ビジュアライゼーションとは?

そもそもビジュアライゼーションとは、日本語に訳すと「可視化する」こと。数字や言葉で表現されている情報を、受け手が理解しやすいようにビジュアルにするということで、ビジュアライゼーションには建築CGだけではなく、インフォグラフィックも含まれます。

言葉だけでのコミュニケーションでは人によって解釈が異なったり、頭に思い浮かべるイメージが人それぞれになるので、ビジネスの場のやりとりでは齟齬を来たすケースがあります。そこで伝えたい情報をビジュアル化をして資料を示すことができれば、ブレることなく情報が伝わり、速く意思疎通ができるようになります。

建築業界では、ビジュアライゼーションという言葉自体は使われてはいませんが、建築物を手書きのパースとして描くことはCGが普及する前から行われていました。

建物を建てる際には、
・建物のオーナーとなる施工主
・どんな建物を建てるか設計する設計士
・工事を行う建設会社
と、おおまかにいってこの三者の意思疎通が必要になります。

建築プロジェクトが立ち上がるときには、設計士の頭の中に建物はありますが、それを表現するのは平面で描かれた「図面」。当然のことながら、設計のプロではない施工主が図面を見ても、どんな建物になるのかイメージをするのは難しい。それを解決するために、図面を元に立体化したパースを描き、設計士・施工主・施工会社の3者間で、建物の完成イメージを共有するのです。

そして、CGが2000年代から建築の分野でも利用され始めます。それまで手書きで描かれていたパースが、3DCGによって描かれ始めました。

図面

平面図のイメージ。他に、立面図や断面図をはじめとして様々な図面が描かれるが、どんな建物が立つのか、一般の人にはイメージをするのが難しい。

CGで描かれた建物の内観。どんな建物が建つのか、どんな人でもイメージができる。TOKYU LAND INDONESIA | BRANZ Simatupang

建築CGパースの作り方

このように、パースが建築ビジュアライゼーションの始まりと言えます。
ここからは、どのような流れで建築パースが作られるかをみてみましょう。

使用するソフトウェアとしては、2000年代から、Autodesk社の3ds Max が不動の地位を占めています。Autodesk社はCAD CG ソフト業界の大手で、3ds Maxは映画製作やゲーム開発の現場でも使われている3D アニメーション用のソフトです。

Autodesk 3ds MaxAutodesk 3ds Max

Step 1 – モデリング

CAD(AutoCADやJWCADなど)ソフトを使って描いた図面データを3ds Maxに取り込んで「モデリング」を行います。モデリングとは、コンピュータの中で図面を元に立体可し、仮想で建物を建てていくような作業です。コンピュータの中で、立方体を立てていって“ハリボテ”状の建物をつくります。

Step 2 – テクスチャー制作・マッピング

次に面に対して建築素材のテクスチャーを貼っていきます。タイル等の建材のテクスチャーも自分たちでつくります。設計士と打ち合わせをしてどのようなテクスチャーを使うかを聞き、タイルメーカーから実物を取り寄せて写真を撮って作ったりします。

Step 3 – カメラとアングル設定

出来上がったモデルにカメラを置いて視点を決めます。設計士がデザインした建物を一番魅力的に魅せるにはどの場面を、どの目線で切り取るのが一番よいかをイメージしながら、カメラを置いていきます。

Step 4 – ライティング〜レンダリング

次に「ライティング」を行い、最後に「レンダリング」をします。レンダリングとは、モデリングデータから一枚絵を書き出す作業で、リアルで精細な絵を描き出すためには、このレンダリング作業が良し悪しを決めます。以前は1枚のレンダリングイメージを作るために数時間もかかっていましたが、マシン性能も上がり、数時間で仕上がるようになりました。

レンダリング専用のソフトウェアはまた別にあり、「レンダラー」と呼ばれています。2003年頃にV-rayというレンダラーが出たことで3ds Maxも一気に普及し、建築CGパース業界が発展したと言われています。

Step 5 – レタッチ・仕上げ

レンダリングをして終わりではありません。レンダラーの進化によってリアルなCGが描かれるようになりましたが、写真のレタッチと同じで、最終的な仕上げ作業が必要となる場合が通常です。

より美しく見えるように、色や彩度の調整をAdobe PhotoShopを使って行います。光彩を描き加えたり、ガラスの反射などもマスクをきって重ね、透明感を感じさせるよう美しく仕上げるなどといった職人技的な工程です。この「レタッチ」で、最終成果物の雰囲気がまるっきり変わってきます。

この一連の流れは、Kvizのチュートリアル「やさしい3ds Max -はじめての建築CG-」で詳しく学ぶことができます。これからチャレンジしてみたい人は是非ご覧ください。

建築ビジュアライゼーションの仕事の楽しさとやりがいとは?

経歴の長い建築CGクリエイターに聞くと、仕事のやりがいは「まだ世の中にないモノを描く楽しさ」にあるといいます。世の中にまだないものを描いたCGパースが、本当にその通りに完成したときの、感動と達成感は格別だと。そのためには、パースを美しく描く力量が重要です。

1)アングル
カメラをどこに置いて、立体の建物をどう切り取るか

2)構図や見せ方
建物のかたちをきれいに見せるなら広角を使うとか、広告物の一面に大きく使うなら緑の木々越しに見上げるほうが映える、エントランスの意匠はアイレベルで切り取る等

3)情景
早朝のイメージか、トワイライトのイメージかなど、時間帯の違うイメージをつくる等

これら3つの組み合わせで、できあがる絵には無数のバリエーションができます。この建物の魅力を伝えるなら、どれがベストかと考えたりするのは建築CGクリエーターです。そんな“伝えたいツボ”が人によって異なり、クリエイターの個性となって表れます。ちょうど、高性能なカメラを同じように持っていても、プロカメラマンと素人が撮るのでは写真が全然違っているのと同じです。

どのように見せてあげれば、その建物がカッコよくなるかを考えながら描いたシーンが、お客様に驚かれたり、喜ばれたりすることが仕事のやりがいにつながっています。また、納品したパースによって、その建築プロジェクトに関わる人たちの意識が一体化し、プロジェクトが一気に加速するという場面にも出合うことができます。その意味で、建築業界にもはや欠かせなくなっているのがこの仕事であり、建築ビジュアライゼーションの力でしょう。

建築ビジュアライゼーションの未来

ここまで、建築ビジュアライゼーションの中でもCGパースの説明をしてきましたが、建築用のCGアニメーションもCGパースと同様に、建築プレゼンやマンションの販売の現場でも使われています。

そして、現在は「建築VR」が台頭しつつあります。Oculus Riftや htc VIVE などのヘッドマウントディスプレイを使い、CGで作った建築物の中をあたかも実際にそこにいるかのように体験することができるようになりました。

ゲーム業界での利用が進むHMDは建築業界との相性もよい。

その用途は、従来の建物の完成形を描いて伝えるものだけでなく、より「体験」をさせるものへ変化をしています。

たとえば、(株)積木制作は、ゼネコンに対して建設現場での安全教育や、一般企業向けの社内トレーニングなど、VRを使った研修分野で活躍しています。

積木製作が建設現場の安全意識を VR 体験で向上

建設中のビルから落ちるVRを体験などしたら、きっと強烈に記憶に残るでしょうね。VRはさまざまな新しい市場が考えられ、今後伸びていく分野だと思います。

このようにパース、アニメーション、VRとジャンルが広がっており、高い発展性と将来性があるのが「建築ビジュアライゼーション」です。

最後にもうひとつ。CGの制作方法は世界共通なので、グローバルな市場を相手に仕事をすることも可能です。このサイトを訪れたみなさんにも、ぜひ建築ビジュアライゼーションの世界に興味を持っていただけたら幸いです。

建築ビジュアライゼーションMeetUp Vol.1」にも登壇いただいた高畑 真澄 氏執筆の「世界で一番やさしい 3ds Max 建築CGパースの教科書」が12月23日に発売開始されました。

モデリングからレンダリングまで初心者に一番やさしい 建築CG向け3ds Max入門書が登場!

本書はオートデスクのメディア&エンターテインメント業界向け情報サイト「AREA JAPAN」に掲載中の動画チュートリアル「やさしい3dx Max-はじめての建築CG-」を書籍化したものです。内容を再構成し、動画では伝えきれなかった詳細な操作まで完全解説しました。

3ds Maxではじめて建築CGパースを制作する方を対象に、建築CGの基礎となる外観・内観
(インテリア)のシーンの作り方を、わかりやすく丁寧に説明しています。
3dx Maxの操作方法に加え、パースを描くのに必要な建築やインテリアの豆知識や、
印象的なパースをつくるコツなども、ところどころに追加しました。

付録には、フォトリアルを実現するプラグインレンダラー
「V-Ray」を使った操作方法をまとめました。
V-Rayの基本的な設定項目を知りたい方にもおすすめです。

●目次

Part 1 外観編(基礎)
Chapter 1 基本操作と図面の読み込み
Chapter 2 建物をモデリング
Chapter 3 カメラの設定とアングル出し
Chapter 4 外観マテリアルの設定
Chapter 5 外観のライトと環境設定・レンダリング

Part 2 内観編(応用)
Chapter 6 室内空間をモデリング
Chapter 7 家具・小物をモデリング
Chapter 8 内観のカメラとアングル
Chapter 9 内観の外光とライティング
Chapter 10 内観マテリアルの設定
Chapter 11 内観のレンダリング

Part 3 V-Ray編(付録)
Chapter 12 V-Rayでの設定

「世界で一番やさしい 3ds Max 建築CGパースの教科書」(amazon)

製造・建築・広告分野でビジュアライゼーションに力を入れていきたい方におすすめ!知る人ぞ知る、3ds Max エンジニアとして長年の経験を持つ宋明信氏(宋さん)による有償ビジュアライゼーションテクニック講座を11月よりスタート!

基本情報

回数 月1~2回(金曜日)
時間 1日2回 13時~15時/16時~18時
場所 株式会社Too 1Fコーラス
Map
定員 各8名(最小施行人数2名)
料金 税別15,000円
形式 セミナー形式(PC持ち込み自由)

講師

対象者

レベル:初心者
・製造・建築・広告分野でビジュアライゼーションに力を入れていきたい方
・製造・建築・広告分野でビジュアライゼーションの作業効率化を図りたい方

講習コンテンツ

(A)光に関する知識を追い込みましょう 基礎知識
(B)マテリアルについて深く考えましょう 基礎知識
(C)アニメーションにチャレンジ 操作系
(D)モデリングにチャレンジ 操作系
(E)パーティクルにチャレンジ 操作系
(F)クロスシミュレーションやヘアーエフェクトをデザインビズで使ってみよう 操作系
(G)Arnoldレンダラーにチャレンジ 操作系
(H)はじめて使う最新レンダラー 操作系

【注意点】
*チケットのキャンセルは基本的に承っておりませんのでご注意ください。
*実施日2営業日前の時点で最小施行人数(2名)に満たない場合、中止のご連絡をさしあげます。なお、参加費につきましては払い戻しをもって替えさせていただきます。

コース詳細・お申し込み

ビジュアルアーキテクトとビジュアルオペレーターの制作への取り組み方の違いは、以下のようになる。

1.見据えるターゲットが違う
2.求められるものが違う
3.視覚化する対象が違う

「そもそも建築ビジュアライゼーションというのは、コンテンツビジネスというジャンルに含まれています。これらのコンテンツビジネスは、目的があって成立する『目的芸術』に含まれます。しかも、ただ目的を満たしていれば良いわけではなく、そこには必ず芸術的な美しさが含まれているという意味で目的芸術と呼ばれています。建築ビジュアライゼーションもここに含まれています。また、建築ビジュアライゼーションは、クライアントを見据えてコミュニケーションを触発するビジュアル制作です。クライアントのビジョンや実現したいメッセージを伝えたいとき、そしてクライアントを一気に味方へと引き込みたいときに、もの凄い効果を発揮するのが建築ビジュアライゼーションなのです」


建築ビジュアライゼーションを実現するコツとして「問診」が挙げられた。医師が患者を診察するときのように、「クライアントが何を実現したいのか?」「設計者がそれを受けてどんな回答を出したのか?」などがわかるまでひたすら質問して、言われたことだけを描かないことが大事だという。

ここで、ある事例が紹介された。

パース

「これだけでもパースとしては成立しているので、このまま絵作りをしていけばそれで良いわけです。しかし、これではまだメッセージとしては弱いですね。そこで、どうすれば設計者とクライアントとのコミュニケーションを促していけるビジュアルに変えていけるのかということを考え、次のようなメッセージを入れてみました」

クライアントとのコミュニケーションを促すための要素を加える

クライアントとのコミュニケーションを促すための要素を加える

「簡単なことですが、バードウォッチングしている人たちを加えたのです。こうすることにより、絵にストーリーが生まれるわけです。森と近いからこそできる体験であり、『右側のスペースでバードウォッチング講座を開けますよ』というソフトの提案まで可能となります。実際、この1枚でコミュニケーションがかなり広がったと聞いています」

魔法が求められるビジュアルアーキテクト

ビジュアルアーキテクトとビジュアルオペレーターとでは求められているものも違う。ビジュアルオペレーター、つまり建築パースを制作する人へ一番求められるのが「対応力の良さ」「制作スピード」「従順さ・忍耐力」だ。その結果、修正の嵐が発生することになる。

「下手したら、1案件で何十枚、何百枚も修正させられることもあります。そうなったときには皆、ダークサイドへと落ちていきます(苦笑)」

反面、ビジュアルアーキテクトには、まるで魔法をかけて出来上がったようなハイクオリティのビジュアルが求められる。ただし、一度その魔法が成功すればビジュアルアーキテクトの価値はうなぎ登りに高まるので依頼が殺到するという。しかしそこには高打率を続けていく使命が負わされている。

初稿:レンダ素出し+トーンカーブの調整

「そのコツは3つあります。その一つ目は、『初稿(=第一印象)が大事』だということ。魔法をかける準備として、設計者を安心させることが必要となります。そのためには、最初に世界観の方向性や雰囲気がわかるところまで作り込んでしまいましょう。結局は見た目で判断されるのがビジュアル制作の世界です。一発目でいい感じのビジュアルを見せ、クライアントを魅了させてしまうことが肝心です」

2つの!

コツの二つ目としては、「2つの!が大事」だと山口氏は話す。2つの!とは、「Surprise!」と「Make sense!」であり、驚かせて腑に落とさせることが大事だということだ。「この2つの!を意識していると、確実に一発目で魔法にかけられます。ただし、ファンタジーだと言われないよう、腑に落ちるような理由を考えておくことが大切です」

コツ:マットペイント

コツの三つ目は、「マットペイント」だという。「映画の背景を制作するように、鑑賞者をその世界に引き込んでいきます。この世に存在するあらゆる素材を駆使して、独自の世界を作り込んでいくわけです」

参考のテイストを真似るのはNG

ビジュアルアーキテクトとビジュアルオペレーターの話に戻る。両者の「視覚化する対象が違う」という違いについて、ビジュアルアーキテクトはクライアントへのメッセージを視覚化するのに対し、ビジュアルオペレーターは図面(2次元)の3次元化にあるという。

「そのために、建築は地球の上に成り立つという地球・宇宙の法則に従うことが大事です。独りよがりの表現をしてファンタジーにならないよう意識しましょう」

そのほかのコツとして、「参考通りはNG」が挙げられた。参考のテイストを真似るのはできるだけ避けるべきだと山口氏は話す。その理由はシンプルで、メッセージのオリジナリティを追求しないと、そのメッセージ性は確実に弱くなるからだ。

「参考にどんなメッセージがあるかを話し合うことが必要です。その際、参考と案件の内容がズレている場合が多々あります。問診をすることで間違った方向(=誤診)につながることはしっかり取り除いていきましょう。実際、私が良く体験したことですが、『参考』通りのビジュアルを提出すると、伝えたい意図と違ったということがよくありました」

Visual Architect と Visual Operatorの違い

最後に山口氏はまとめとして次のように語り、本MeetUpが終了した。

「ビジュアルアーキテクトが増えることで良い建築が増えます。つまり、世の中に良いビジュアルが増えれば増えるだけ、良い建築が増え、社会が豊かになることに繋がっていきます。それは社会が豊かになることであり、私たち一人ひとりの幸せに繋がっていくといっても過言ではないでしょう!」

活発な意見交換がなされた懇親会も開催

意見交換の様子

3ds Max&V-ray Next製品紹介の第一部に続いて開催された、株式会社スタジオ・デジタルプラスの大橋ユキコ氏と、株式会社竹中工務店の山口大地氏による第二部のMeetUp。これらの第一部、第二部に続いて、登壇者2名とイベント参加者、そして株式会社Tooデジタルメディアシステム部スタッフによる懇親会が開催された。

参加者やオートデスク社から提供されたレアアイテム(ノベルティ)を勝者が獲得できる「じゃんけん大会」などもあり、和やかな雰囲気で6時間半におよぶ本イベントが閉幕した。

じゃんけん大会の様子

二番目に登壇したのは、株式会社竹中工務店の山口大地氏。『今、求められているビジュアライゼーション』と題して、建築の魅力を高め深める新しい職能について語られた。

株式会社竹中工務店の山口大地氏

現在、竹中工務店の大阪本店設計部スペースデザイン部門ビジュアライゼーショングループに籍を置く山口氏。大学院で6年間、建築意匠設計を学んでいたが、ビジュアライゼーションに興味を持ったことで、さらにアートディレクションの専門学校でデザイン思考について学び、ブランディングデザインを実践していったという。

「担当業務は、静止画、アニメーション、映像編集、VRなどのCG制作です。モデリングからレタッチまで一人で最後までこなすという、いわゆる“何でも屋”ですね。使用しているCGソフトとしては、3ds MaxV-Ray、ムービーとしてはAdobe Premiere+After Effects、VR制作にはゲームエンジンであるUnityや、3D CADをVR化できるSYMMETRY alphaを使っています。学生で学んだことは建築設計やアートディレクションですが、社会人からでは建築ビジュアライゼーションを選びました。理由は、建築ビジュアライゼーション業界はクリエイティブで可能性がある領域だと思ったからと、映画やゲームなど、さまざまな分野から建築ビジュアライゼーションへ応用していけるのではないかと考えたからです。なによりも、美しい作品が制作できるというところも気に入りましたね」

自己紹介の後、山口氏が実際に制作した建築パースの紹介がなされた。

建築ビジュアライゼーションがもたらす効果

山口氏は、建築ビジュアライゼーションという新しい職能(あるいはスタンス)により、以下のような良い効果をもたらされたという。

・プロジェクトチームのモチベーションが上がる。
・設計行為が加速する=ドライブする。
・合意形成がはかどり、コンペ勝率が格段に上がる。
・感謝され、次の仕事へのリピート率が非常に高まる。

その結果、2016年から2017年は、仕事へのリピート率が160%も向上、2017年から2018年7月現在でみてもリピート率が110%も上がっているという。また、これらの効果から、竹中工務店のブランディングを図っていこうという「ブランディングチーム」が結成され、山口氏はビジュアル制作担当として所属しているそうだ。

また、3年後の組織計画や具体的施策(マネジメント、クオリティ、新規外注等)を作成し、さらにその先の未来計画、ビジョンの提示を目的とした「VIZ(ビジュアライゼーション)グループの将来を考える会」が結成され、山口氏はそのリーダーに抜擢されている。

「このような状況の下、『これからのビジュアライゼーションがどうなっていくのか』についてお話しさせていただきます。手描きパースからCGパースへという流れがあるように、今の建築ビジュアライゼーション業界にも変化が求められています。それを理解していないとその先に進められないと考えていますので、この後はそこにフォーカスを当てて紹介していきます」

建築ビズ業界の新しさとは

新しい職能の「新しい」とはどういうことかというと、一つはスティーブ・ジョブズが起こしたような「破壊的なイノベーション」だ。すなわち、これまでとはまったく異なる技術を持ち込んでくるようなことを指している。

未知化=既存x既存の組み合わせ≒温故知新

もう一つは「これまでに目にしたことはあるけれど、別物に見える」というもの。これを「未知化」と呼んでいるが、これがもう一つの新しさ。世の中のほとんどは「未知化」による新しさが多いという。

これらの生み出し方はシンプルで、既存のものと既存のものとの組み合わせで生まれる。今回の登壇内容は後者であり、歴史の延長線上にあるということを認識しておいてもらい、温故知新のスタンスで見てもらえればと山口氏は話す。

「『新しいことなんて考える必要があるの?』という方もいらっしゃると思います。しかし、少し考えてほしいのが、いつからパースを建築ビジュアライゼーションと呼ぶようになったのかということ。あえて呼び名を分けているからには、パースとビジュアライゼーションは違うものです。(新しい呼び名が存在する以上、なぜそれが生まれたかを考えなければいけません。)そこで私なりに両者を定義してみました」

山口氏は建築パースと建築ビジュアライゼーションを以下のように定義している。

・建築パースは、2次元(図面)の3次元化し視覚化したもの
・建築ビジュアライゼーションは、クライアントへのメッセージを視覚化したもの


「ビジュアル全体を氷山に捉えてみると、氷山の一角と言われる光を浴びた部分が建築ビジュアライゼーションであり、その下の大部分が建築パースとなります。実際のところ、皆さんの仕事の割合は氷山のように、水面の上に出ている建築ビジュアライゼーションが1だとしたら、水面下の建築パースが9という割合になるかと思います。私の仕事が増えた大きな理由として、この比率が逆転したことにあります。今後、建築ビジュアライゼーションの割合が増えていけば、業界も盛り上がっていくでしょうし憧れの対象として魅力的なものになるだろうと考えています」

建築ビジュアライゼーションを創り出す新しい職能「ビジュアルアーキテクト」

建築ビジュアライゼーションを創り出す新しい職能「ビジュアルアーキテクト」

そこで山口氏は、建築ビジュアライゼーションを創り出す新しい職能を「ビジュアルアーキテクト」と呼んでいる。それに対し、従来までの建築パースを制作する職能をあえて「ビジュアルオペレーター」としている。これからは「ビジュアルオペレーター」ではなく、「ビジュアルアーキテクト」がより一層求められていくだろうと山口氏は話す。

ビジュアルアーキテクトとビジュアルオペレーターとの違い

「ビジュアルオペレーターというのは、建築業界で2つの大きな変化が起きたことにより発生した職能です。その変化の一つはコンピューテーショナルデザインと呼ばれる領域が発展したことです。設計業界には、ライノセラスをはじめとしたパラメトリックに値を変化させ複雑な形態をデザインする流れがあり、設計者自身やそのソフトの専門家がモデリングを担うようになってきました。もう一つはBIMです。これからはBIMの流れが主流になってくるのは言うまでもありませんが、実際当社設計部でもBIMによるモデリングが進んでおり、BIM化の目標値は100%です」

このような流れが加速した理由は2次元と3次元(図面と3Dモデル)を同時に作成できるソフトが発展してきたためだ。さらに、作図ソフトにレンダラーが搭載されてきたので、ある程度のパースであれば簡単にアウトプットできるようになってきたのも理由だ。つまり、CADオペレーターが図面を作成して、さらに建築パースも作成する流れが生まれてきたという。そうなると建築パースを生業としているのがパース屋だけはなくなり、かつパース屋の特権ではなくなってきたという意味で、あえて新しく「ビジュアルオペレーター」と呼ぶのである。

この程度のカットパースであれば、CADオペレーターや設計者でも簡単につくれるようになった

この程度のカットパースであれば、CADオペレーターや設計者でも簡単につくれるようになった

「次にビジュアルアーキテクトという職能です。最近では、なんらかのメッセージを持った美しいパースを目にすることが増えています。しかも、建築そのものを描いているというよりも別のなにかを描いているような気がしてなりません。今の建築家にはこのようなパースが求められており、それが私の定義する建築ビジュアライゼーションだと思っています」

アーキテクトが建築を設計するように、CG空間内に空間・建築・世界を設計し、より情緒的で、より美しい世界を表現する職能がビジュアルアーキテクトなのである。つまり、クライントが実現したい世界を、メッセージとして視覚化する職能である。この職能では、絵作りに集中でき、本来のアーティストとしての職能をまっとうできるわけだ。「大変なときもありますが、クリエイティブでとても面白く、やりがいを感じられる職能です」と山口氏はいう。

私たちが実務の場で多用しているライノセラスとヴィジュアルプログラミングツールのグラスホッパーを中心とした、<シミュレーション、ファブリケーション、ビュジュアライゼーション、タイリング > など、建築設計におけるコンピューテーショナル・デザインの技法をプロジェクト実例を交えつつ紹介する、ノイズメンバーによる全6回のコラム。(内容は変更の可能性があります)

第1回:インスタレーションにおけるGrasshopperの活用法
第2回:リアルタイム・ビジュアライゼーション 一回の体験は一千の絵に匹敵する
第3回:2D展開できない立体造形物の作り方 ー 編み物を例として
第4回:Dynamic representation of the design
第5回:デジタルツールと伝統技術の融合 -Voronoi Tatami TESSEを例として-


noiz
2007年設立。現在豊田啓介、蔡佳萱、酒井康介の3名のパートナーを中心としてコンピュ
ーテーショナルな手法を駆使し、建築を主軸にインテリア、インスタレーションから都市
開発まで幅広いジャンルで東京、台北の二拠点から国際的に活動する建築デザイン集団。