インタビュー

コクヨ 三戸幸裕氏に聞く 空間設計と3Dビジュアライゼーション(後編)

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コクヨ 三戸幸裕氏に聞く 空間設計と3Dビジュアライゼーション(後編)

コクヨといえば文具。子どもの頃から親しみ、大人になっても使い続けるコクヨのステーショナリーは、日本人にとって最も身近なプロダクトの一つだろう。だがコクヨのフィールドはそれだけではない。たとえばオフィス家具の製造・販売や、これを用いたオフィス空間の構築までトータルに展開するファニチャー事業は、コクヨのもう一つの主力事業である。
このオフィス空間構築に特化した特異な3D CGビジュアライゼーションを担うのが、同社スペースソリューション事業部の三戸幸裕氏である。高品質と効率化を高いレベルで融合した、同氏の取組みについてお話を伺った。

前編はこちら

ビジュアライゼーション・ツールについて①

現在、私が3Dビジュアライゼーション制作に使っているのは、まずAutodesk 3ds Max。そして、そのプラグインでレンダラーのV-Rayです。3ds MaxでモデリングしV-RayでレンダリングしてPhotoshopで仕上げるのが、当社のパース制作の基本スタイルです。他に特殊な案件でVR等が必要な場合はUnityを、動画編集でAfter Effectsも使います。

メインツールの3ds Maxは10年以上使い続けています。昔から建築系3Dビジュアライゼーションでは3ds MaxとV-Rayのセットが最もスタンダードで、それは今も変わりません。私はソフトウェア検証も任されているため、多様なソフトと連携しやすい3ds Maxは、ある種のハブ的役割も担ったツールとして使っています。

ビジュアライゼーション・ツールについて②

V-Rayは、きわめてコストパフォマンスの高いレンダラーです。他のレンダラーも幾つか使ってみましたが、どれと比べてもレンダリング品質と計算時間のバランスという点で、最も優れたレンダラーではないでしょうか。たとえば、かつて3ds Maxの標準レンダラーだったMental rayと比較しても、V-Rayが同品質のレンダリングに費やした時間はMental rayのわずか1/10でした。

Unityは主にリアルタイム系CGの制作に使っています。当社では1フロア数千㎡という大規模案件に使うので、そうした大規模データを顧客先でノートPCを使って動かすには、軽いデータを作りやすいUnityが向いているのです。

制作体制と制作フロー、納期について

案件にもよりますが、設計提案を行う場合、お客様との打合せから実際のプレゼンテーションまでの期間は、設計を含め数週間。パースは基本的に設計完了後に発注されるのですが、パース制作期間は提案内容によって大きく変わります。1案件の制作点数は数点ですが、案件数が多いので年間制作量は数千点もの点数となります。これを社内制作と外注を使い分けながら制作していくわけです。

パース制作も多くのパターンがありますが、基本的には設計者の「ここをこう見せたい」という指示で進めます。モデリングしてカメラを配置し、その「見せたい範囲」をカバーしながらより美しく見えるアングルを探していきます。当然、変更もありますし、こちらから異なるアングルを提案することもあります。限られた時間の中、最後まで品質向上のため設計者とやりとりを続けます。

パース制作用独自機能をMax Scriptで

パース制作はタイトなスケジュールで進める場合が多く、効率化は、私たちにとって常に重要な課題です。そのため、作業フロー全体にわたりさまざまな工夫を凝らしています。中でも効率化に寄与しているのが、Max Scriptの活用で、パース制作用に作成した独自機能が20種ほどあります。幾つか紹介してみましょう。

●3DModel Loader:フォルダを開かなくても社内サーバから3Dモデルを検索し、直接読み込めるツールです。テクスチャ類もプロジェクトフォルダへ自動的にコピーされます。

●Rendering Tool:ワンクリックでシーン内の全カメラアングルをネットワークレンダリングできるツールです。特定の命名規則に添って自動で保存名を付けて保存されます。

Rendering Tool

Rendering Tool

●ObjectID Manager:マスク出力用のオブジェクトIDを管理するためのツールです。V-Ray Multi Matte Elementのプレビューも行うことができます。

●SketchUp Importer:SketchUpデータを3ds Maxへ読み込み、マテリアルをV-Rayに変換するためのツールです。当社でも設計者がSketchUpを使うようになったので作りました。

この他では、最近、フロアに家具が配置されていくアニメーションをMax Scriptで作成しました。KeyShifterという既存スクリプトを参考に、建築アニメーション用の動きを付けられる様に私が書いたものです。オフィスが徐々にでき上がっていくアニメーションは期待感を高める効果があり、普通のウォークスルー以上に高い訴求力を期待できます。

「繰返し」を自動化して省力化とミス削減を

パース制作は「繰返し」が多い作業です。これらの繰返し作業を自動化していけば、一つ一つは小さくとも最終的には大きな省力化に繋がり、ミスも削減できます。そうすれば、これまで手作業で出来なかったことも可能になって表現の幅も広がっていきます。現在、このツールセットは、社内制作メンバー全員で共有しており、皆が日常的に利用するようになっています。

モディファイヤセット機能

モディファイヤセット機能

Max Script以外にも、効率化の工夫はいろいろ試みています。たとえばモディファイヤセット機能。よく使うモディファイヤをボタンに登録しておけば、いちいちリストから選ばずワンクリックで追加できるという既存機能です。3ds Maxユーザーの間でも意外と使われていない様ですが、パース制作に限らず3ds Maxの作業に欠かせない設定の一つだと考えています。

同じ作業を何度も繰り返したくないので、面倒だと感じた作業はMAX Scriptで自動化する様にしています。

設計3次元化の流れを先取りして──

技術面でいま注力しているのは、リアルタイム系の3Dビジュアライゼーションの活用です。たとえばUnityやUnreal Engineなどのゲームエンジンから書き出すウォークスルー・アプリ等に注目しています。レンダリングが要らないメリットは非常に大きくて、たとえば顧客先で3Dを使ったデザイン承認を得る試みも始まっています。

業務面では、当社の設計業務自体が徐々に3D化しており、それへの対応が喫緊の課題です。実際、SketchUpの活用も増えており、新たなBIMツールの導入検討も始まりました。設計業務の3D化という流れは今後も加速していくでしょう。
そうなると、設計完了時に3Dデータができている状態になるので、それを有効活用していく新しい流れについても考えていきたいですね。

三戸幸裕氏