第3回 ミーティングのお供に!「Morpholio Trace」~理解力と決断力とコミュニケーション~

働き方について
オフィスがないということですが、開発の分担やコミュニケーションの方法はどのようになっていますか?

現在、ファウンダー4人+マイナーパートナー3人で運営しています。メール、電話、チャットで日々の業務を行っています。

少し脱線してしまいますが「The Mythical Man-Month」というIBMソフトウェア技術者兼プロジェクトマネージャーのフレッド・ブルックス氏が書いた書籍があります。あるプロジェクトに何人の人を投入すると一番効率的か計ったときに7人以上だと効率が下がってしまうという研究結果のようです。7人のチームのほうが、20人のチームより3倍速くなる!というのは驚きです。

人数が増えたときの一番のコストはコミュニケーションコストです。大きい会社にするには人手が必要だけれど、プロジェクトで考える場合7人がちょうどよいんです。

また、オフィスがないのも利点だと思っています。

決断するときは面と向かってコミュニケーションをとるほうがよいけれど、日常的な問題は離れているほうが「コミュニケーションを省く」癖がつくので問題自体に集中できるんです。

因みに、ここのカフェスペースはもう一人の開発者とミーティングするとき使っています。解決法がわからない問題は相手の様子を見ながらコミュニケーションをとるようにしています。

長谷川氏に指定されたブルックリンのお洒落なカフェスペース

長谷川氏に指定されたブルックリンのお洒落なカフェスペース 長谷川氏に指定されたブルックリンのお洒落なカフェスペース

新しいテクノロジーの可能性についてお聞かせください。

ARは必ず大きな波がくる技術ですね。ARの持っている特性は基本的に体感機能(英語でいうとKinestric Understand)の拡張です。

例えば、「5m × 2m」と言ったとき情報として分かっても体感できません。建築家は経験として体験できるけれど、多分一般的な人はなかなかできないと思います。AR はそれを乗り越えられる技術ということです。ARの技術を通して体感し、理解することができる。

現在リリースしているアプリにもAR機能は搭載されているんですよね?

はい。Morpholiro TraceにもMorpholio Boardにも搭載されています。

~Morpholio Traceの場合~

iPadカメラで映し出された現実世界上にMorpholio Traceに取り込んだ図面を映し出し、第三者にここからここまで歩いてみてくださいと体験してもらうことができます。体感してもらいスケール感を共有することで、「このキッチンのアプローチ狭いからもう少し広くしたほうがよいね」とその場で判断できます。また、Morpholio 上でパブリックと押すと、同じ空間にある複数のiPad(5台以内)で同じ図面・空間を見ることができます。

Morpholio Trace のAR機能

~Morpholio Boardの場合~

Morpholio Boardというインテリアデザイン向けのアプリは、家具を実寸大ARで現実世界に投影できます。AppleのARKitを利用しており、環境光レベルをちゃんと計算して、3Dモデルのテクスチャに反映されます。あたかもそこにあるかのように表現できるのはAppleのきめ細かい開発によるものですね。

Morpholio Board のAR機能

期待している次のデバイスは何ですか?

AR用デバイスが眼鏡になればもっと良いですね。

iPadは持ち歩きながらもコミュニケーションを取れるデバイスとしては良いけれども、まだまだベストなインターフェイスではありません。おそらくAppleグラスなどが発売される時には建築家がiPad上に書いた図面がそのままグラスに瞬時に反映され、見て歩いて体験することができるようになると思います。

今後搭載したい機能はどういったものですか?

建築の場合、CADがなくなることは絶対ないので、スケッチしたらAIによるオートメーションで図面やCADが立ち上がるというところまでいきたいですね。

発想したものや最終的なイメージができているのに、わざわざCADソフトをちくちく作りこまないといけない。Morpholioでは、初期の段階で、発想を図面や3Dデータに変換し、フィードバックできるものにしたいですね。

AIによるオートメーションの可能性も非常に高いのですね。
現在、具体的に搭載されているオートメーション機能があれば教えてください。

Morpholio Board内の3つのビジュアルモードを自動連携させています。コンセプトボード(Board Mode)、ワードボード(List Mode)、スプレッドシート(Cut Sheet Mode)

Morpholio Board内の3つのビジュアルモード

例えばコンセプトボードに1つのアセットをカタログデータから追加した際、ワード・スプレッドシートにも自動的に追加される仕組みです。今まではわざわざ3つ用意していたものをオートメーション化することで、デザインや発想に集中してもらいたいのが狙いです。手作業でやっている作業が利益を生むわけではなくデザイン検討をいかにプロダクティブに行えるかが重要です。

テクノロジーとどのように向き合っていますか?

ユーザーの役に立つアプリを作っている以上、テクノロジーの次の波を知っているかどうかは非常に重要です。ARもAIも大きい波であるのはわかっているがまだまだ本番ではない。恐らく、もう5年はかかると思う。ただ、波が来た時に乗りこなせられるかどうかは、日々新しいテクノロジーにちゃんと向き合い、準備を進めていたかで決まると思います。

なるほど、胆力を養うことが重要なんですね。新しい技術を盛り込みながら、Morpholioで解決したいこと、実現したいことはどういったことですか?

Morpholioで新しい技術を利用する目的は、バーチャル空間をつくることや、拡張現実を見せることではなく、リアルに見せることで理解度を高め、コミュニケーションの隔たりを取り除くことです。

図面を見せても理解度が50%だった場合、ARを利用したことで理解度が増す。Morpholioの最終的な目標は意思伝達を素早くし、発想を拡張することです。

今ってクライアントに「どんなイメージがありますか?」とヒアリングしたあと、持ち帰る場合が多く、コミュニケーションを断絶してしまいます。一か月後にデザインを持っていっても、何を話したか覚えてないことが多いので、あらためてデザイン図面を見ながらもう一度コミュニケーションをおさらいする。

長谷川徹氏

これがクライアントのいる場で、こういうことですかと瞬時にクライアントが考えていることをビジュアル化したらどうでしょう?クライアントも十分な情報量を持った状態で、納得して決断することができるのではないでしょうか?コミュニケーションをシャットダウンしないことがARでは実現できると思っています。

そして、時間軸も本当に大切。コミュニケーションがもっと速く、シームレスになれば、意思伝達に隔たりも生まれず、発想することに集中できると考えています。
貴重なお話ありがとうございました!

槙田 淑子

槙田 淑子Producer, Facilitator, Writer

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建築パース・建築ビジュアライゼーション分野のポータルサイト『Kviz』編集長。デジタルメディアシステム部 所属、社内ワークスタイルサポートプロジェクト「わくすた」リーダー。エンターテイメント・文教などデジタルメディアを使う業界向けの製品プロモーションやセミナーも担当しています。

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