これまで『Kviz』に掲載されたコラムやイベントレポートを冊子にいたしました。
建築パース・ビジュアライゼーションのコンテンツをより読みやすくするために今後も定期的に冊子化していきます。

Kviz冊子vol.1はこちらからお申込みの上、ダウンロードいただけます。

vol.1は
noizさまに連載いただいている「建築設計におけるコンピューテーショナル・デザインの技法と応用」全6回のコラムの中から4回分を掲載しております。Rhinocerosと、ヴィジュアルプログラミングツールのGrasshopperを中心にとりくまれたプロジェクト実例を知ることができる貴重な内容です。

また、年に2~3回開催している建築ビジュアライゼーションMeetUpのイベントレポートから2編を掲載いたしました。ビジュアライゼーション制作(パース・VR・AR・xR・動画制作など)に興味のある方にオススメのコンテンツです。

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ビジュアライゼーション・ツールについて①

現在、私が3Dビジュアライゼーション制作に使っているのは、まずAutodesk 3ds Max。そして、そのプラグインでレンダラーのV-Rayです。3ds MaxでモデリングしV-RayでレンダリングしてPhotoshopで仕上げるのが、当社のパース制作の基本スタイルです。他に特殊な案件でVR等が必要な場合はUnityを、動画編集でAfter Effectsも使います。

メインツールの3ds Maxは10年以上使い続けています。昔から建築系3Dビジュアライゼーションでは3ds MaxとV-Rayのセットが最もスタンダードで、それは今も変わりません。私はソフトウェア検証も任されているため、多様なソフトと連携しやすい3ds Maxは、ある種のハブ的役割も担ったツールとして使っています。

ビジュアライゼーション・ツールについて②

V-Rayは、きわめてコストパフォマンスの高いレンダラーです。他のレンダラーも幾つか使ってみましたが、どれと比べてもレンダリング品質と計算時間のバランスという点で、最も優れたレンダラーではないでしょうか。たとえば、かつて3ds Maxの標準レンダラーだったMental rayと比較しても、V-Rayが同品質のレンダリングに費やした時間はMental rayのわずか1/10でした。

Unityは主にリアルタイム系CGの制作に使っています。当社では1フロア数千㎡という大規模案件に使うので、そうした大規模データを顧客先でノートPCを使って動かすには、軽いデータを作りやすいUnityが向いているのです。

制作体制と制作フロー、納期について

案件にもよりますが、設計提案を行う場合、お客様との打合せから実際のプレゼンテーションまでの期間は、設計を含め数週間。パースは基本的に設計完了後に発注されるのですが、パース制作期間は提案内容によって大きく変わります。1案件の制作点数は数点ですが、案件数が多いので年間制作量は数千点もの点数となります。これを社内制作と外注を使い分けながら制作していくわけです。

パース制作も多くのパターンがありますが、基本的には設計者の「ここをこう見せたい」という指示で進めます。モデリングしてカメラを配置し、その「見せたい範囲」をカバーしながらより美しく見えるアングルを探していきます。当然、変更もありますし、こちらから異なるアングルを提案することもあります。限られた時間の中、最後まで品質向上のため設計者とやりとりを続けます。

パース制作用独自機能をMax Scriptで

パース制作はタイトなスケジュールで進める場合が多く、効率化は、私たちにとって常に重要な課題です。そのため、作業フロー全体にわたりさまざまな工夫を凝らしています。中でも効率化に寄与しているのが、Max Scriptの活用で、パース制作用に作成した独自機能が20種ほどあります。幾つか紹介してみましょう。

●3DModel Loader:フォルダを開かなくても社内サーバから3Dモデルを検索し、直接読み込めるツールです。テクスチャ類もプロジェクトフォルダへ自動的にコピーされます。

●Rendering Tool:ワンクリックでシーン内の全カメラアングルをネットワークレンダリングできるツールです。特定の命名規則に添って自動で保存名を付けて保存されます。

Rendering Tool

Rendering Tool

●ObjectID Manager:マスク出力用のオブジェクトIDを管理するためのツールです。V-Ray Multi Matte Elementのプレビューも行うことができます。

●SketchUp Importer:SketchUpデータを3ds Maxへ読み込み、マテリアルをV-Rayに変換するためのツールです。当社でも設計者がSketchUpを使うようになったので作りました。

この他では、最近、フロアに家具が配置されていくアニメーションをMax Scriptで作成しました。KeyShifterという既存スクリプトを参考に、建築アニメーション用の動きを付けられる様に私が書いたものです。オフィスが徐々にでき上がっていくアニメーションは期待感を高める効果があり、普通のウォークスルー以上に高い訴求力を期待できます。

「繰返し」を自動化して省力化とミス削減を

パース制作は「繰返し」が多い作業です。これらの繰返し作業を自動化していけば、一つ一つは小さくとも最終的には大きな省力化に繋がり、ミスも削減できます。そうすれば、これまで手作業で出来なかったことも可能になって表現の幅も広がっていきます。現在、このツールセットは、社内制作メンバー全員で共有しており、皆が日常的に利用するようになっています。

モディファイヤセット機能

モディファイヤセット機能

Max Script以外にも、効率化の工夫はいろいろ試みています。たとえばモディファイヤセット機能。よく使うモディファイヤをボタンに登録しておけば、いちいちリストから選ばずワンクリックで追加できるという既存機能です。3ds Maxユーザーの間でも意外と使われていない様ですが、パース制作に限らず3ds Maxの作業に欠かせない設定の一つだと考えています。

同じ作業を何度も繰り返したくないので、面倒だと感じた作業はMAX Scriptで自動化する様にしています。

設計3次元化の流れを先取りして──

技術面でいま注力しているのは、リアルタイム系の3Dビジュアライゼーションの活用です。たとえばUnityやUnreal Engineなどのゲームエンジンから書き出すウォークスルー・アプリ等に注目しています。レンダリングが要らないメリットは非常に大きくて、たとえば顧客先で3Dを使ったデザイン承認を得る試みも始まっています。

業務面では、当社の設計業務自体が徐々に3D化しており、それへの対応が喫緊の課題です。実際、SketchUpの活用も増えており、新たなBIMツールの導入検討も始まりました。設計業務の3D化という流れは今後も加速していくでしょう。
そうなると、設計完了時に3Dデータができている状態になるので、それを有効活用していく新しい流れについても考えていきたいですね。

三戸幸裕氏

コクヨの三本柱の事業展開

「コクヨ」という社名は漢字で書くと「国誉」。つまり「国の誉れ」という意味です。そして、その「国の誉れ」の名に見合った商品やサービスを提供していくことにより、世の役に立つことを目指している会社なのです。この企業理念は1905年の創業以来、変わっていません。

一方で、コクヨが展開する事業フィールドは広がり続けています。創業時は和式帳簿の表紙製造からスタートしたそうですが、現在の主力事業は、文具、家具、通販という三本柱で展開しています。私が所属しているファニチャー事業本部は、家具の製造販売を担う部門で、オフィス家具を中心に公共家具などの製造・販売を行っています。

スペースソリューション事業部のミッション

オフィス家具は、店に並べて売るよりもオフィス移転する企業から直接依頼されて販売するケースがほとんどです。競合各社とのコンペ案件も多く、そうなると各社それぞれ「どの家具をどう配置し、どんなオフィス空間を創るのか」、「どんな働き方ができるのか」を設計・提案して、お客様に選んでいただくことになります。この空間づくりと提案がスペースソリューションのミッションです。

そのため、当事業部にはオフィスを設計する建築士やインテリアコーディネーター、働き方を考えるワークスタイルコンサルタントまでいます。さらに実際のプレゼンに際しては訴求力を高めるため、3DCGによるさまざまなビジュアライゼーションを活用しています。この3Dビジュアライゼーションに関わる制作とテクニカルコーディネートが私の主な業務です。

三戸幸裕 氏

なぜ3Dビジュアライゼーションが必要か

コンペ案件では、確実にお客様に選ばれるべく設計はもちろんプレゼンテーションにも一段と力が入ります。競合に負けない、よりクオリティの高いビジュアルを作る必要性があるのです。

設計案件の提案で用いるビジュアライゼーションは建築パースが中心となります。その制作については外注と社内制作を併用する事で、質と量とスピードを両立させています。社内制作では設計者も傍にいるので、細かい指示のやりとりや確認もスムーズに行えます。ビジュアル制作だけでなく、設計業務も内容をブラッシュアップしていく余裕が生まれ、さらなる品質向上に繋がります。

パースからウォークスルー、VRへ

従来は静止画パースが中心でしたが、今ではさまざまな3Dビジュアライゼーションを活用するようになりました。特に近年、新しい見せ方が次々と出現し、これら新手法を活かしたプレゼンが始まっています。最近ではウォークスルー・アニメーションやVRを利用しています。

内容に適した手法を選び活用しています。「お客様からこんな要望をもらったが、これに応えるには静止画よりVRの方が効果的では?」などと見せ方を考えていきます。新しい手法は次々登場するので、どれにどんな効果があるのか、コクヨのやり方に合うのか試行錯誤しながら制作を行っています。

VR事例

VRを活用した事例を紹介しましょう。移転前に新しいオフィスをリアルに感じてもらう為に移転先フロアでVR体験会を行いました。5000㎡の移転先フロアは家具も何も入ってない状態で、3D CGで作ったVRオフィスを見せ「どんなオフィスになるか」体感してもらおうと考えました。

よりリアルなVR体験とするため、VRの見せ方を工夫しました。まず現地に一脚だけ椅子を置き、この椅子とバーチャル空間のオフィスの椅子をリンク。VR体験者には、この椅子に座った状態からスタートしてもらったのです。

VRによるオフィス紹介(パース)

VRによるオフィス紹介(パース)

VRによるオフィス紹介(VR視界)

VRによるオフィス紹介(VR視界)

バーチャルオフィスを体感させるために

VRゴーグルを被り本物の椅子に座った体験者は、VR上の椅子に本当に座っている感覚からスタートするので一気に没入感を高める事ができます。また、ただバーチャルオフィス内を「歩いて見てください」と言うだけでは、「どこへ行けば良いか分らない」と言われる方もいます。そこで、VR空間内で「宝探し」の様なゲームを行う仕組みにしました。ゲーム要素を組み込む事により、VRオフィス内を探索する目的を得た体験者は、積極的にバーチャルオフィス内を歩き回ってくれるようになりました。参加した方からは「この席は集中できそう」や「出社したらこういうルートで自席へ行くのか」など新オフィスで働く姿を意識したコメントも聞かれ、VR体験会を成功裡に終えることができたのです。

空間設計はバーチャルな商品案だから

VRはしばしば物珍しさだけで使われますが、それは当社のやり方ではありません。私たちにとってそれは、設計意図を正確に、そして高い説得力で伝えるための手段です。たとえば、あるお客様が新オフィスについて「来客の視界が気になる」と仰有るので、パノラマVRを使い「特定の視点から見渡した視界」を体験いただいた事があります。VRで確認されたお客様にはすぐご納得いただけました。

空間設計は、販売時点で実物が存在しないバーチャルな商品案です。プロダクトなら実寸のモックアップが使えますが、建築では実寸大の模型を作る事は現実的ではありません。建築界でモックアップに替わるものがVRなのです。現状、お客様の所でのVRプレゼンにはハイスペックPCやVR機材などのセッティングが必要で、限られたプレゼン時間の中で行うのは困難です。しかし、これもハードが進化すればいつか可能になると思っています。

VR空間デザインコンテスト「VR Architecture Award」にKvizは協賛しています。

「VR Architecture Award(VRAA)」とは?

現実と呼ばれる「実空間」とインターネットが拓いた「情報空間」が融合し、「新たな3次元空間」が生まれるとき、人はどのように 豊かに生きていくことができるか――。
VRAAは、人類の生きる空間をみんなで考えるVR空間デザインコンテストです。

 

募集テーマ
「バーチャル・コミュニケーション」

2019年現在、ユーザーが自由に空間をアップロード可能なソーシャルVRプラットフォーム「VRChat」では、日々投稿される多くの「ワールド」が、アバターを介した人々の生活空間として急速に発展しつつあります。

この「ワールド」の特徴は、実空間では実現できないインタラクティブな3次元空間体験を生み出せるところにあり、人が生きていく空間そのものを刷新できる可能性に満ちています。

本コンテストでは、 VRが切り拓くコミュニケーションや活動、実空間とは別の可能性に満ちたVR空間を広く募集します。 人類の生き方や遊び方をアップデートするような夢のある「ワールド」を、誰でも自由に、気軽に応募してください!

登録期間: 2019年5月15日(水)〜7月15日(月)23:59まで
提出期間: 2019年5月31日(金)〜7月15日(月)23:59まで

コンテストの詳細・ご応募はこちら

『海外での不動産広告CG事例』

株式会社QLEA(以下、QLEA)は、2002年の創業の制作会社で、主にマンションデベロッパーの販売促進・広告用にCG・Website・映像・VRなどを制作しています。
着実に携わる案件を広げ、海外の建築CG/VR/映像制作も手がけるようになりました。

TOKYU LAND INDONESIA | BRANZ Simatupang

QLEAが手がけた海外案件の1つ。 TOKYU LAND INDONESIA | BRANZ Simatupang

TOKYU LAND INDONESIA | BRANZ Simatupang

TOKYU LAND INDONESIA | BRANZ Simatupang

BRANZ Mega Kuningan | TOKYU LAND INDONESIA

BRANZ Mega Kuningan | TOKYU LAND INDONESIA

本セッションのスピーカーの濱田氏は、QLEAではCG・Web・ 映像制作のディレクターとしてだけではなく、VR制作チームのリーダーも兼任。最近ではドローンも飛ばすというマルチな技術の持ち主です。
3ds Maxを使い出したのは2000年ごろ。まだ名前が3D Studio MAX R3.1という名称のころから触っている大ベテランです。

楽しそうに、アプリケーションの古いバージョンについて語る濱田氏

楽しそうに、アプリケーションの古いバージョンについて語る濱田氏

長年、日本における建築ビジュアライゼーションの第一線で活躍をしてきた濱田氏。
その濱田氏が、初めて携わる海外の案件ではどのような困難や気づきがあったのでしょうか?

インドネシア・ジャカルタにおけるCG

QLEAではインドネシアの首都、ジャカルタの大型物件のCG制作に携わっています。
簡単にインドネシアの紹介をすると、人口が約2億6,200万人で、世界第4位。
東南アジアに位置し、1万を超える大小の島で構成されています。
首都ジャカルタは、開発が盛んで、大規模な都市開発のプロジェクトも進行しています。

ジャカルタの様子

QLEAが手がけた案件は、その規模は、300戸から、大きなものでは1000戸を超えるものまでと、日本国内と比べると規模が大きいプロジェクトが多いようです。

OPUS PARK | Sentul City、Sumitomo Corporation、Hankyu Hanshin Properties Corp. による1000戸を超えるプロジェクト

OPUS PARK | Sentul City、Sumitomo Corporation、Hankyu Hanshin Properties Corp. による1000戸を超えるプロジェクト

OPUS PARK | Sentul City、Sumitomo Corporation、Hankyu Hanshin Properties Corp.

OPUS PARK | Sentul City、Sumitomo Corporation、Hankyu Hanshin Properties Corp.

海外での建築ビジュアライゼーションがテーマとのことで、気になるのは日本のクライアントとやりとりする場合との違いです。

ワークフローの違いと初稿の重要性

まず、顕著な違いとして、CGパースを作る工程自体の違いが挙げられるといいます。
日本では、制作会社が設計図面を設計事務所から受け取り、その図面を元に制作会社が3ds Maxでモデリングを行い、アングルを決めてから、レンダリングをするというのが一般的な流れです。
(*広告用CGパース制作の場合)

ワークフローの違い

今回、QLEA が携わったインドネシアの案件では、SketchUp のデータを設計事務所から受け取り、そのデータをもとにアングルを決めて、レンダリングを行うというフローで案件が進みました。
インドネシアでは、図面を要求しても、なかなか手に入らず、図面がないまま進む案件もあるといいます。

設計チェックが細かく入らないことも特徴です。

日本国内のマンション広告用CGパース制作の場合、完成までの間に複数回設計士による形状の確認・修正指示が入ることが当たり前ですが、インドネシアでは形状に全く修正が入らないこともあるといいます。
CGパースを作るタイミングでまだ形状が細かく決まっていないため、「適当にカッコよければOK」ということがあるほど。

逆にいうと、日本では形状の修正をしつつ、CGパースの表現のクオリティーをブラッシュアップしていく時間もありますが、そういった工程や時間が取れず、初回の提出時から表現としても完成品としてのクオリティーを求められます。

「途中感を出さずに、完成に近い形の確認を早い段階で見せていくことが重要かなと思います。
後はどうしても海外なので、言葉によるコミュニケーションが難しいこともあって、あまり中途半端な絵を見せてしまうと、その印象がずっと強く残って、そのあとの工程に色々と(よくない)影響が出てきてしまいます。
コミュニケーションがうまく取れない中でやるとなると、絵をしっかりと見せていくいうことが非常に重要かなと思います。
日本でも初見のイメージは、非常に大事だと思うんですけども、海外だとその傾向がより強い気がします。」(濱田氏)

QLEA 濱田氏

とはいえ、日本よりも作業時間がとれない上に、形状も決まってない中で進めるため、初校で判断されるのはリスクが高くもあります。

そこで、初稿までの過程も、しっかりとクライアントに見える形で確認していく必要があると濱田氏は考えました。

セッションの様子

よりよいビジュアルを早く出す「見える化」の工夫

作り上げていく過程も、より早く、よりクライアントがイメージが湧きやすいものになるよう様々な工夫を行いました。
濱田氏は、これを「見える化」とよび、常に新しい技術や手法がないか実際の業務で試しています。

初稿提出前に行なった見える化の方法

初稿提出前に行なった見える化の方法

例えば、アングル出しをLumionで行いました。

「3ds Maxのビューポート表示もキレイにはなってきましたが、Lumionに比べると見栄えが全然違います。
また、たまたま動かしている最中に、お客さんから『あ、ちょっと待って、ここ(このアングル)いいですね!』と言われることもあったりします。
その場で演出の方向性を決めることにも使用できます。
ただ、3ds Maxにカメラデータを戻せないのだけが難点です。」

QLEA 濱田氏

他に、Corona Renderer や Google Earthを使った周辺環境との検証や、Unreal Engine 4などを活用した事例をご紹介いただきました。

UE4について

最後に、海外でも導入をしているというVRの事例紹介が行われ、本セッションは終了となりました。

VRについて語る濱田氏

QLEAでは、「GRUU」という名称でVRの制作を行なっています。
https://gruu.jp/

ジャカルタでの滞在中に、腹痛を伴う感染症にかかり、帰国後も入院をしていたという濱田氏。なんでも日本では珍しい病原菌だったそうです。
そんな日本の建築CGの現場では体験できない仕事が垣間見えた貴重なセッションでした。

アメリカと日本の文化の違いについて

アメリカの年配の人たちはデジタルに対しての拒否感が少ないと感じます。デジタルに対する垣根が低い分、理解があると思います。それは、使いやすくわかりやすい高機能な携帯電話が先に普及した日本に対し、アメリカではスマートフォンが出る前までは携帯電話ではなく、パソコンが普及したのが要因かもしれません。年配の方が、カフェでMacを広げてメールをしていたり、iPadで読書をしている姿を見ることは、こちらでは日常的なことです。

また、年の離れている人とのコミュニケーションが日本よりも上手です。例えば、アメリカの会社では誰かが叱られているのをあまり見たことがありません。全員がリーダーになれる教育を受けてきているので、チームとして自分の役目がわかっており、それぞれが協力的になれるのだと思います。

スタートアップ企業で働くことについて

考え方が別次元で衝撃を受けました。建築家としての考え方を180度変える必要がありました。

これまでは、施主やクライアントのニーズを吸い上げ、「建築物」を形作っていましたが、いまはクライアントがいない状態で家を創る。プロダクトの考え方に非常に近いと思います。ターゲットとなるユーザーがいて、どんな問題をかかえて、そのプロダクトがどんな解決に繋がるのか?を考えていく。

日本のホームメーカーさんに近い形だと思うのですが、アメリカのホームビルダーという形で、アトリエ出身の建築家がそれに取り組むというのは、これまであまりありませんでした。

HOMMAのミッション

HOMMAのミッションは「先進的な現代のライフスタイルを創り出す存在となる」こと。このミッションや意気込みに共感してくれた人たちに投資してもらい、ユーザーエクスペリエンスに重きを置き、テクノロジーやサービスを駆使しながら、建築に組み込んでいく……そういうことをやっています。

ターゲットはアメリカ人なので、その文化の違いをどう理解するか、日本人の常識にとらわれず具現化することが建築家としての大きな挑戦でもあります。

また、アメリカでなぜAirbnbやUberがはやっているのか? 記事を読んだり、見ればわかるということは絶対ないので、サービスをしっかり享受し、文化を感じ、足を使ってちゃんとターゲットユーザーの生活を肌で感じることは、とても重要だと思っています。

HOMMAの住宅開発手法

スタートアップ企業の建築家として求められていること

イノベーティブな変化というのは、外部の業界から浸透してきてスタンダードに置き換わることが多いです。業界が化石化しないために変わらないといけない部分と、守らないといけない部分を取捨選択していかないといけません。スタートアップ企業で働いているからこそ感じるのですが、今後、建築家に求められることも劇的に変わっていくのではないでしょうか。

スタートアップ企業の建築家として重要なのは、一つ一つの機能に注目することではなく、その先のユーザー体験やサービスを作っていくことに重きをおくことです。

いままでのように建築だけで解決策を考えるのではなく、テクノロジーやサービスも解決手段の一つとしてデザインに組み込む。一つの分野や業界に固執せず、最終的に使ってくれるユーザーがどのような価値を感じ喜んでくれるかを大事にする。また、アメリカの文化やプロダクトコストを無視して美意識を押し出しすぎた高級住宅を建てても、本当に届けたい人には届かなくなってしまうので、全体のバランスを大事にしています。HOMMA ONE完成後には、ターゲットユーザーに実際に家やテクノロジー、サービスを使ってもらい、その声を反映しながらブラッシュアップしていきたいです。

働くのに大切なこと

アメリカでも、日本でもどちらでも言えるのですが、チーム作りが肝だと思います。特に重要なのは、経験のある上の世代と下の世代がどのように一緒に仕事をするかだと思います。

アメリカだと世代間のコミュニケーションが比較的フランクに行われます。私はいま、長年建設現場を経験してきたコンストラクションマネージャーのGregとチームになって、現在のプロジェクトを進めているのですが、お互いの専門分野を尊重しながらチームとしてプロジェクトを進め、現場でのリーダーシップを発揮しています。

建築は自分一人では何もできない業界です。例えば、現場経験の長い人をチームに組み込まず、経験の浅い若い人だけで建築スタートアップのプロジェクトを進めてしまうのは本当にもったいないことです。

建築こそ、上の世代が経験してきたことを、世代を超えて一緒に頭を突き合わせてやっていく必要があります。その一方、下の世代が持つ、経験だけでは生まれない新しいアイデアを、上の世代が柔軟に取り入れていく姿勢をもつことも大事なのです。建築のイノベーションは実はそういったところから生まれるのではと思っています。

建築家としてのキャリアについて

一番初めに就職した大手設計事務所では、さまざまな大きなプロジェクトに携われる機会がありました。ただ、やはり大きな企業なので、しっかりと分業化されていて、自分で全体像が見えないまま経験を積むことに対して危機感もありました。

アトリエ系事務所に移ったとき、プロジェクト全体を任されることも多く、チャレンジできる環境でした。そして、いまはスタートアップという、さらなるチャレンジ領域に足を踏み入れています。

これまでの経歴から考えるとスタートアップで仕事をすることで建築家としての蓄積が減ってしまうのでは?といわれたこともありますが、分断されている世界の橋渡しをするという経験はとてもプラスになっていると感じています。

スターアーキテクツ(Starchitects)自体はとても好きですが、私は自分自身が表に出ていくことに対してあまり重きをおいていません。時代に合わせたものをつくり、建築のやり方自体を革新できる建築家になりたいです。

まず井上さんの経歴を教えてください。

日本の高校を出た後、ボストンの大学で建築を学びました。卒業後、アメリカの大手建築設計事務所であるSOM New Yorkに就職しました。2008年からアトリエ系設計事務所の小林・槇デザインワークショプ(以下KMDW)で6年働き、2014年にカリフォルニア、バークレーにKMDW, Inc.を設立後、2016年からはHOMMAのデザイナーとして働き始めました。

アメリカの建築教育はどう感じられていますか?

アメリカの大学の建築学科の期末レビューに呼ばれることがあるのですが、最近の建築学科は1学期間でやることが多すぎると感じます。

コンセプト、手書きスケッチ、CAD基本図面、ビジュアル、模型、ディティール模型、3Dプリントと内容が非常に幅広いです。

ツールを覚えることに精一杯で、一番大事なコンセプト作りのための時間をつくれていないのが心配ですね。課題提出を間に合わせるために誰かの真似をした作品を提出してしまう学生もいて、中身がすかすかのためレビューとして批評できる状態ではないときがあります。

以前、KMDWでインターンにきたアメリカの学生に、シングルラインでいいから手書きで平面図スケッチを描かせたことがあります。その学生は、デジタルツールをいつも使って作業していたため、空間に対してのスケール感がわかっていないようでした。例えば、コンセプトプランにスケッチする際、その空間に対して適切な階段のサイズがわからないといったことです。

図面を見て瞬時に頭の中で空間を把握することは、建築家として必要な能力の一つだと思います。いまは学校に入ったときから、熟練の経験者が使うようなソフトを使い始めます。基礎がないままツールの習得に入ってしまうことで別の課題が生まれている気がします。

別の課題とは?

クライアントや現場の人に説明するのに必要な、知識と言葉をもつ訓練ができていないことです。

確かにRevitやArchiCADなどを使えば、テンプレートからリアルに建てられる壁の図面を描けるかもしれない。ただ、あなたの描いている壁は、現場で職人さんが実際につくる壁なのだから、全体の整合性や構造、各部位の意味がわかっていないと現場の人にもこちらの意図は伝わらないよ、とインターンや学生に対して伝えています。

なるほど。世代間ギャップも感じますか?

CADやCGを使えること自体が問題だとは思っていません。ただ、CADを使ってこなかった上の世代と、デジタルでモノを考える下の世代とのギャップを埋める通訳者が少ないことに危機感を感じるときがあります。

もしかしたら建築業界においては、納期を短縮できるデジタルツールを喜びすぎてしまったのかもしれませんね。せっかく3Dデジタル化して時間短縮につながったのだから、その空いた時間を、下を育成する時間に回せればよかったのですが……プロジェクト自体が短納期化してしまいました。

だからこそ、意識してギャップを埋める時間や教育システムそのものを、会社できっちり考えていかないといけないのでしょう。

デジタルとアナログの変革期を経験した井上さんはいま、どのようにツールを捉えていますか?

以前は、プレゼンのために3ds Maxなどを使って格好いいビジュアルを作っていました。もちろん、目的やアピールポイントが変われば使うツールは当然変わってきます。ツールは、時代にあわせて、目的ごとに適しているものを選択していくことが重要かと思います。

井上さんが実際に使っているツールを教えてください。

HOMMAのプロジェクトは、通常の建築プロジェクトとは異なるため、自分に求められていることもこれまでと異なります。特定のCAD、CGツールを使うことよりも、さまざまなツールを試し、何が一番このプロジェクトに適切か考え、データや情報をチームにわかりやすく共有し、一緒に修正していくことが重要になります。

その点で、各プロジェクトの全体像を把握することができるiPad Proは本当に便利です。

打ち合わせをするときやスケッチをするときは、iPad ProとApple Pencilを使っています。最近はMorpholio TraceとConceptsというアプリを行き来しながら仕事していることが多いですね。

Concepts appの画像イメージ

Concepts appの画像イメージ

Morpholio Traceは建築デザイン用アプリです。取り込んだPDF、地図、写真、画像、図面に対し、レイヤーでトレーシングペーパーを重ねて、定規・ブラシ・ペンツールで書き込めます。

打ち合わせの際、AirPlayでiPad Pro上のMorpholio Trace画面をモニタに映し出し、赤入れ(修正指示)もこのアプリ上でしています。

Conceptsはプロジェクトごとの情報やスケッチをまとめるのに使用しています。デジタルの巨大な1枚のパレットに全ての考えを書き込むので、プロジェクトが進んでいくと色あせてしまうような、初めのコンセプトをいつも表示しておくことができます。また、他のアプリでプレビューしたRevit、SketchUp、Rhinoceros、ArchiCADなどのCADデータを、切り取った画像の上にトレースできるのがとても便利ですね。

あと、特別なことではないかと思いますが、情報にどこからでもアクセスできるようクラウドを使える環境は必須ですね。

デジタルツールとどのように向き合っていますか?

すべてをデジタル化したい、紙をゼロにしたいという気持ちはありません。建設現場の人たちと話しをするときは紙で図面を見せることも大事なので、それぞれ目的にあわせて使えばよいと思っています。

また、仕事と作業は別物と考えています。デジタルを使って速くなった作業もある一方、そのツールを使うことに満足してしまい、仕事の時間(考える時間)を削ってしまうのはデジタルの間違った使い方だと思います。

使いこなすまで少し時間はかかりますが、アイデアがふってくるその瞬間を逃さないで、パパっと寝転がってスケッチしたりして。細かく分断された時間を使えることがデジタルツールの良さだと思います。ただ、PCで作りこんでいるわけではないので、遊んでいるように見えるかもしれません。まわりの理解は必要かもしれませんね(笑)。

本間氏は2008年にソニー社員としてシリコンバレーに赴任。2012年に楽天に転職をし、2016年にスタートアップ企業HOMMA, Inc.(以下HOMMA)を立ち上げた。2018年現在、日本のVCや企業、個人投資家から約12億円の資金調達を受けている。

さまざまな分野でイノベーションが生まれたシリコンバレーの中にあって、100年前から変わらないもの、それが住宅だという。一番生活に密着している住宅がなぜ変わらないのか?その疑問が事業を立ち上げたきっかけだ。

-なぜアメリカの住宅でイノベーションが生まれないのか?-

この答えから日本とは異なるアメリカの住宅事情が伺えた。まず、アメリカの戸建て販売で新築住宅は全体の11%のみ。うち90%が建売住宅だという。抱える課題は多く、同じホームビルダーであっても、家を作るコントラクターが違うため、計画地ごとに品質のばらつきがあったり、設計・デザインを外部委託するためデザインは売れ筋なものに偏りがち。さらにキッチンや水回り工事も、現場での施工が一般的なため工事期間も長期化する。また建築家がゼロから設計する注文住宅は、複雑で厳しい市の新築建設許可を取る必要があるため、カリフォルニアでは完成までに2~3年かかるのが常識で、経済的余裕のある層でないと実現が難しい。次々と出てくるIoT機器などは、メーカーとの長い付き合いを前提としたホームビルダーにとっては、さらなるメンテナンスを要するため導入には及び腰といった傾向があるという。

UXから家を建てる

例えば、Teslaは『作っている車」と『ユーザーに対する車の提供方法」を変えることでイノベーションを起こした。同様に『建てる家」と『ユーザーに提供する体験」を変えることでイノベーションを生み出せるのではないか? このような考えから、HOMMAはアメリカの市場において、イノベーティブなホームビルダーとして建売住宅事業の展開をはじめたという。

HOMMAの住宅開発の特徴は、まず理想とするライフスタイルを決めることだ。その後、土地の面積・形・予算を加味した上で、理想のライフスタイルに必要な間取りとデザイン、テクノロジーを組み合わせていく。いわば、デザイン思考のプロセスで、プロダクトとして住宅をつくるわけだ。

HOMMAの事業の特徴は、ユーザーエクスペリエンスを中心に住宅を考えていることだ。

HOMMAの事業の特徴は、ユーザーエクスペリエンスを中心に住宅を考えていることだ。

ラボからプロトタイプ、コミュニティへ

―――――今後、事業をどのように展開していく計画なのか?

「シリコンバレーはテック企業が多く、ターゲットとしているミレニアム世代の流入も多く、住宅需要が最も高い。シリコンバレーを皮切りに西海岸を中心に、2020年までにプロトタイプ住宅を建てる。その経験を元に、さらにコミュニティ住宅へと展開していく。

低所得者向けの住宅を含めて、アメリカでは700万軒が足りないといわれている。売り手市場のアメリカだからこそのチャレンジでもあり、正しい場所に正しい価格で正しい価値を提供することが重要」だと本間氏は言う。

今回、訪問した「HOMMA ZERO」はオフィス兼ラボとして、中古住宅をリノベーションし、さまざまなテクノロジーやデザインを試している。

オフィスのそこここにスマートスピーカーが配置されている。

オフィスのそこここにスマートスピーカーが配置されている。

そして、次の展開である「HOMMA ONE」はすでに始動している。カリフォルニア州Beniciaの土地を購入済みで夏までにプロトタイプ住宅「HOMMA ONE」のショールームを稼働させる予定だ。

併せて「HOMMA ONE」でのさまざまなリサーチを通じ、照明などの住宅設備や家電を管理できるアプリの開発や、住宅購入後に誰しもがやらなければならない、保険加入やメンテナンスなどのサブスクリプションサービスも今後展開していく予定だ。

なお、工数効率を考えた日本のシステムキッチンやシステムバス、スペース効率を考えた引き戸、日本の住宅に見られるデザインの新しさなど、これらはアメリカの住宅事情にも導入していきたいと考えている。

すでに、複数の日本の住宅設備や建材メーカーとパートナーシップを締結している。今後もアメリカの市場へ進出したいと考える、より多くの日本メーカーに参画を呼び掛けていく。

HOMMAのUXコンセプトは「Connected Home」。個々人のライフスタイルを大切にしながら、人と人とがつながれるように構築されている。

HOMMAのUXコンセプトは「Connected Home」。個々人のライフスタイルを大切にしながら、人と人とがつながれるように構築されている。

デザイン性と技術力をバランスよく融合し、日本のメーカーとのパートナーシップを拡大しながらアメリカの住宅事情に切り込むHOMMA。Kviz.jpでは今後も彼らの挑戦を追っていきたい。

アメリカの住宅事情にデザインとテクノロジーを使い風穴をあける……。
そんな挑戦をしているシリコンバレー発の日本スタートアップ企業「HOMMA」がある。
本コラムでは、HOMMAの事業内容の紹介をするとともに、HOMMAデザイナーである井上亮氏へのインタビューをお届けする。

第1回 シリコンバレー発、日本スタートアップ企業HOMMAの挑戦
第2回 井上亮氏に聞く、シリコンバレーで建築家として働くということ(前編)
第3回 井上亮氏に聞く、シリコンバレーで建築家として働くということ(後編)

ビジュアライゼーションをつくる理由とは

最初に登壇したのは、株式会社スタジオ・デジタルプラスの大橋ユキコ氏。「Unreal Engine 4+3ds Maxでインタラクティブなビジュアライゼーション!」と題して、Unreal Engine 4にAutodesk 3ds Max、Autodesk InfraWorksを使用した実案件をもとに建築ビジュアライゼーション手法が語られた。

大橋ユキコ氏大橋ユキコ氏

大橋氏は、大塚商会でCADインストラクターやサポート業務を担当した後、建築設計に憧れ店舗設計会社へと転職。そこでCGパースのことを学び、店舗設計会社の子会社として有限会社デジタルプラスを設立。そこで建築ビジュアライゼーションに目覚め、2003年に株式会社スタジオ・デジタルプラスを設立し、福岡デザインコミュニケーションCG科非常勤講師も務めているという。

福岡県福岡市を地盤としている大橋氏が得意としているのは、商業施設や公共施設を中心としたCGパース。大橋氏は、CGパースやムービーによるプレゼンテーションでは物足りないと考えている。

「リアルタイムレンダリングを導入しCGパースやムービーを作成することで、決めのアングルで効果的な絵づくりができることです。それに飽き足らず、数年前から『もっとインタラクティブにしたい!』と感じていて、対話できるものや双方向であるもの、たとえば、自由に建物の中を歩き回ったりドアを開けたりといったギミックを起こしたいと考えていました。しかし、そこで少し立ち止まって考えたとき、あらためて『誰のためにビジュアライゼーション作りなのか?』と思い返すようになり、私がビジュアライゼーションをつくるそもそもの理由を考えてみたのです」

そこで大橋氏は、エンドユーザーに対する合意形成であるCGパースを「真のエンドユーザー」に向けていきたいのだと気づいた。「真のエンドユーザー」とは、公園であれば、その公園を利用する市民や公園で遊ぶ子供たちのことだ。

CG制作会社であるスタジオ・デジタルプラスとエンドユーザーの間には、設計会社やデベロッパーである行政が挟まっており、エンドユーザーまでの距離が遠いと感じていた。しかし「真のエンドユーザー」が喜ぶためのCGパースづくりを心掛けることで、やりがいを感じるようになっていったという。


大橋氏が参加した2014年8月31日 第一回背景アーティストUE4ビギナー勉強会セッション資料

大橋氏がゲームエンジンと出会ったのは、このように感じていた時期のこと。Unreal Engineが一般公開され月額19ドルで利用できるようになった2014年からだという。

「Unreal Engineを通して学んだのは、『1つのゲームを作り上げるとき、あたかも1つのテーブルで積み木を完成させるかのように、プランナーもデザイナーもアーティストもプログラマーも皆が同じ目標に向かってものづくりをする』ということです。全員で1つのテーブルを囲むことで、もの凄く早いトライ&エラーを繰り返せるようになります。その結果、全員が世界観を共有(シェア)できるようになるわけです。これは、私にとって衝撃的な話でした。15年以上前のことですが、インターネット上の掲示板で3ds Maxについて活発な情報交換がおこなわれていて、顔も見たことがないような人たちから情報をシェアさせて頂いていました。建築業界も、今よりもっとオープンでシェアできる世界が広がっていたのです。それが最近では、あまりないのではないかと感じています」

大橋氏はそこで3つの目標を立てた。1つ目は「イテレーション(トライ&エラー)により問題解決できるビジュアライゼーション」。設計者と一緒にトライ&エラーを繰り返していきたいということである。

2つ目は、「ビジュアライゼーションをシェアする社会へ」。コミュニティからのフィードバックを受けて設計に反映させるというもの。そして、作成したビジュアライゼーションをたくさんの人たちにただ一方的に見せるのではなく、1人ひとりに対して届けられるものをつくりたいと考えたという。

3つ目は、「もっと技術や知見のオープン&シェアを」。ゲーム業界では企業の垣根を越えたコミュニティも活発で情報をシェアしあっている。それを建築業界にも広げていきたいと話す。

次に実案件の制作事例の話に移る。
福岡市には「福岡アイランドシティ」という現在も開発が続けられている人工島が存在している。この人工島に対して、「この福岡アイランドシティの将来像を3D化して魅力的な街づくりをアピールする『アイランドシティVR計画』をおこないたい」という福岡市からの要望を受けたスタジオ・デジタルプラス。

納期がたった2カ月という状況のなか、丸ごとVRコンテンツを制作することは断念。その代わり、2つのコンテンツを提案したという。

1つはInfraWorksで作成したCG未来予想図。InfraWorksは基盤地図情報を使用するため、島以外の部分が正確に再現されることから提案したものだ。

もう1つは、Unreal Engineを使用して作成する市民が誰でも触れるコンテンツ。Unreal Engineを使うことでゲームとしてパッケージングでき、Windows上で動くEXEファイルとして市民に配布できることから提案へと至った。

福岡市に対するこのような2つの提案は無事通過し、「アイランドシティVR計画」がスタートすることとなった。

「具体的なワークフローとしては、CADデータがあるものについてはそこから3D化。CADデータがないものについては、設計事務所から集めたデータやPDF図面を基にモデリングしていきました。そして、空撮部分についてはドローンで撮影、地上部分については自分たちが自ら島内を走って撮影しました。その後は、同じデータをUnreal EngineとInfraWorksに持っていく作業を同時進行しています。当時はまだ、Unreal Engineのワークフローツール『Datasmith』がありませんでしたので、FBXファイルに書き出してUnreal EngineとInfraWorksに持っていくという作業をおこないました」

このアイランドシティの案件では約110棟の建築物をモデリングしており、それだけの数のFBXを作成している。しかし、使ったテクスチャは1棟に対して平均1枚強となる約120枚と少ない。その理由としては、市民が家庭用のパソコンで開くことを想定しているため、できるだけ低ポリゴンでモデリングをおこなったのだという。

アイランドシティの案件における成果と今後の課題を大橋氏は次のように話した。

「成果としては、3Dをビジュアライゼーション以外のことに役立たせることができたということと、チームとして同じ1つのテーブルで作業しているという感覚を持てたということ。右から左へバトンタッチして仕事を流して進めていくのではなく、同じ目標に向かうチームが1つのツールを作り上げるというやりがいを感じることができました。ただ、Unreal Engineで作成したコンテンツは現状ではただの情報ツールです。そこでUnreal Engineの特性をもっと生かしてゲーム性を付加し、街づくりそのものに興味を持てる3Dツールづくりをしていきたいというのが今後の課題となります」

次に大橋氏は、建築ビジュアライゼーションにおける将来像に言及した。それはまず、3DCG自体が今後はコミニュケーションツールへと変化していくこと。3DCGを見せっぱなしにするのではなく、見た人から得られたフィードバックにより、さらに変化していくツールにしていきたいという。

また、ビジュアライゼーション(視覚化)からエクスペリエンス(体験)へと変わっていくということ。街づくりや公園づくりの現場で起きている問題を見つけてピックアップし、それをゲームエンジンのようなテクノロジーの力を使って解決するといったクリエイティブをしていきたいと語る。

そして大橋氏は、次のように話をして本講演を締めくくった。「勉強することも大事ですが、たくさんのインプットとアウトプットを繰り返してください。ブログやTwitterにアップするような些細なことでもかまいません。それを繰り返していくことで、業界や会社の垣根を越えてスキルアップしていけるのではないでしょうか」

磯野夏生氏磯野夏生氏

最後に、スタジオ・デジタルプラスのCGデザイナー、磯野夏生氏が登壇。AutodeskのAREA JAPAN サイトで磯野氏が連載を始めたコラム「3ds Max & UnrealEngine4で建築ビジュアライゼーション ~データフォーマットDatasmithを使ったワークフロー~」を紹介。また、Datasmithによって書き出し作業が大幅に短縮できるという説明がおこなわれた。これから約1年にわたり、定期的に詳細なワークフローや、Datasmithを用いた技術的なTipsをコラムで紹介していくということなので期待できそうだ。

建築デザインの業界には「相手に正確にデザインを伝えたい」という共通の課題があった

――――― まずは、「SYMMETRY」開発の背景を教えてください。

DVERSEは2014年に設立し、国内では初期の頃からVRを扱ってきた会社です。当時はエンターテイメント業界よりで、テレビ局、映画会社、大手通信キャリアと一緒に、新しいVRコンテンツ制作に取り組んでいました。2015年頃、建築でVRを使いたいというある会社からの相談がきっかけに、プロトタイプを作り、展示会で話を聞くうちに、建築デザインの分野に共通する課題が見えてきたのです。

その課題とは「高さ、奥行き、広さ」などの空間イメージの共有です。建築/設計の現場においては、図面やパース、スケッチを使ってデザインを打ち合わせます。例えば部屋のサイズひとつとっても、設計者とクライアントの完成イメージに齟齬が生まれ、ときには作業の手戻りが起こっていました。VRは、目の前の仮想空間で大きいものを大きく、広いところを広く、実寸サイズを確認できることが特徴です。我々はここにVRが活かせると考え、エンターテイメントからビジネス向けのVR開発に進むことにしました。

――――― 建築デザインの分野に進んだ、決め手は何だったのですか?

そうですね。建築デザインの分野では、はっきりと皆さんが同じ課題に困っていたんです。「相手に正確にデザインを伝えて了解をもらう」というゴールが明確で、これは費用をかけてでも解決したい課題でした。もうひとつの理由は、建築の分野では3Dデータが普及しており、VR技術との相性が良い点です。すでに立体物としてデザインする下地があるので、これをわかりやすく伝えるというフェーズでVRが活きるだろうと。
また2016年当時のVR機材は第2世代が出たばかりで、まだまだ重く大きいものでした。VRがコンシューマー向けに普及するのは、端末がスマートな形状になってからだろうと思います。まずはビジネス向けの問題解決を、と考えました。

頭の中のデザインアイデアを”見せる”。建築デザイナーとクライアントの架け橋

「SYMMETRY(シンメトリー)」は、3D CADデータをもとに、実寸のVR空間で建築設計、空間デザイン、環境シミュレーションなどを簡単に確認できるソフトウェアです。利用者はヘッドマウントディスプレー(HMD)を通じてVR空間に入り、高さや奥行き、部屋の距離感、インテリアの配置など、従来、図面上ではわかりづらいイメージを感覚的に把握できます。

――――― 製品名「SYMMETRY」の由来は何ですか?

SYMMETRYは「対称」という言葉ですが、頭の中のアイデアを鏡のように相手に伝えることを意味しています。建築デザインの分野では、建築家やデザイナーが「こんな建物にしましょう」「こんな内装にしましょう」と、お客様にアイデアやイメージを伝えます。VRを介して頭の中のデザインをそのまま相手に伝える、というのが「SYMMETRY」の名前の由来です。

――――― 最初から今のような製品だったのですか?

いいえ。最初のプロトタイプは、VR上で周囲の山や橋などの立体的な模型が、ミニチュアのように見えるソフトウェアでした。「このミニチュアの中に入れたら面白いな」という話をしたら、次の日にはそれが実装されていたんです(笑)。
そのソフトウェアがすごく面白かったので、試しに建築系の展示会に出してみました。そのとき9割のお客様は「これが最近流行っているVRね」と、ただ新しいものを見る反応でしたが、たった2社のお客様から「この状態でよいから今すぐ売って欲しい」と前のめりな反応を得たのです。
道路や橋がメインの土木系の展示会でしたが、おそらく工事前に完成後のイメージを見たかったのだと思います。当時はまだ「ただ見るだけ」のシンプルなソフトウェアでしたが、同様のVRコンテンツをつくろうと外注制作しようとすると何百万円もかかってしまいます。ここでまず手応えを感じました。その後、2017年2月14日に「SYMMETRY alpha」をリリースしました。

広告も宣伝もなく、じわじわと拡がる世界ユーザー

――――― 「SYMMETRY alpha」の反響はいかがでしたか?

約1年間で世界中から多くのフィードバックをいただきました。ありがたいことに海外の方はフィードバックでよく褒めてくださいます(笑)。SYMMETRY alphaは、広告も打っていなくて、大きな宣伝もしていません。現在使用しているユーザーは、建築やデザイン分野に携わっていて、さらに個人で興味をもってVR機器を購入するような熱量が非常に高い方々です。現在は、北米、ヨーロッパ、日本を含むアジアでそれぞれ約1/3ずつ。北米で約900社、日本で約700社のユーザー様にお使いいただいています。

――――― 特にユーザー様に受け入れられているポイントは何だと思いますか?

なによりシンプルな操作性です。3Dデータを専門に扱う、建築/設計のプロ向けのCADソフトウェアは、メニューも多く複雑で、慣れていないとすぐには扱えないものです。一方、SYMMETRYは建築/設計のプロがお客様と話すときに、お客様が触るソフトウェアです。そのため、初めてソフトウェアに触るお客様がすぐに操作できることが重要です。体を動かすVRの利点を活かし、直感的に操作できる、言語にたよらないUIを徹底しています。実際、現在の製品は英語版のみですが、言語を理由に使いづらいという意見をいただいたことはないです。

いよいよ待望の製品版「SYMMETRY」がリリース! alpha版との違いは?

――――― 製品版「SYMMETRY」に、新たに加わる機能のポイントを教えてください!

alpha版を使ってもらい、「VRを実際の業務で使えますか?」「業務で使うならどんな機能が欲しいですか?」を世界中のユーザー様からフィードバックいただいて、より業務フローに寄りそったのが製品版です。

今回、大きなポイントとして新たに「確認」「修正」「承認」という3つの機能を追加する予定です。alpha版ではCADデータを”見る”だけでしたが、多くの方から”見たら修正したい”という要望をいただき、VR空間内で直接修正できる機能や、また業務完結スピードを向上するべく、お客様からサインや判子をもらう承認機能を追加予定しています。確認機能では、「床を確認してください」「壁色を確認してください」といった建築デザイナーからのチェックリストをもとに、お客様は了承、あるいは音声で修正指示を残すことができます。そして承認内容ややりとりの履歴を残せるようになります。

また複数人で同じVR空間に入る機能はalpha版にもありましたが、製品版ではチームでリアルタイムにデータ共有できるようになり、同じVR空間でチームメンバーと話し合った内容を履歴として残せるようになる予定です。

――――― 「SYMMETRY」は、とくに建築/設計のどの工程にオススメでしょうか?

建築/設計の作業工程の前段にあたる「企画」「基本設計」あたり、詳細な設計前のいわゆる意匠設計とか、デザインと呼ばれるようなフェーズにはまるツールです。これはボリューム検討や天空率、日光でどのくらい影が指すといった、空間スケールが大きく影響する工程です。
この企画部分のコミュニケーションでは、いままで2Dベースや3Dモデルを画面上で見ることしかできませんでした。小さくとも立体感がある方がわかりやすいと模型を使うこともあり、我々のVRソフトウェアはその延長線にあります。SYMMETRYは、自社で独自システムを開発するのが難しい、中小規模の会社様にこそ使っていただきたい製品です。

VRはわかりやすく伝えるツール。沼倉氏が見据えるその先の未来

――――― 「SYMMETRY」の今後の展開は、どう考えているのですか?

一口に建築デザインと言っても、お店、オフィス、住宅、展示会場、イベントプロモーション……など、非常に幅広い分野があり、それぞれ内装対応や機能が変わってきます。例えば、住宅設計ならいろいろな建築材を使用して見積もりを算出したい、お店であれば店舗用の什器を配置したいといった要望を受けます。また、住宅設計なら電灯の点灯、大きな建物なら耐震強度の測定、ビル設計では避難経路を、お店では来店されたお客様がどこを見て歩くのかという目線をシミュレーションしたい、といったように機能の要望もさまざまです。
フォードバックをもとに、今後もアップデートしていきますが、特殊な要望であればカスタマイズでの機能実装も視野に入れています。

――――― 「SYMMETRY」によって、どんな世界を実現したいですか?

そうですね。いまのVRは、ただ立体的に物が見られるツールという側面が強いですが、将来的には仮想空間でのシミュレーションツールになると考えています。
例えばWebのバナー広告は数々のパターンをつくって、どれが一番クリックされるか効果を計測します。これと同様に、実店舗の販売実績データと、仮想空間の店舗デザインやレイアウト、商品ディスプレイなどの情報を組み合わせて、VR空間で販売実績などをシミュレーションできるようになります。我々はVRの会社ですが、コアスキルは数値のデータをわかりやすく処理するところにあります。VRはそれをわかりやすく見せるためのツール。ここを整えるのが、我々の仕事かと思っています。

――――― 最後にひとことお願いいたします。

VRはまだ登場して2年ほど。我々も実際の現場にとって本当に使いやすい機能を、これから一緒につくっていくことになると思います。ハードルも感じるかもしれませんが、新しい技術を便利に使うことで、よりクリエイティブで本質的な仕事に集中できるようになると思います。ぜひお試しいただきたいと思います。


DVERSE Inc.
2014年10月にVR専門企業として設立。テレビ局、映画会社、大手通信キャリアといった様々な企業とのコラボレーションを経て、現在、建築・土木・デザイン業界向けVRソフトウェア「SYMMETRY」の開発および販売を行う。2017年2月にSTEAMプラットフォームで無償提供が開始された「SYMMETRY alpha」は、世界で最も簡単で高速かつ高品質なVRソフトウェアのひとつ。3D CADデータを無加工でVR世界に高速にインポートすることができ、直感的でリアリティのあるデザインレビューが可能である。

主な受賞歴:2017年の新日本有限責任監査法人とEY新日本クリエーション株式会社が主催する「EY Innovative Startup 2017」のIoT部門賞や、2015年の「VRクリエイティブ・アワード」での「パノラマ部門賞」(NHKエンタープライズ共同プロジェクト)等
出展実績:2017年の「AIA Conference on Architecture 2017, Orlando」や2016年の「3D Basecamp in Steamboat Springs」等

次は「ビジュアルは言葉に勝つ」。この事例では、
・言葉は決まっている
・窓枠からの東京
・アンバーな感じ
・10点作ってほしい
という4つの条件が提示されていた。

このクライアントは、高畑氏との関係性について「(高畑氏がクライアントの)頭の中にあるものを抜き出して形にする。それをまた頭の中に入れてもらってまた考える」と定義。それを〝ビジュアルクリエイター〟と呼んだ。

ビジュアルクリエイターという言葉は、高畑氏に〝刺さった〟。「私はそれになりたかったんだ」と、その言葉に刺激をもらった。また、いつも仕事を通して沢山のアドバイスをもらえる尊敬する人(クライアント)の想いに乗り、作品を作り上げた。

〝窓枠からの東京〟というのは、東京の新しいマンションのブランドイメージ。まだマンション自体は建ってないのでイメージの画が欲しいというわけだ。

東京という選択、ステージは東京、東京レストランなど10のフレーズが並ぶ

10点まとめて納品というのは怖かったため、まず一点の制作を開始。「東京というと東京タワーが好きで、どれかに入れたいなと思っていた」ので、東京タワーを見たいからこのマンションにした、という画像にした。これについては、複数の写真を合成しレタッチで仕上げている。

東京という選択

東京という選択

多数の写真からこれというものを選ぶのにも、時間がかかった。

クライアントに見せたところ一発OKだったので、残りについても進めていった。ただ、10点すんなり完成とはいかなかった。それは〝東京ラグジュアリー〟だ。

〝東京ラグジュアリー〟のイメージはできた。窓枠はお金持ちのマンション、もしくはホテルの室内から見える夜景で、窓枠の外の画を「ダイヤモンドのような夜景」でまとめたい。しかし、マッチングしない。

この1カットは、顧客に相談したところ、「ちょっとわかんないよ」という指示書が届いた。リクエスト内容は「恵比寿のガーデンプレイスのアーチのようなところから見える異空間」だった。そこで、3ds Maxの登場となる。

 

左 指示書、右 最終画像

3ds Maxなら、異空間も作り上げられる。作成したものと写真のパースを合わせて完成させた。クライアントは「これどこ?」と思わせるという目的に合っていると言ってくれたそうだ。

結果、10点中半分以上は3ds Maxでモデリングして完成させることができた。
ひとつひとつは楽だが、10点に統一感を持たせる、そのバランスが楽しくもあり、難しくもあったそうだ。2017年の仕事の中で、一番楽しかったとのこと。

クライアントとの会話では「〝ステージは東京〟は」といった言葉でのやり取りではなく、「東京タワーの画」や「あの六本木ヒルズの画」といったビジュアルで話をした。高畑氏は「やはりビジュアルの強さは記憶に残る」と感じた。

実際、一番初めに〝いい画〟を出しておけば、好印象を持たれスムーズにお仕事が進められる。高畑氏は、これを心がけているそうだ。

続いては、魅力と強さ。

高畑氏はある映画(2001年宇宙の旅)に触発されて、仕事ではなく作品としてモデリングを行なった。一応の完成を見たが、作ってみたら「それでどうしたいの」といった感じで止まったという。なので、「ただの作品」として暫く放置してみた。

映画と同じシーンの内観CG

映画と同じシーンの内観CG

放置していたところアイデアが浮かび、空間を変えてみた。鏡を使って、女性がデートの前に慌てて化粧をしている、そういったシーンを描いた。ここまで描いても自分の中では「もうちょっと何かないかな」とずっと考えていた。これもいったん放置。

女性や化粧品などを合成

女性や化粧品などを合成

再び浮かんだのは、香水。香水のビンの屈折や中の液体の表現に利用したのは、Photoshopだ。CG画像の前にビンを配置して写真を撮り、CG画像を映し込んだ。フタも同様に撮影して合成。作品の完成となった。

蓋をアングルに合わせて撮影

蓋をアングルに合わせて撮影

完成CG作成「夢中空間」

完成CG作成「夢中空間」

タイトルは夢中空間。気に入ってくれた方もいるのですが、気になった方が多くいたので、そこが「うれしい」「楽しい」作品となった。

 

続く作品は、高畑氏がイラストのパースを描きたいという想いから生まれたもの。

ただ、Illustratorのようなソフトは得意ではなく、3D CGで何かできないかなと考えた。そんなときに株式会社Tooの別のイベントで相談したところ3ds Maxのプラグイン『PSOFT Pencil+ 4』を教えてもらったそうだ。

Pencil+との出会いでできた画

Pencil+との出会いでできた画

これについては、自分でやりたいと思った画が描けたという。全部がPencil+ではなく、Photoshopでの編集も行なっている。作品は「自分の心が喜ぶものが一番いい。自分がいいと思ってないのにここでおしまいと決めるのはもったいない」と語り、仕事以外に作品を作ってみてほしいとした。

これは、作品を作ることによって顧客の気持ちも分かるようになるため。アングルを変更したくなる気持ちも分かるし、家具を変えたくなるのも「確かにそうだ」と思えるそうだ。

高畑氏は「魅力的な思いを強い味方にする」とまとめた。「いいなあ」と思ったことを作品に取り入れると自信につながり、強い味方にもなるということだ。

 

高畑氏は最後に、プレゼンについて語った。

プレゼンテーションはプレゼントの名詞形だ。そして、CGパースも同じくプレゼント。家を建てるには図面だけで十分なのに、パースを作ることによって「こんな家が建つのか」と喜んでもらえるからだ。

プレゼントは貰ってうれしいし、選ぶことも楽しい。高畑氏は同じように思ってくれる人が、同じ気持ちで作ってくれればと結んだ。

二番手は、高畑真澄氏。『うれしたのしCGパースの作り方』と題して、案件事例をもとにビジュアルをクリエイティブする楽しさ、「絵は言葉に勝つ!」というCGパースの魅力と強さを語った。

高畑真澄氏

高畑 真澄 氏

高畑真澄氏はフリーになって6年。スタートはCGパースだけだったが、顧客の「デザインはできませんか」「イラストは描けますか」「3Dプリンター使えますか」といった要望を受けることもあり「常に前向きにやりたい」と思っているという。

初めてのことになるべく挑戦するようにしており、そのひとつとして2017年春からオートデスクのAREA JAPANでチュートリアルビデオ『やさしい3ds Max -はじめての建築CG-』も担当している。

今日のために作成したムービーが再生された。

高畑氏は「うれしい」と「たのしい」というキーワードを提示。これは、高畑氏が仕事において大事にしているものだ。

高畑氏はまず「いいパースとは何か」という問いかけをした。これについて、会社員だった頃と独立してフリーになった今では、考え方が変わっているという。

会社員だった頃はフォトリアルなパース、小物が多いもの、ドラマチックだったり質感がうまく表現できていたり、そういったパースがいいパース、上手いパースと思っていた。しかし、独立してからは「お客さんが喜んでくれる」パースが一番いいパースだと考えるようになったそうだ。

たとえば、顧客が線画を求めていたら線画を描く、模型っぽいCGがいいならそういうものを作る、それがいいパースだということだ。

ここから、CGパースの作り方、ビジュアルは言葉に勝つ、CGパースの魅力と強さ、という3つのテーマで話を展開した。

一番目のCGパースの作り方。

高畑氏は、会社員だった頃は普通にCGパースが作れていた。独立してからも作れると思っていたが、そうではなかった。それは、環境が整っていなかったため。作り方の前段階の作る環境を整備することの重要性を感じたという。

ここで、一つ目の仕事の事例が紹介された。マンションのゴミ置き場。高畑氏はまずマンションのゴミ置き場を検索してみたが、そんなところ撮っている人はいないため写真が全然ヒットせず苦労したという。

高畑氏が出したのはオーガニック案とパステル案と、グラフィカル案の3案だ。なお、パース自体については、四角い部屋にダウンライトの光をPhotoshopで付けたり、フライパンもSketchUpから拾ってきたデータだったり、初心者でも作れてしまうものだとした。

デザインされたごみ置き場パース

採用されたごみ置き場パース

高畑氏のパースは気に入ってもらえて、実際のゴミ置き場となった。設計者によって中に誰がいるか分かるモニターが付いたり、中にいい香りのするスプレーが備えつけられたりしている。

実際のゴミ置場の写真

実際のゴミ置場の写真

クライアントから完成した写真をもらえた事で、作成したパース以上に素敵なゴミ置き場になっていてうれしい気持ちになった。そして、この案件を通してゴミ置き場のことを考えるのが楽しくなったそうだ。

「レンダリングはどうやるんですか、モデリングはどうですかという質問よりこういうのを作りたいけど、どうしたらいいですかと相談する方がドンピシャな答えが返ってくる」と、この項を締めくくった。

建築CGアニメーションの魅力

トップバッターは、株式会社ストレート(以下ストレート)の天野愛子氏。『建築CGアニメーションの魅力』と題して、実案件をもとに建築CGアニメーションについて語った。

天野愛子氏

天野愛子氏

天野氏が最初に示した数字は2.5年。これは、天野氏がCGを初めてからの期間だという。

学生時は設計・デザインを学んだが、卒業後は他業種での就業や海外で過ごしていたそうだ。イメージを人に伝える事の難しさを感じていた天野氏は、イメージをビジュアル化・共有できるCGのすばらしさに惹かれたという。3ds MaxとAuto CADによるパース制作の基本工程を学んで株式会社ストレートに入社。パース・アニメーション制作に携わっていく。

実案件の話に入る前に、現状、天野氏がCGでどのようなことができるようになったのか、今回のMeetUp用に3ds Maxで制作したアニメーションを紹介。

会場となった株式会社Tooの3階フロアのウォークスルーアニメーションを制作。

実案件ではあまり実現できない表現を取り入れたそうだ。

現在進行形でさまざまな表現方法を身につけてきた天野氏だが、入社当時は右も左もわからず苦労したようだ。

制作業務での制作ルールを覚えると共に、モデリング、レタッチ、ディレクション業務を経験。

4ヶ月に入る頃に、入社当初からやってみたかったアニメーションに携わっていく。ストレートでアニメーションに使用するのは、3ds MaxとLUMION。期間、要望などの案件状況に合わせ対応している。

3ds Maxはさまざまなことができて表現の幅は広いが、知識とテクニックを要する。このため、天野氏は比較的操作が簡単で短納期にも対応できるLUMIONで制作を開始した。

初めての打ち合わせでは、ひとつの工程にどれくらい時間がかかるか想像できず、レンダリングの連番書き出しといった用語も分からず、上司とクライアントの話を理解することから始まったという。

最初に携わったアニメでは3ds Maxでモデリングを行い、LUMIONで配置、エフェクトの仕上げなど一通り指導を受けながら制作を行った。

初めてクライアントと直接連絡をとりあって制作を行ったアニメーション。クライアントとのやり取り、提案力の必要性など、この案件を通して学んだことが数多くあったという。また、自分が携わった仕事の実物を初めて見ることができ、思い出深い案件となった。

何案件かの制作を通して、製作の全体像が分かってきた天野氏。
次のアニメは別のチームとの共同での案件。今までと違う見方や考え方を取り入れる事となり、普段教わってきたことをさらに深く考える、自身のターニングポイントになった。建物をいかにかっこよく魅せるためのアプローチなどを学べたそうだ。

カメラを動かさず、植栽などで建物の輪郭を表現する手法が使われている。

また、静止画アニメーション用のイメージパースの制作も行い、インパクトのある絵の強さや映像構成の大切さを学んだ。

天野氏がさまざまな案件を通して、何を大切にするようになったか。まず、制作時間に関しては、自分を常に疑うようになったという。余裕があると思わず、きちんとひとつひとつ片づけていくのだ。

また、細かい部分に時間をかけてしまいそうになるので、全体の工程を見るように努めている。この辺りが、学生と納期のあるプロで大きく違う部分だという。

天野氏は、日常の風景や、趣味・物事に興味を持つなど、色々なことが業務に生きてくること、反省点をうまく消化し気持ちを切り替えて次に進むという点も挙げた。

続いて再生されたアニメーションは、それまでの案件を通して学んだ、見せ方のアプローチや表現に趣向を凝らした案件で、「クライアントにも喜ばれ、自信になった作品」だと解説した。

エンディングの重要性を教わり、真っ赤な夕焼け空を作成。派手すぎかと懸念もあったが、BGMの壮大さもマッチしていたため、インパクトを与えられたようで喜んでいただけた。約2週間ちょっとで仕上げることができ、作業速度の向上も感じられたという。

続いて再生されたのは、ずっとやりたかった3ds Maxでのアニメーション案件。群馬県のコンベンションセンター誘致のための動画だ。レンダラーのV-Rayはパース制作で使用していたが、アニメーションとなることで、さまざまな箇所でのチラつきやシミに悩まされたという。決められた制作期間の中で何を優先させるか等の判断力の大切さを改めて感じた。

クライアントの要望を取り入れ、また自から提案し、一丸となってひとつのものをつくり上げる、ものづくりの楽しさを実感できた案件となった。

また、3ds Max 2018のArnoldではチラつきなどの原因特定がわかりやすいようなので、今後は案件の状況にあったレンダラーを活用することも考えているそうだ。

天野氏は建築パースを「いかようにも表現でき、ドラマチック」、アニメーションを「カメラワークや構成によって建物のさまざまな顔を引き出せる」魅力的なものだと語った。

そして「従来の表現と違った見せ方も提案していけるよう、これからもいろいろなものに目を向けもっと勉強していたい」と表明。「動きでも表現でも、みなさんに感動を与えられる作品が作れるように邁進したい」と締めくくった。

最後に、株式会社ストレートのサンプルアニメーションも紹介された。

マンションのデベロッパーや設計事務所向けに CG パースや映像の制作を行う会社として 2003 年に設立された積木製作は、設計データをもとに CG ソフトの 3ds Max でモデリングを行い、レンダリングにより高品質な画像を提供する事業を手がけてきた。その傍らで、より自由度の高いビジュアライゼーションを求めて、2012年からゲーム エンジンを使ったリアルタイム レンダリングも研究してきたという。

同社セールスディビジョン シニアディレクターの関根健太氏は、「2013 年の Oculus Rift DK1 (開発キット) により、ディスプレイを変えるだけで VR の世界に入れるようになりました」と語る。「それまではプロジェクターや大画面のマルチモニターを使うしかなかったのですが、PC だけで直接的に空間に入れるようになったのは、我々にとって追い風になりました」。



テクノロジーの進歩と新たな機器の登場で VR 体験は身近になったが、その一方でコンテンツ制作には時間とコストがかかり、事業として軌道に乗せるには苦労もあったという。「不動産の広告のためのものであれば、ある程度はビジネスになるだろうと考えていたのですが、実は不動産や建築・建設の業界では、新しいものに対する理解が得られにくいということも、身を持って体験しました」と、関根氏。

VR に関する様々な話題がメディアで取り上げられ、「VR 元年」と呼ばれたのは 2016 年。積木製作では 2013 年に VR 事業を開始しているが、当初はクライアントへの提案内容が VR を使った日本初の試みであっても、「他に事例が無い」という理由で、なかなか採用に結びつかなかったという。だが、その理解を深めるべく、さまざまなプロジェクトに取り組んできた。

「VR のメリットは、それを見れば誰でも理解ができるということにあります」と、関根氏。「例えば再開発事業の場合、もともとの地権者、開発者、ジョイントベンチャーの開発事業者など何百人、何千人が関わってきますし、場合によっては役所も関係します。周辺の方々を含めて多くの方にプロジェクトを紹介するには、VR は非常に都合がいい。その相互理解のための活用も、数多くやってきました」。

現在、積木製作は VROX (ブロックス) という独自の VR サービスを提供している。同社ならではの高品質な CG による表現力と、ゲーム用レンダリングエンジンをベースとするリアルタイムレンダリング処理の相乗効果によって、3D 空間内での仮想体験を実現。ゲーム・エンターテインメントや建築・不動産、さまざまな現場支援など幅広いサービスがラインナップされている。

その中でも、このところメディアなどで注目を集めているのが、建設現場での墜落や落下、火傷などの事故の状況や、実際に体験することが困難なシチュエーションを VR で再現した「安全体感 VR トレーニング」で、月に 100 件以上の問い合わせがあるという。関根氏は、「今後、間違いなく施工者の手は足りなくなり、外国人の労働者を入れることも増えるので、教育が重要になることは明白でした」と言う。

建設現場の事故を避けるには安全に対する意識を高めることが重要だが、従来のビデオを使ったトレーニングでは、危機感を感じづらかった。「VR を使った安全教育は、言葉でなく自分の感覚値で危険さを理解できるようになっていて、それが大きなメリットだと思います」と、関根氏。「外国人の方にも体験していただきましたが、腰が引けるような恐怖感を感じるのは世界共通。それによって現場の気を引き締めることができ、事故を無くすことにつながると思います」。

また、現場監督の育成用プログラムも注目されている。大林組と共同で開発された、VR 内で施工ミスを探すトレーニングは、従来の研修施設を使ったトレーニングと比較すると専用の施設を維持管理する手間などの負荷が大幅に減る上、データを入れ替えることで内容を更新して実施することもできる。

一級建築士事務所である積木製作は、建築設計にも精通している。VR 以前から設計支援としてデザインの提案も行い、プレゼンテーション支援や空間デザインの企画、設計管理なども行ってきた。年間 300 ものプロジェクトに携わる機会があり、その経験からいろいろなデザインサンプルを提示しやすいので、変更点なども提示しながらパースを描いていたという。

現在は CG ツールとして 3ds Max や Maya、建築設計データ用の AutoCAD や Revit、さらにはリアリティ キャプチャを行う ReCap なども使用。リノベーションを手がける際には、レタッチした CG を提示したり、現場では AR で新たなファサードを重ねて見せたりすることも可能だ。

「ツールが発展することで、例えば設計者が Revit ユーザーであれば、Revit Live により、自分の作ったデータをすぐに VR で見られるようになりました」と、関根氏。「我々が介在する必要もなく、設計者自身も関係者も、空間をより早く理解できるようになります。そもそも建築は、長い間、設計者が三次元の空間をわざわざ二次元の図面として書いて、それを現場で三次元に変換していました。BIM の浸透により、その手間が無くなっていくことは重要だし、今後 10 年くらいで設計のやり方そのものが大きく変わっていくと思います」。

では、ツールの向上により CG パースや VR の制作が容易になると、その分野に特化したビジネスの未来はどうなるのだろうか? 「専門家は、よりプロフェッショナルでなければいけないし、中途半端な人たちは淘汰されると思います」と、関根氏。「プロとそうでない人の線引きは、よりレベルの高いところになると思います。そこは我々としてもむしろ歓迎すべきで、個人で意欲の高い人がいれば一緒に仕事をしたいし、そういう人が仕事をしたい会社と思われるよう、さらに意識を上げていきたいと思います」。

株式会社積木製作 セールスディビジョン シニアディレクターの関根健太氏 株式会社積木製作 セールスディビジョン シニアディレクターの関根健太氏

積木製作という社名の由来は、積み上げていくことで無限の空間を生み出せる積木のように、さまざまな価値を生み出すサービスを提供することにあるという。そして、これまで CG パースを中心として多数の案件を手がけ、問題解決や数々の要望への対応を通じて経験を積木のように重ねてきたこと、特に建築に関する知識と経験、コネクションなどが、差別化の要素になっている。

「VR は大きな注目を集めていますが、まだ VR を使ってみたいという段階の方が多いのが現状です」と、関根氏。「我々は、VR を使って“何をやるか”というところも含めて提案しています」。

本記事は「創造の未来」をテーマとするオートデスクのサイト「Redshift 日本版」の記事を、許可を得て転載したものです。

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