高いと見ています。
Q8. 建築ビジュアライゼーションにおいて、敷地周辺の自然や建物などのコンテキストは、AIで再現しているのでしょうか。それとも実写素材などと合成しているのでしょうか。
ご指摘の通り、敷地およびその周辺環境は、建築を考えるうえで欠かせない要素です。私たちも、基本的には実在する物理的な敷地やその周辺情報を前提に設計を進めています。
実際のプロジェクトでは、単一の手法に依存するのではなく、複数の方法を組み合わせたコンポジットのアプローチを取っています。例えば、AIで生成したビジュアルに加え、Googleマップから取得した周辺情報や、クライアントが撮影したドローン写真などを統合します。そのうえで、AIで補正や整形を行い、最終的にはPhotoshopで合成・調整を加えるといった工程を経ます。
つまり、AIだけで完結させるのではなく、実写素材や既存データと組み合わせるハイブリッドな方法です。現在主流となっているリアリズム重視のビジュアライゼーションは、すでにAIと実写の融合によって成り立っています。私たちのワークフローも、その両者を統合する形で進めています。
Q9.プレゼンテーションで見せていただいたパースや動画は非常に高解像度でしたが、解像度を上げる際には内製ツールを使っているのでしょうか。それとも、一般的な生成AIで作成した素材を後からブラッシュアップ・アップスケールしているのでしょうか。
私たちの制作には、パイプラインとして整理されたワークフローがありますが、その中で使用しているツールの多くは一般に流通している商用ツールです。Image to Videoなどで生成する段階では、必ずしも最終解像度で出力しているわけではありません。その後の工程で、AIベースのアップスケーラーを用いて解像度を引き上げています。
動画に関しては、まずKlingなどで生成し、その後アップスケーリング処理を施す方法を取っています。Topazのようなツールも活用しています。加えて、一部については社内で開発した独自の処理も組み込まれていますが、完全に内製化された閉じたシステムというわけではありません。
さまざまな既存ツールを組み合わせ、最適な結果を得る形でワークフローを構築しているというのが実情です。
Q10. スロベニアのヴィラ計画では、伝統的様式をAIに学習させたとのことですが、画像データをもとに学習させたのでしょうか。また、学習の過程で歴史的な時間軸は考慮しましたか。
学習には主にイメージベースのデータを用いました。スロベニアの伝統建築に関する画像を収集し、それらをもとにデータセットを構築してAIに読み込ませています。
一方で、歴史的な時間軸、つまり特定の時代ごとの変遷については、今回は明確に区分して扱ってはいません。なぜなら、私たちの目的は、特定の時代様式を忠実に再現することではなく、スロベニア建築のエッセンスを抽出し、それを現代的に再解釈することにあったからです。
そのため、地域特有のディテールに注目しました。例えば、木造の屋根構造や軒下の装飾、外部に張り出した木製バルコニーなど、スロベニアらしさを感じさせる要素を一つひとつ選び出します。内装の意匠も含め、価値があると判断したディテールを抽出し、それらを組み合わせてAIのワークフローに組み込みました。
重要だったのは二点あります。一つは、ラグジュアリーな質感を確保すること。もう一つは、スロベニア独自の建築的特徴を明確に取り入れることです。単なるコピーではなく、伝統を現代的なニュアンスで再解釈する。その姿勢でプロジェクトに取り組みました。






