Who We Are

2007年に設立。現在、豊田啓介、蔡佳萱、酒井康介の3名のパートナーを中心に、国籍もバックグラウンドもさまざまなメンバーが集まり、東京・台北の二拠点で活動する建築デザイン事務所です。
ここでは全6回のコラムを通して、私たちが普段、実務の場で多用している、Rhinocerosと、ヴィジュアルプログラミングツールのGrasshopperを中心に、<シミュレーション、ファブリケーション、ビュジュアライゼーション、タイリング>など、建築を主軸にプロダクトデザインから都市開発までさまざまな規模や分野において応用可能なコンピューテーショナル・デザインの技法をプロジェクト実例を交えつつ紹介します。

デジタルデザインをどう出力するか?

連載コラム第3回目は、「2D展開できない立体造形物の作り方 / 編み物を例として」と題したテーマで、コンピュータ(Rhinoceros+Grasshopper)で生成した3Dオブジェクトの出力方法に関するリサーチ事例と、リサーチから見えてきたファブリケーションに関する考察を紹介します。

昨今、デジタルデザインを実現するツールとして、レーザーカッターやCNCルーター、3Dプリンタなどのデジタルファブリケーション・ツール(以下、デジファブ・ツール)が一般化し、専門的な技術が無くても手軽に複雑な形状の出力ができるようになりました。一方で、デジファブ・ツールには出力する材の大きさの制約や、出力中に起きたエラーを修正できないといった弱点もまだまだ山積しています。例えば組み立てのためのラベリングとその部材の整理が煩雑になる、部材同士の寸法差が微差であり部材の個体認識がしづらい傾向があるといった難点があります。

そこでデジファブ・ツールに頼ることなく、あえて原始的な方法で複雑なデジタルデザインを出力するためのリサーチの一例としてnoizは「編み物」に着目し、『Algorithm Knitting Project』と称したファブリケーションリサーチをまとめました。

編み物独自のノーテーション/2D展開できない3Dオブジェクト

建築を作るうえで設計図が必要であるように、編み物では通常、「編み図」という図を使用します。「編み図」には独特の表現で編み物の完成形が記述されており、初心者にはこの編み図から完成形を読み取ることがたやすくはありません。一方で、造形物を複雑にすればするほど編み図の記述は実態以上に複雑になります。それは2D展開できない3Dオブジェクトを無理やり平面で表現しようとするところに原因があるのではないでしょうか。このことを背景に、初心者にも分かりやすく、造形物の最終型をイメージしつつ編み進められる、立体を立体のまま表現する「3D編み図生成ガイドアプリケーション」の制作を試みました。

編みぐるみの編み図の例
編みぐるみの編み図の例 ©noiz
編みぐるみの基本形:球
編みぐるみの基本形:球 ©noiz

編み物の手法のなかでも、立体的な造形を編むのに適した「鍵編み」で作られる「編みぐるみ」を例にあげます。編みぐるみは極端に単純化すると、立体を等高線状に分割した「行」と、行と行を接続させる「列」にあたるコネクションライン(一般的に網目と認知されている箇所)の2要素で構成されています。

編み始めに基本ユニットとなる基準「リング」を作り、そこから同心円状に網目を増やすことで球体を形作っていくのが、基本の方針です。テディベアや人形は、大小の球体を組み合わせ、つなぎ合わせることでそのデフォルメされた可愛らしい造形物を出力します。一方で、凹凸のあるサーフェス、例えば複数の球体がシームレスに繋がったメタボールのような造形物を作るときには、くびれの度合いによって目の増減の変化率が異なります。このため、二次元の編み図で解くことが一気に難しくなります。そこで、三次元のまま編み図を生成する方が読み取る側も理解しやすく、ややこしい記述方法も必要なくなるのではないかと考えました。

では、3D編み物ガイドツールはどのように立体編み図を作り出すのでしょうか。Rhinoceros+Grasshopper上で立体編み図を生成するアルゴリズムの途中段階で細かなデータ整理を行うフェーズがいくつか存在しますが、細かい判定の過程は省略し、大きな流れをピックアップします。

3D編み図生成の基本方針

① “編みぐるみたい”3D MeshモデルをRhinocerosに入力する(★-1)
② Mesh上に等距離にある線を等高線的に生成(★-2)
③ 基点位置によってパーツの分割数が異なって判定されるため、編み始めの基点Planeを設定する
④ 生成された線を網目のスケールに合わせて等分割するPointをつくる
⑤ 等分割したPointと隣り合う次の行の線上のPointをClosest Pointで結び線にする(★-3)
⑥ 編みをガイドするためにポイントにIDを振り整理する+くびれ部分が膨らむのを防止するための絞り糸を通す範囲を判定させる凹曲率判定を表示する

Rhinoceros上の編み図生成プレビューとその手順 ©noiz

Rhinoceros上の編み図生成プレビューとその手順 ©noiz

(注釈)
★-1:始点を中心にしたSphereを生成→MeshとSphereとのIntersect Crvをとる→Intersect Crvを中心にしたPipeを生成→生成されたPipeとMeshのIntersect Crvをとる→以下同様にPipeとIntersect Crvの計算を繰り返す
★-2:厳密にはこの線群は同一法線ベクトルの平面で生成された等高線ではなく、モデルメッシュ上で等距離に位置する疑似等高線である
★-3:この線が網目の分岐数に対応する。コネクションラインが1本になる場合は「網目が増減なし」。1個のポイントから複数分岐する場合は「網目が増加」。複数のポイントから1個のポイントに統合される場合は「網目が減少」とみなせる
Algorithm KnittingのGrasshopperスクリプト

Algorithm KnittingのGrasshopperスクリプト

編みぐるみの編み図の例
編みぐるみの基本形:球
Grasshopperから書き出したスクリプトを基に作成したガイドWebGUI(β版)
©noiz
※GrasshopperのスクリプトをJSONに書き出し、β版ウェブアプリケーションのGUIの編み図ガイドを作成した。ウェブGUIでは網目を表現する球の膨らむアニメーションで編み進めていく方向を指示し、分割されたパーツごとに色分けを行い、行とポイントナンバーとパーツの3種類の情報から各ポイントIDを振り分けた。

デジタル技術導入による設計プロセス変化

これらのβ版立体編み図アプリケーションと試作品の作成を通して、編み物自体が持つ特異性と同時に、今後のデジタルデザインの出力に関する「物質と加工方法の特性の結びつき」が見えてきました。

編み物はその素材自体が柔らかく伸縮性があり、毛糸さえ継げばどこまでも大きく出力できる線形の構成をしていることから、厳密性を過度に求めない非常に「おおらかな」素材であり、ものづくりであるといえるかもしれません。加えて硬質素材では難しい、加工工程の手戻りを許容します。一方、その特性からデザイン上では意図しない変形に対しても柔軟に反応するため、絞りの毛糸を通さざるを得ない箇所の判定(凹曲率の判定)が別途発生します。そのため、これまでとは違う設計プロセスを設定し、物性をガイドUIに組み込むことが求められます。

例えば、編み物の予想外の挙動の反映として、Algorithm Knittingのリサーチ初期段階で、筆者が円形コースターを編もうと(何も考えずに)同心円状に網目を2倍ずつ増やして編んでいると、外周部に「ひだ」が生じました。この現象は、編み始めは円周の増加率と面積の増加率が均衡を保って同一平面に収まっていたのが、ある時を境に面積の増加率に対する円周の増加率が大きくなり、外周の毛糸が同一平面上に納まりきらないことで「ひだ」を発生させてしまうことが原因だったのです。

試作段階で編み目を増やしすぎたために発生した「ひだ」 ©noiz

試作段階で編み目を増やしすぎたために発生した「ひだ」 ©noiz

編み方の失敗から生まれた「ひだ」ですが、今後ファッションや毛糸小物の表現、精度の高い3Dビジュアライズに展開する可能性は十分にあるでしょう。出力後のやわらかな物体全体の挙動そのものは、微小な誤差を積み上げて算出するため、あまりにも複雑すぎて完璧な計算は不可能です。それゆえに曖昧性を受け入れることを念頭に置きつつ、一方でその全体の系としての挙動を十分に制御しながら、もしくは物性による「暴れ」を寸法体系にあらかじめ見込んでアルゴリズムにフィードバックするプロセスが必要になります。

「ひだ」の発生の仕組み ©noiz

「ひだ」の発生の仕組み ©noiz

つまり、あるべき形・欲しい構造から設計をスタートし、それを実現するために必要な工法やUI、アルゴリズムをその都度開発するというスタンスが今後より重要性を持ってきます。下記にその一例を紹介します。

例:UI設計の改良
Rhinoceros+Grasshopperに入力した3DメタボールのMeshモデルを例に立体編み図ガイドによると、なめらかな凹凸のある立体物を編もうとする場合、網目の数は単純に2倍3倍と一定比率で増減させれば良いわけでもありません。3D Meshの微細な曲率の変化を根拠にアルゴリズムがコネクションラインの数を判定するので、時として編み手の予想に反した部分で目の数が増えることもあれば減ることもあります。ガイド上では編み目の一個一個にIDを振り分けて位置を指し示していますが、アプリケーションのガイドのおかげで紙の編み図に比べて現在位置を見失う割合は大幅に減ったとはいえ、編む作業はシークエンシャルに移り変わっていくため、自分がどのIDの編み目にいるのか迷子にならないように気をつけなければなりません。今後、センシング技術と組み合わせて編みの現在位置の情報とUI上の位置の指示を相互にリンクさせたインタラクティブなアプリケーションを模索することで、ファブリケーションの精度も上がるのではないかと考えます。

現状のAlgorithm KnittingのGrasshopperのスクリプトはメタボールの入力にのみに特化しており、あらゆるMeshモデルに対応できていません。今後は編み図生成に対応できる形状のバリエーションを徐々に増やし(場合によってはGrasshopperから別のツールに移行することも視野に入れつつ)、課題を一つ一つクリアしていくプロセスがWebアプリケーション実装への道のりといえます。

編み物のリサーチから見えてくる今後の展開

外力や環境変化といった物体の外側からの刺激に反応して変形する、いわゆる4Dプリントと言われる完成後の可変性を取り込んだプリント技術の話題をはじめ、デジタル技術の導入を背景として工程自体が全体の形態に大きな影響を与えるものづくりにシフトしつつあります。このパラダイムシフトは「形態」と「工程」によって成立していたこれまでのファブリケーションの主従関係の崩壊と均衡した関係への変化を意味するでしょう。

これまで寸法精度を担保できるデジファブ・ツールを使用することは、コンピュータ上で生成した複雑かつ微妙な変化率を持つ形態を忠実に再現するために必要不可欠でした。しかし、厳密にコントロールしきれない可塑的な素材を扱うときに必要とされる、精度の「あいまいさ」や、挙動の「不確定さ」をある程度許容することで、これまでのアプローチでは到達しきれなかった、もしくは取りこぼしていたものづくりの価値を改めて提示できると考えます。

あいまいさや不確定さを許容する姿勢は、ものづくりで重視されてきた工学的な確実性と反対のアプローチです。しかし、デジタルデザインとファブリケーション技術の進歩によって、デザインでフォーカスされる形態は柔らかさと可塑性を想起させるものが増えてきており、形態と工程の明確な主従関係が無くなりつつあります。このことを背景に、柔らかな素材の挙動を実験的に取り入れることは、今後のファブリケーション研究において重要な示唆を与えると思います。

これからもnoizは編み物をはじめとして、系やスケールをまたいで一定の統計的な質をつなぐようなアプローチで、十分に価値を計算できる新しい技術体系ならではのデザインの可能性や生産のノウハウを更に探っていきたいと考えています。

編み物に関する参考文献

Knitting a 3D Model
Knitty: 3D Modeling of Knitted Animals with a Production Assistant Interface
Automatic Machine Knitting of 3D Meshes

本間氏は2008年にソニー社員としてシリコンバレーに赴任。2012年に楽天に転職をし、2016年にスタートアップ企業HOMMA, Inc.(以下HOMMA)を立ち上げた。2018年現在、日本のVCや企業、個人投資家から約12億円の資金調達を受けている。

さまざまな分野でイノベーションが生まれたシリコンバレーの中にあって、100年前から変わらないもの、それが住宅だという。一番生活に密着している住宅がなぜ変わらないのか?その疑問が事業を立ち上げたきっかけだ。

-なぜアメリカの住宅でイノベーションが生まれないのか?-

この答えから日本とは異なるアメリカの住宅事情が伺えた。まず、アメリカの戸建て販売で新築住宅は全体の11%のみ。うち90%が建売住宅だという。抱える課題は多く、同じホームビルダーであっても、家を作るコントラクターが違うため、計画地ごとに品質のばらつきがあったり、設計・デザインを外部委託するためデザインは売れ筋なものに偏りがち。さらにキッチンや水回り工事も、現場での施工が一般的なため工事期間も長期化する。また建築家がゼロから設計する注文住宅は、複雑で厳しい市の新築建設許可を取る必要があるため、カリフォルニアでは完成までに2~3年かかるのが常識で、経済的余裕のある層でないと実現が難しい。次々と出てくるIoT機器などは、メーカーとの長い付き合いを前提としたホームビルダーにとっては、さらなるメンテナンスを要するため導入には及び腰といった傾向があるという。

UXから家を建てる

例えば、Teslaは『作っている車」と『ユーザーに対する車の提供方法」を変えることでイノベーションを起こした。同様に『建てる家」と『ユーザーに提供する体験」を変えることでイノベーションを生み出せるのではないか? このような考えから、HOMMAはアメリカの市場において、イノベーティブなホームビルダーとして建売住宅事業の展開をはじめたという。

HOMMAの住宅開発の特徴は、まず理想とするライフスタイルを決めることだ。その後、土地の面積・形・予算を加味した上で、理想のライフスタイルに必要な間取りとデザイン、テクノロジーを組み合わせていく。いわば、デザイン思考のプロセスで、プロダクトとして住宅をつくるわけだ。

HOMMAの事業の特徴は、ユーザーエクスペリエンスを中心に住宅を考えていることだ。

HOMMAの事業の特徴は、ユーザーエクスペリエンスを中心に住宅を考えていることだ。

ラボからプロトタイプ、コミュニティへ

―――――今後、事業をどのように展開していく計画なのか?

「シリコンバレーはテック企業が多く、ターゲットとしているミレニアム世代の流入も多く、住宅需要が最も高い。シリコンバレーを皮切りに西海岸を中心に、2020年までにプロトタイプ住宅を建てる。その経験を元に、さらにコミュニティ住宅へと展開していく。

低所得者向けの住宅を含めて、アメリカでは700万軒が足りないといわれている。売り手市場のアメリカだからこそのチャレンジでもあり、正しい場所に正しい価格で正しい価値を提供することが重要」だと本間氏は言う。

今回、訪問した「HOMMA ZERO」はオフィス兼ラボとして、中古住宅をリノベーションし、さまざまなテクノロジーやデザインを試している。

オフィスのそこここにスマートスピーカーが配置されている。

オフィスのそこここにスマートスピーカーが配置されている。

そして、次の展開である「HOMMA ONE」はすでに始動している。カリフォルニア州Beniciaの土地を購入済みで夏までにプロトタイプ住宅「HOMMA ONE」のショールームを稼働させる予定だ。

併せて「HOMMA ONE」でのさまざまなリサーチを通じ、照明などの住宅設備や家電を管理できるアプリの開発や、住宅購入後に誰しもがやらなければならない、保険加入やメンテナンスなどのサブスクリプションサービスも今後展開していく予定だ。

なお、工数効率を考えた日本のシステムキッチンやシステムバス、スペース効率を考えた引き戸、日本の住宅に見られるデザインの新しさなど、これらはアメリカの住宅事情にも導入していきたいと考えている。

すでに、複数の日本の住宅設備や建材メーカーとパートナーシップを締結している。今後もアメリカの市場へ進出したいと考える、より多くの日本メーカーに参画を呼び掛けていく。

HOMMAのUXコンセプトは「Connected Home」。個々人のライフスタイルを大切にしながら、人と人とがつながれるように構築されている。

HOMMAのUXコンセプトは「Connected Home」。個々人のライフスタイルを大切にしながら、人と人とがつながれるように構築されている。

デザイン性と技術力をバランスよく融合し、日本のメーカーとのパートナーシップを拡大しながらアメリカの住宅事情に切り込むHOMMA。Kviz.jpでは今後も彼らの挑戦を追っていきたい。

アメリカの住宅事情にデザインとテクノロジーを使い風穴をあける……。
そんな挑戦をしているシリコンバレー発の日本スタートアップ企業「HOMMA」がある。
本コラムでは、HOMMAの事業内容の紹介をするとともに、HOMMAデザイナーである井上亮氏へのインタビューをお届けする。

第1回 シリコンバレー発、日本スタートアップ企業HOMMAの挑戦
第2回 井上亮氏に聞く、シリコンバレーで建築家として働くということ(前編)
第3回 井上亮氏に聞く、シリコンバレーで建築家として働くということ(後編)

ビジュアルアーキテクトとビジュアルオペレーターの制作への取り組み方の違いは、以下のようになる。

1.見据えるターゲットが違う
2.求められるものが違う
3.視覚化する対象が違う

「そもそも建築ビジュアライゼーションというのは、コンテンツビジネスというジャンルに含まれています。これらのコンテンツビジネスは、目的があって成立する『目的芸術』に含まれます。しかも、ただ目的を満たしていれば良いわけではなく、そこには必ず芸術的な美しさが含まれているという意味で目的芸術と呼ばれています。建築ビジュアライゼーションもここに含まれています。また、建築ビジュアライゼーションは、クライアントを見据えてコミュニケーションを触発するビジュアル制作です。クライアントのビジョンや実現したいメッセージを伝えたいとき、そしてクライアントを一気に味方へと引き込みたいときに、もの凄い効果を発揮するのが建築ビジュアライゼーションなのです」


建築ビジュアライゼーションを実現するコツとして「問診」が挙げられた。医師が患者を診察するときのように、「クライアントが何を実現したいのか?」「設計者がそれを受けてどんな回答を出したのか?」などがわかるまでひたすら質問して、言われたことだけを描かないことが大事だという。

ここで、ある事例が紹介された。

パース

「これだけでもパースとしては成立しているので、このまま絵作りをしていけばそれで良いわけです。しかし、これではまだメッセージとしては弱いですね。そこで、どうすれば設計者とクライアントとのコミュニケーションを促していけるビジュアルに変えていけるのかということを考え、次のようなメッセージを入れてみました」

クライアントとのコミュニケーションを促すための要素を加える

クライアントとのコミュニケーションを促すための要素を加える

「簡単なことですが、バードウォッチングしている人たちを加えたのです。こうすることにより、絵にストーリーが生まれるわけです。森と近いからこそできる体験であり、『右側のスペースでバードウォッチング講座を開けますよ』というソフトの提案まで可能となります。実際、この1枚でコミュニケーションがかなり広がったと聞いています」

魔法が求められるビジュアルアーキテクト

ビジュアルアーキテクトとビジュアルオペレーターとでは求められているものも違う。ビジュアルオペレーター、つまり建築パースを制作する人へ一番求められるのが「対応力の良さ」「制作スピード」「従順さ・忍耐力」だ。その結果、修正の嵐が発生することになる。

「下手したら、1案件で何十枚、何百枚も修正させられることもあります。そうなったときには皆、ダークサイドへと落ちていきます(苦笑)」

反面、ビジュアルアーキテクトには、まるで魔法をかけて出来上がったようなハイクオリティのビジュアルが求められる。ただし、一度その魔法が成功すればビジュアルアーキテクトの価値はうなぎ登りに高まるので依頼が殺到するという。しかしそこには高打率を続けていく使命が負わされている。

初稿:レンダ素出し+トーンカーブの調整

「そのコツは3つあります。その一つ目は、『初稿(=第一印象)が大事』だということ。魔法をかける準備として、設計者を安心させることが必要となります。そのためには、最初に世界観の方向性や雰囲気がわかるところまで作り込んでしまいましょう。結局は見た目で判断されるのがビジュアル制作の世界です。一発目でいい感じのビジュアルを見せ、クライアントを魅了させてしまうことが肝心です」

2つの!

コツの二つ目としては、「2つの!が大事」だと山口氏は話す。2つの!とは、「Surprise!」と「Make sense!」であり、驚かせて腑に落とさせることが大事だということだ。「この2つの!を意識していると、確実に一発目で魔法にかけられます。ただし、ファンタジーだと言われないよう、腑に落ちるような理由を考えておくことが大切です」

コツ:マットペイント

コツの三つ目は、「マットペイント」だという。「映画の背景を制作するように、鑑賞者をその世界に引き込んでいきます。この世に存在するあらゆる素材を駆使して、独自の世界を作り込んでいくわけです」

参考のテイストを真似るのはNG

ビジュアルアーキテクトとビジュアルオペレーターの話に戻る。両者の「視覚化する対象が違う」という違いについて、ビジュアルアーキテクトはクライアントへのメッセージを視覚化するのに対し、ビジュアルオペレーターは図面(2次元)の3次元化にあるという。

「そのために、建築は地球の上に成り立つという地球・宇宙の法則に従うことが大事です。独りよがりの表現をしてファンタジーにならないよう意識しましょう」

そのほかのコツとして、「参考通りはNG」が挙げられた。参考のテイストを真似るのはできるだけ避けるべきだと山口氏は話す。その理由はシンプルで、メッセージのオリジナリティを追求しないと、そのメッセージ性は確実に弱くなるからだ。

「参考にどんなメッセージがあるかを話し合うことが必要です。その際、参考と案件の内容がズレている場合が多々あります。問診をすることで間違った方向(=誤診)につながることはしっかり取り除いていきましょう。実際、私が良く体験したことですが、『参考』通りのビジュアルを提出すると、伝えたい意図と違ったということがよくありました」

Visual Architect と Visual Operatorの違い

最後に山口氏はまとめとして次のように語り、本MeetUpが終了した。

「ビジュアルアーキテクトが増えることで良い建築が増えます。つまり、世の中に良いビジュアルが増えれば増えるだけ、良い建築が増え、社会が豊かになることに繋がっていきます。それは社会が豊かになることであり、私たち一人ひとりの幸せに繋がっていくといっても過言ではないでしょう!」

活発な意見交換がなされた懇親会も開催

意見交換の様子

3ds Max&V-ray Next製品紹介の第一部に続いて開催された、株式会社スタジオ・デジタルプラスの大橋ユキコ氏と、株式会社竹中工務店の山口大地氏による第二部のMeetUp。これらの第一部、第二部に続いて、登壇者2名とイベント参加者、そして株式会社Tooデジタルメディアシステム部スタッフによる懇親会が開催された。

参加者やオートデスク社から提供されたレアアイテム(ノベルティ)を勝者が獲得できる「じゃんけん大会」などもあり、和やかな雰囲気で6時間半におよぶ本イベントが閉幕した。

じゃんけん大会の様子

二番目に登壇したのは、株式会社竹中工務店の山口大地氏。『今、求められているビジュアライゼーション』と題して、建築の魅力を高め深める新しい職能について語られた。

株式会社竹中工務店の山口大地氏

現在、竹中工務店の大阪本店設計部スペースデザイン部門ビジュアライゼーショングループに籍を置く山口氏。大学院で6年間、建築意匠設計を学んでいたが、ビジュアライゼーションに興味を持ったことで、さらにアートディレクションの専門学校でデザイン思考について学び、ブランディングデザインを実践していったという。

「担当業務は、静止画、アニメーション、映像編集、VRなどのCG制作です。モデリングからレタッチまで一人で最後までこなすという、いわゆる“何でも屋”ですね。使用しているCGソフトとしては、3ds MaxV-Ray、ムービーとしてはAdobe Premiere+After Effects、VR制作にはゲームエンジンであるUnityや、3D CADをVR化できるSYMMETRY alphaを使っています。学生で学んだことは建築設計やアートディレクションですが、社会人からでは建築ビジュアライゼーションを選びました。理由は、建築ビジュアライゼーション業界はクリエイティブで可能性がある領域だと思ったからと、映画やゲームなど、さまざまな分野から建築ビジュアライゼーションへ応用していけるのではないかと考えたからです。なによりも、美しい作品が制作できるというところも気に入りましたね」

自己紹介の後、山口氏が実際に制作した建築パースの紹介がなされた。

建築ビジュアライゼーションがもたらす効果

山口氏は、建築ビジュアライゼーションという新しい職能(あるいはスタンス)により、以下のような良い効果をもたらされたという。

・プロジェクトチームのモチベーションが上がる。
・設計行為が加速する=ドライブする。
・合意形成がはかどり、コンペ勝率が格段に上がる。
・感謝され、次の仕事へのリピート率が非常に高まる。

その結果、2016年から2017年は、仕事へのリピート率が160%も向上、2017年から2018年7月現在でみてもリピート率が110%も上がっているという。また、これらの効果から、竹中工務店のブランディングを図っていこうという「ブランディングチーム」が結成され、山口氏はビジュアル制作担当として所属しているそうだ。

また、3年後の組織計画や具体的施策(マネジメント、クオリティ、新規外注等)を作成し、さらにその先の未来計画、ビジョンの提示を目的とした「VIZ(ビジュアライゼーション)グループの将来を考える会」が結成され、山口氏はそのリーダーに抜擢されている。

「このような状況の下、『これからのビジュアライゼーションがどうなっていくのか』についてお話しさせていただきます。手描きパースからCGパースへという流れがあるように、今の建築ビジュアライゼーション業界にも変化が求められています。それを理解していないとその先に進められないと考えていますので、この後はそこにフォーカスを当てて紹介していきます」

建築ビズ業界の新しさとは

新しい職能の「新しい」とはどういうことかというと、一つはスティーブ・ジョブズが起こしたような「破壊的なイノベーション」だ。すなわち、これまでとはまったく異なる技術を持ち込んでくるようなことを指している。

未知化=既存x既存の組み合わせ≒温故知新

もう一つは「これまでに目にしたことはあるけれど、別物に見える」というもの。これを「未知化」と呼んでいるが、これがもう一つの新しさ。世の中のほとんどは「未知化」による新しさが多いという。

これらの生み出し方はシンプルで、既存のものと既存のものとの組み合わせで生まれる。今回の登壇内容は後者であり、歴史の延長線上にあるということを認識しておいてもらい、温故知新のスタンスで見てもらえればと山口氏は話す。

「『新しいことなんて考える必要があるの?』という方もいらっしゃると思います。しかし、少し考えてほしいのが、いつからパースを建築ビジュアライゼーションと呼ぶようになったのかということ。あえて呼び名を分けているからには、パースとビジュアライゼーションは違うものです。(新しい呼び名が存在する以上、なぜそれが生まれたかを考えなければいけません。)そこで私なりに両者を定義してみました」

山口氏は建築パースと建築ビジュアライゼーションを以下のように定義している。

・建築パースは、2次元(図面)の3次元化し視覚化したもの
・建築ビジュアライゼーションは、クライアントへのメッセージを視覚化したもの


「ビジュアル全体を氷山に捉えてみると、氷山の一角と言われる光を浴びた部分が建築ビジュアライゼーションであり、その下の大部分が建築パースとなります。実際のところ、皆さんの仕事の割合は氷山のように、水面の上に出ている建築ビジュアライゼーションが1だとしたら、水面下の建築パースが9という割合になるかと思います。私の仕事が増えた大きな理由として、この比率が逆転したことにあります。今後、建築ビジュアライゼーションの割合が増えていけば、業界も盛り上がっていくでしょうし憧れの対象として魅力的なものになるだろうと考えています」

建築ビジュアライゼーションを創り出す新しい職能「ビジュアルアーキテクト」

建築ビジュアライゼーションを創り出す新しい職能「ビジュアルアーキテクト」

そこで山口氏は、建築ビジュアライゼーションを創り出す新しい職能を「ビジュアルアーキテクト」と呼んでいる。それに対し、従来までの建築パースを制作する職能をあえて「ビジュアルオペレーター」としている。これからは「ビジュアルオペレーター」ではなく、「ビジュアルアーキテクト」がより一層求められていくだろうと山口氏は話す。

ビジュアルアーキテクトとビジュアルオペレーターとの違い

「ビジュアルオペレーターというのは、建築業界で2つの大きな変化が起きたことにより発生した職能です。その変化の一つはコンピューテーショナルデザインと呼ばれる領域が発展したことです。設計業界には、ライノセラスをはじめとしたパラメトリックに値を変化させ複雑な形態をデザインする流れがあり、設計者自身やそのソフトの専門家がモデリングを担うようになってきました。もう一つはBIMです。これからはBIMの流れが主流になってくるのは言うまでもありませんが、実際当社設計部でもBIMによるモデリングが進んでおり、BIM化の目標値は100%です」

このような流れが加速した理由は2次元と3次元(図面と3Dモデル)を同時に作成できるソフトが発展してきたためだ。さらに、作図ソフトにレンダラーが搭載されてきたので、ある程度のパースであれば簡単にアウトプットできるようになってきたのも理由だ。つまり、CADオペレーターが図面を作成して、さらに建築パースも作成する流れが生まれてきたという。そうなると建築パースを生業としているのがパース屋だけはなくなり、かつパース屋の特権ではなくなってきたという意味で、あえて新しく「ビジュアルオペレーター」と呼ぶのである。

この程度のカットパースであれば、CADオペレーターや設計者でも簡単につくれるようになった

この程度のカットパースであれば、CADオペレーターや設計者でも簡単につくれるようになった

「次にビジュアルアーキテクトという職能です。最近では、なんらかのメッセージを持った美しいパースを目にすることが増えています。しかも、建築そのものを描いているというよりも別のなにかを描いているような気がしてなりません。今の建築家にはこのようなパースが求められており、それが私の定義する建築ビジュアライゼーションだと思っています」

アーキテクトが建築を設計するように、CG空間内に空間・建築・世界を設計し、より情緒的で、より美しい世界を表現する職能がビジュアルアーキテクトなのである。つまり、クライントが実現したい世界を、メッセージとして視覚化する職能である。この職能では、絵作りに集中でき、本来のアーティストとしての職能をまっとうできるわけだ。「大変なときもありますが、クリエイティブでとても面白く、やりがいを感じられる職能です」と山口氏はいう。