前編はこちら

ビジュアライゼーション・ツールについて①

現在、私が3Dビジュアライゼーション制作に使っているのは、まずAutodesk 3ds Max。そして、そのプラグインでレンダラーのV-Rayです。3ds MaxでモデリングしV-RayでレンダリングしてPhotoshopで仕上げるのが、当社のパース制作の基本スタイルです。他に特殊な案件でVR等が必要な場合はUnityを、動画編集でAfter Effectsも使います。

メインツールの3ds Maxは10年以上使い続けています。昔から建築系3Dビジュアライゼーションでは3ds MaxとV-Rayのセットが最もスタンダードで、それは今も変わりません。私はソフトウェア検証も任されているため、多様なソフトと連携しやすい3ds Maxは、ある種のハブ的役割も担ったツールとして使っています。

ビジュアライゼーション・ツールについて②

V-Rayは、きわめてコストパフォマンスの高いレンダラーです。他のレンダラーも幾つか使ってみましたが、どれと比べてもレンダリング品質と計算時間のバランスという点で、最も優れたレンダラーではないでしょうか。たとえば、かつて3ds Maxの標準レンダラーだったMental rayと比較しても、V-Rayが同品質のレンダリングに費やした時間はMental rayのわずか1/10でした。

Unityは主にリアルタイム系CGの制作に使っています。当社では1フロア数千㎡という大規模案件に使うので、そうした大規模データを顧客先でノートPCを使って動かすには、軽いデータを作りやすいUnityが向いているのです。

制作体制と制作フロー、納期について

案件にもよりますが、設計提案を行う場合、お客様との打合せから実際のプレゼンテーションまでの期間は、設計を含め数週間。パースは基本的に設計完了後に発注されるのですが、パース制作期間は提案内容によって大きく変わります。1案件の制作点数は数点ですが、案件数が多いので年間制作量は数千点もの点数となります。これを社内制作と外注を使い分けながら制作していくわけです。

パース制作も多くのパターンがありますが、基本的には設計者の「ここをこう見せたい」という指示で進めます。モデリングしてカメラを配置し、その「見せたい範囲」をカバーしながらより美しく見えるアングルを探していきます。当然、変更もありますし、こちらから異なるアングルを提案することもあります。限られた時間の中、最後まで品質向上のため設計者とやりとりを続けます。

パース制作用独自機能をMax Scriptで

パース制作はタイトなスケジュールで進める場合が多く、効率化は、私たちにとって常に重要な課題です。そのため、作業フロー全体にわたりさまざまな工夫を凝らしています。中でも効率化に寄与しているのが、Max Scriptの活用で、パース制作用に作成した独自機能が20種ほどあります。幾つか紹介してみましょう。

●3DModel Loader:フォルダを開かなくても社内サーバから3Dモデルを検索し、直接読み込めるツールです。テクスチャ類もプロジェクトフォルダへ自動的にコピーされます。

●Rendering Tool:ワンクリックでシーン内の全カメラアングルをネットワークレンダリングできるツールです。特定の命名規則に添って自動で保存名を付けて保存されます。

Rendering Tool

Rendering Tool

●ObjectID Manager:マスク出力用のオブジェクトIDを管理するためのツールです。V-Ray Multi Matte Elementのプレビューも行うことができます。

●SketchUp Importer:SketchUpデータを3ds Maxへ読み込み、マテリアルをV-Rayに変換するためのツールです。当社でも設計者がSketchUpを使うようになったので作りました。

この他では、最近、フロアに家具が配置されていくアニメーションをMax Scriptで作成しました。KeyShifterという既存スクリプトを参考に、建築アニメーション用の動きを付けられる様に私が書いたものです。オフィスが徐々にでき上がっていくアニメーションは期待感を高める効果があり、普通のウォークスルー以上に高い訴求力を期待できます。

「繰返し」を自動化して省力化とミス削減を

パース制作は「繰返し」が多い作業です。これらの繰返し作業を自動化していけば、一つ一つは小さくとも最終的には大きな省力化に繋がり、ミスも削減できます。そうすれば、これまで手作業で出来なかったことも可能になって表現の幅も広がっていきます。現在、このツールセットは、社内制作メンバー全員で共有しており、皆が日常的に利用するようになっています。

モディファイヤセット機能

モディファイヤセット機能

Max Script以外にも、効率化の工夫はいろいろ試みています。たとえばモディファイヤセット機能。よく使うモディファイヤをボタンに登録しておけば、いちいちリストから選ばずワンクリックで追加できるという既存機能です。3ds Maxユーザーの間でも意外と使われていない様ですが、パース制作に限らず3ds Maxの作業に欠かせない設定の一つだと考えています。

同じ作業を何度も繰り返したくないので、面倒だと感じた作業はMAX Scriptで自動化する様にしています。

設計3次元化の流れを先取りして──

技術面でいま注力しているのは、リアルタイム系の3Dビジュアライゼーションの活用です。たとえばUnityやUnreal Engineなどのゲームエンジンから書き出すウォークスルー・アプリ等に注目しています。レンダリングが要らないメリットは非常に大きくて、たとえば顧客先で3Dを使ったデザイン承認を得る試みも始まっています。

業務面では、当社の設計業務自体が徐々に3D化しており、それへの対応が喫緊の課題です。実際、SketchUpの活用も増えており、新たなBIMツールの導入検討も始まりました。設計業務の3D化という流れは今後も加速していくでしょう。
そうなると、設計完了時に3Dデータができている状態になるので、それを有効活用していく新しい流れについても考えていきたいですね。

三戸幸裕氏

コクヨの三本柱の事業展開

「コクヨ」という社名は漢字で書くと「国誉」。つまり「国の誉れ」という意味です。そして、その「国の誉れ」の名に見合った商品やサービスを提供していくことにより、世の役に立つことを目指している会社なのです。この企業理念は1905年の創業以来、変わっていません。

一方で、コクヨが展開する事業フィールドは広がり続けています。創業時は和式帳簿の表紙製造からスタートしたそうですが、現在の主力事業は、文具、家具、通販という三本柱で展開しています。私が所属しているファニチャー事業本部は、家具の製造販売を担う部門で、オフィス家具を中心に公共家具などの製造・販売を行っています。

スペースソリューション事業部のミッション

オフィス家具は、店に並べて売るよりもオフィス移転する企業から直接依頼されて販売するケースがほとんどです。競合各社とのコンペ案件も多く、そうなると各社それぞれ「どの家具をどう配置し、どんなオフィス空間を創るのか」、「どんな働き方ができるのか」を設計・提案して、お客様に選んでいただくことになります。この空間づくりと提案がスペースソリューションのミッションです。

そのため、当事業部にはオフィスを設計する建築士やインテリアコーディネーター、働き方を考えるワークスタイルコンサルタントまでいます。さらに実際のプレゼンに際しては訴求力を高めるため、3DCGによるさまざまなビジュアライゼーションを活用しています。この3Dビジュアライゼーションに関わる制作とテクニカルコーディネートが私の主な業務です。

三戸幸裕 氏

なぜ3Dビジュアライゼーションが必要か

コンペ案件では、確実にお客様に選ばれるべく設計はもちろんプレゼンテーションにも一段と力が入ります。競合に負けない、よりクオリティの高いビジュアルを作る必要性があるのです。

設計案件の提案で用いるビジュアライゼーションは建築パースが中心となります。その制作については外注と社内制作を併用する事で、質と量とスピードを両立させています。社内制作では設計者も傍にいるので、細かい指示のやりとりや確認もスムーズに行えます。ビジュアル制作だけでなく、設計業務も内容をブラッシュアップしていく余裕が生まれ、さらなる品質向上に繋がります。

パースからウォークスルー、VRへ

従来は静止画パースが中心でしたが、今ではさまざまな3Dビジュアライゼーションを活用するようになりました。特に近年、新しい見せ方が次々と出現し、これら新手法を活かしたプレゼンが始まっています。最近ではウォークスルー・アニメーションやVRを利用しています。

内容に適した手法を選び活用しています。「お客様からこんな要望をもらったが、これに応えるには静止画よりVRの方が効果的では?」などと見せ方を考えていきます。新しい手法は次々登場するので、どれにどんな効果があるのか、コクヨのやり方に合うのか試行錯誤しながら制作を行っています。

VR事例

VRを活用した事例を紹介しましょう。移転前に新しいオフィスをリアルに感じてもらう為に移転先フロアでVR体験会を行いました。5000㎡の移転先フロアは家具も何も入ってない状態で、3D CGで作ったVRオフィスを見せ「どんなオフィスになるか」体感してもらおうと考えました。

よりリアルなVR体験とするため、VRの見せ方を工夫しました。まず現地に一脚だけ椅子を置き、この椅子とバーチャル空間のオフィスの椅子をリンク。VR体験者には、この椅子に座った状態からスタートしてもらったのです。

VRによるオフィス紹介(パース)

VRによるオフィス紹介(パース)

VRによるオフィス紹介(VR視界)

VRによるオフィス紹介(VR視界)

バーチャルオフィスを体感させるために

VRゴーグルを被り本物の椅子に座った体験者は、VR上の椅子に本当に座っている感覚からスタートするので一気に没入感を高める事ができます。また、ただバーチャルオフィス内を「歩いて見てください」と言うだけでは、「どこへ行けば良いか分らない」と言われる方もいます。そこで、VR空間内で「宝探し」の様なゲームを行う仕組みにしました。ゲーム要素を組み込む事により、VRオフィス内を探索する目的を得た体験者は、積極的にバーチャルオフィス内を歩き回ってくれるようになりました。参加した方からは「この席は集中できそう」や「出社したらこういうルートで自席へ行くのか」など新オフィスで働く姿を意識したコメントも聞かれ、VR体験会を成功裡に終えることができたのです。

空間設計はバーチャルな商品案だから

VRはしばしば物珍しさだけで使われますが、それは当社のやり方ではありません。私たちにとってそれは、設計意図を正確に、そして高い説得力で伝えるための手段です。たとえば、あるお客様が新オフィスについて「来客の視界が気になる」と仰有るので、パノラマVRを使い「特定の視点から見渡した視界」を体験いただいた事があります。VRで確認されたお客様にはすぐご納得いただけました。

空間設計は、販売時点で実物が存在しないバーチャルな商品案です。プロダクトなら実寸のモックアップが使えますが、建築では実寸大の模型を作る事は現実的ではありません。建築界でモックアップに替わるものがVRなのです。現状、お客様の所でのVRプレゼンにはハイスペックPCやVR機材などのセッティングが必要で、限られたプレゼン時間の中で行うのは困難です。しかし、これもハードが進化すればいつか可能になると思っています。

Who We Are

2007年に設立。現在、豊田啓介、蔡佳萱、酒井康介の3名のパートナーを中心に、国籍もバックグラウンドもさまざまなメンバーが集まり、東京・台北の二拠点で活動する建築デザイン事務所です。
ここでは全6回のコラムを通して、私たちが普段、実務の場で多用している、Rhinocerosと、ヴィジュアルプログラミングツールのGrasshopperを中心に、<シミュレーション、ファブリケーション、ビュジュアライゼーション、タイリング>など、建築を主軸にプロダクトデザインから都市開発までさまざまな規模や分野において応用可能なコンピューテーショナル・デザインの技法をプロジェクト実例を交えつつ紹介します。

手仕事とデジタルツール

近年、生産の分野においては、デジタルファブリケーションの発展によって何かを形にするというハードルが下がってきています。一方で、手仕事でなければ生成できないプロダクトも多々存在することは明らかであり、これらについてもデジタルツールを適応させて、新しい価値を生み出すことへの取り組みが必要となっています。

そこで連載コラム第5回は、「デジタルツールと伝統技術の融合 -Voronoi Tatami TESSEを例として-」と題して、伝統産業における職人の技術をどのようにアルゴリズムへ組み込むかについて考察します。

2019年に正式ローンチを行ったプロジェクト「Voronoi Tatami TESSE」は、高い技術力をもつ畳製作会社、株式会社国枝と共同で開発したプロダクトです。この、畳を製作する上でのデジタルツールの使用方法や実装した際の発見・工夫についてまとめました。

なぜボロノイ図??

Voronoi Tatami TESSEは、その名の通りボロノイ図を基にしてデザインを行っています。ボロノイ図は平面上の母点が、他のどの母点と最も近いかについて領域を示した幾何学図形であり、各母点を結んだ直線は、ボロノイ図を構成する直線によって二等分されるという性質を持っています。トンボの羽やウミガメの甲羅、キリンの体の模様など自然界に頻繁に表れ、実際的には情報処理の分野などに応用されています。

Voronoi Diagram
Voronoi Diagram
キリンの体表
キリンの体表

今回TESSEに使用した理由の一つとして、ボロノイ図が平面充填という数学的な概念と非常に相性が良いことが挙げられます。つまり、ボロノイ図を使用すれば、基本的にどのような形状の部屋であっても、畳を敷き詰めるこごたできるということです。ちなみに、TESSEという製品名は平面充填の意である“tessellation”が由来となっています。

畳の製作方法と業界の現状

TESSEがどのように生産されているかを説明するため、まず畳の製作方法について簡単に説明します。

1_収穫した「い草」を泥染めし、その中でも良質ない草を選定して畳表を織り上げます。TESSEでは熊本県産の「ひのさらさ」という品種を使用しています。

2_よく乾燥させた藁を重ねて畳の芯にあたる畳床を作成し畳の形状に合わせて切断します。藁の代わりにポリウレタンフォームを使用して断熱性を高めたものも存在します。TESSEの場合は、できる限り国産の有機素材を用いることを前提とし、気密性の高い現代建築との相性を考慮して、原則としてクッション性、防虫性に優れたひのきチップの畳床をベースにしています。また、畳の製造を受け持つ国枝では、noizで生成した畳のCADデータから切削角、畳表の巻き付け分の距離などをパラメトリックに調整した上で、デジタルデータからNCルーターで直接畳床の切り出しを行っています。

3_畳床を畳表で縫い付け、縁を畳縁で緊縛することで完成となります。近年は、畳表は機械縫いが主になっており、TESSEでは角の機械縫いが困難な部分のみ手縫いを行っています。また、畳縁に関しては、あえて使用しない縁なし畳とし、通常の畳よりも高い技術力を必要とするものの、よりミニマルで現代的なデザインを実現しています。

ひのきチップを圧縮した畳床
畳床をNCルーターで切断
畳表を畳床に機械縫いで束縛する
 畳の角部分を手縫する
左上: ひのきチップを圧縮した畳床 右上: 畳床をNCルーターで切断 
左下:畳表を畳床に機械縫いで束縛する 右下: 畳の角部分を手縫する 写真:Munemasa Takahashi

このように畳の製作には、い草の生産から畳表の縫い付けまでに様々な工程が存在し、各工程に専門的な技術が必要となりますが、生活様式の変化、職人の高齢化などの問題により衰退していることは確かです。また、流通しているい草の多くが中国産であり、価格競争を超えて国産い草の品質の良さを伝えることができるような工夫が求められています。

アルゴリズムとして職人の手仕事を記述する

この章では、これらを満たすアルゴリズムと製作図の作成を、3D CADソフトウェアのRhinocerosとプラグインであるGrasshopperを使用してどのように行ったかについて説明します。

GH内のコンポーネント配列

GH内のコンポーネント配列

1_Boundary Line(部屋形状)、母点の入力

最初に、採寸や3Dスキャニングで得た部屋の形状データをRhinoceros内でライン化し、製作する畳のピース数(畳の全体における分割数)分の母点とともにGrasshopperに入力します。部屋の形状は、基本的に2Dラインで表記できるものであればデータとして入力することができます。例として、4畳半(2700mm×2700mm)、12ピースのボロノイ畳を製作するとして説明を行います。

Boundaryと母点の入力

Boundaryと母点の入力

2_制約の判定

次に、国枝との実験を基に設定した畳の製作における寸法、構造上の制約において、1の情報をもとに作ったボロノイ図が製作可能かどうかの判定を行います。実装する上で様々な制約がありますが、今回は形状に関する主な制約として「畳のエッジ長さの制限」、「畳の角度の制限」、「畳のサイズ制限」の3点について説明します。

■ 畳のエッジ長さの制限
畳表の剛性や角の折り込み、重ね合わせなどを考慮すると、各畳の辺は最小50mm必要となります。そのため、パターンの生成段階において、辺の長さが50mm以下となるものは自動的に候補から排除されます。

■ 畳角度の制限
畳床の構造的な制約や製品としての強度などの点から、畳の頂点の最小角度は30度に設定しています。そのため、頂角が30度よりも小さい多角形を含むパターンは自動的に排除されます。

■ 畳のサイズ制限
畳の表面を覆うい草製の畳表にも規格寸法が存在するため、多様な多角形になるボロノイ畳の各ピースがほぼ3/6判の畳表に収まることが条件となります。畳表に対してどの向きに配置しても収まらないピース形状を持つパターンは自動的に排除されます。

畳のエッジ長さの制限
畳のエッジ長さの制限
畳角度の制限
畳角度の制限
畳のサイズ制限
畳のサイズ制限

3_目地方向の調節

TESSEにおいて畳の目地の向きは、各ピースが畳表に収まる角度の範囲でユーザー自身が選択でき、その目地への光の反射が織りなす銀から濃鶯色までのグラデーションも大きな魅力の一つです。Grasshopper内の操作としては、各ピースを1~180度まで回転させて3/6判に収まった角度のみを表示します。次に、目地の方向をnumber sliderを操作することで回転させます。number sliderの値がどのような数字となっても、最初に抽出した角度の範囲で目地が選択されるように制限をかけています。

目地範囲

目地範囲

目地調節

目地調節

4_検討結果の図面化(Bake)

Grasshopper内で行っていた検討をBakeすることにより、畳製作用の図面を描画します。描画内容としては、畳のエッジ長さ、角度、目地、畳の形状を内接できる最小の四角形のサイズとなります。これらを畳製作会社に送付することで、畳の製作がスタートします。

畳の図面化

畳の図面化

デジタルツールで変化する素材の見え方

一般に、畳の配置や分割は部屋のサイズに応じて決まり、1:2の長方形ユニットをベースとして直行系の中でパターンを生成してきました。広間や茶室など、畳のパターンとその目地は、その部屋に座る人の立場と階層を図式化し、社会構造の反映ともいえる状況を伝統の中に作り出してきました。一方で、ボロノイ図は縦・横といった支配的な軸や系を持たない幾何学図形であるため、このような制約とは関係なく自由に敷き詰めることができます。

加えて、TESSEは畳表の目地の向きを自由に変更でき、不均一に並べられた異なる向きの目地は様々な方向で光を反射します。そのため、同じい草を使用しているにもかかわらず、光源の位置や天気、人の動きなどに応じて常に移り変わる、多様な表情をみせます。

 Voronoi Tatami TESSE 写真:Yasuhiro Takagi

Voronoi Tatami TESSE 写真:Yasuhiro Takagi

以上ようなTESSEのもつ製作プロセスの動性や、モノとしてのパッシブなインタラクティブ性をあえてメディアアートとして提示したのが、今年3月に開催されたMedia Ambition Tokyo 2019での展示となります。プロジェクターから投影される映像は、プロジェクションマッピングにおいてよくイメージされるカラフルなものではなく、ただ光の強弱を変化させる操作のみでデザインされています。しかし、様々な色に見えるTESSEの特徴により、プロジェクションの映像が様々な色を持っているかのような見え方をします。

Media Ambition Tokyo 2019 展示 展示作品: noiz + 国枝 映像: Ryo Shiraki

このように、伝統産業の生産工程の中に現代的なデジタルツールを取り入れることで、今まで顕在化しなかった素材の特徴が浮かび上がり、新たな可能性を見出すことができます。デジタルツールの使用による単なる効率化の向上のみならず、アウトプットされたプロダクトが新たな価値を獲得したというこの実例は、他の既存産業の価値を再評価するカギとなり得るかもしれません。

マスカスタマイゼーションの実装と伝統産業の可能性

noizではカスタマー自身がWeb上で畳パターンの生成を行えるTatami Generatorというサービスを開発しています。畳産業は寸法精度を担保するために、業者が直接部屋の採寸ができる近所の範囲での販売に限られていました。しかし、3Dスキャニングの精度の向上、機材の普及はそのような制約を取り払う可能性を十分に持っています。将来的に、TESSEでは3Dスキャナーをカスタマーへ送付し、自身で部屋を採寸、Web上のTatami Generatorへの情報の入力をしていただくことで、ボロノイパターンの生成から畳の発注までできるようにすることを目指しています。

カスタマーとWeb上のアプリケーションにおけるネットの双方向性の強化によって、TESSEは理論で提唱されてはいるものの、明確に活用されている事例がほとんどない「マスカスタマイゼーション」の概念を実現した世界的に珍しいプロダクトとなっています。こうした生産と流通体系の変化によって、TESSEのように身近な範囲で完結していたマーケットがインターネットによって世界中へと拡大し、斜陽といわれているような既存産業の価値も同様に大きく変化する可能性があります。

また、物・産業の価値が再評価されうる可能性の創造のために、人の手で生み出される技術を直接プログラムとして記述するのではなく、TESSEで提示したような何か別の要素(今回はボロノイ図)を媒介として技術を表現することは、既存の産業プラットフォームを一から刷新するのではなく、人々が長い年月を経て積み上げてきた技術を尊重しながらアップデートするという目的に適していると思います。

noizでは既存の産業における技術を尊重しつつ、デジタルツールを生かして産業の新たな価値を再編集する試みを続けていきたいと考えています。