建築デザインの業界には「相手に正確にデザインを伝えたい」という共通の課題があった

――――― まずは、「SYMMETRY」開発の背景を教えてください。

DVERSEは2014年に設立し、国内では初期の頃からVRを扱ってきた会社です。当時はエンターテイメント業界よりで、テレビ局、映画会社、大手通信キャリアと一緒に、新しいVRコンテンツ制作に取り組んでいました。2015年頃、建築でVRを使いたいというある会社からの相談がきっかけに、プロトタイプを作り、展示会で話を聞くうちに、建築デザインの分野に共通する課題が見えてきたのです。

その課題とは「高さ、奥行き、広さ」などの空間イメージの共有です。建築/設計の現場においては、図面やパース、スケッチを使ってデザインを打ち合わせます。例えば部屋のサイズひとつとっても、設計者とクライアントの完成イメージに齟齬が生まれ、ときには作業の手戻りが起こっていました。VRは、目の前の仮想空間で大きいものを大きく、広いところを広く、実寸サイズを確認できることが特徴です。我々はここにVRが活かせると考え、エンターテイメントからビジネス向けのVR開発に進むことにしました。

――――― 建築デザインの分野に進んだ、決め手は何だったのですか?

そうですね。建築デザインの分野では、はっきりと皆さんが同じ課題に困っていたんです。「相手に正確にデザインを伝えて了解をもらう」というゴールが明確で、これは費用をかけてでも解決したい課題でした。もうひとつの理由は、建築の分野では3Dデータが普及しており、VR技術との相性が良い点です。すでに立体物としてデザインする下地があるので、これをわかりやすく伝えるというフェーズでVRが活きるだろうと。
また2016年当時のVR機材は第2世代が出たばかりで、まだまだ重く大きいものでした。VRがコンシューマー向けに普及するのは、端末がスマートな形状になってからだろうと思います。まずはビジネス向けの問題解決を、と考えました。

頭の中のデザインアイデアを”見せる”。建築デザイナーとクライアントの架け橋

「SYMMETRY(シンメトリー)」は、3D CADデータをもとに、実寸のVR空間で建築設計、空間デザイン、環境シミュレーションなどを簡単に確認できるソフトウェアです。利用者はヘッドマウントディスプレー(HMD)を通じてVR空間に入り、高さや奥行き、部屋の距離感、インテリアの配置など、従来、図面上ではわかりづらいイメージを感覚的に把握できます。

――――― 製品名「SYMMETRY」の由来は何ですか?

SYMMETRYは「対称」という言葉ですが、頭の中のアイデアを鏡のように相手に伝えることを意味しています。建築デザインの分野では、建築家やデザイナーが「こんな建物にしましょう」「こんな内装にしましょう」と、お客様にアイデアやイメージを伝えます。VRを介して頭の中のデザインをそのまま相手に伝える、というのが「SYMMETRY」の名前の由来です。

――――― 最初から今のような製品だったのですか?

いいえ。最初のプロトタイプは、VR上で周囲の山や橋などの立体的な模型が、ミニチュアのように見えるソフトウェアでした。「このミニチュアの中に入れたら面白いな」という話をしたら、次の日にはそれが実装されていたんです(笑)。
そのソフトウェアがすごく面白かったので、試しに建築系の展示会に出してみました。そのとき9割のお客様は「これが最近流行っているVRね」と、ただ新しいものを見る反応でしたが、たった2社のお客様から「この状態でよいから今すぐ売って欲しい」と前のめりな反応を得たのです。
道路や橋がメインの土木系の展示会でしたが、おそらく工事前に完成後のイメージを見たかったのだと思います。当時はまだ「ただ見るだけ」のシンプルなソフトウェアでしたが、同様のVRコンテンツをつくろうと外注制作しようとすると何百万円もかかってしまいます。ここでまず手応えを感じました。その後、2017年2月14日に「SYMMETRY alpha」をリリースしました。

広告も宣伝もなく、じわじわと拡がる世界ユーザー

――――― 「SYMMETRY alpha」の反響はいかがでしたか?

約1年間で世界中から多くのフィードバックをいただきました。ありがたいことに海外の方はフィードバックでよく褒めてくださいます(笑)。SYMMETRY alphaは、広告も打っていなくて、大きな宣伝もしていません。現在使用しているユーザーは、建築やデザイン分野に携わっていて、さらに個人で興味をもってVR機器を購入するような熱量が非常に高い方々です。現在は、北米、ヨーロッパ、日本を含むアジアでそれぞれ約1/3ずつ。北米で約900社、日本で約700社のユーザー様にお使いいただいています。

――――― 特にユーザー様に受け入れられているポイントは何だと思いますか?

なによりシンプルな操作性です。3Dデータを専門に扱う、建築/設計のプロ向けのCADソフトウェアは、メニューも多く複雑で、慣れていないとすぐには扱えないものです。一方、SYMMETRYは建築/設計のプロがお客様と話すときに、お客様が触るソフトウェアです。そのため、初めてソフトウェアに触るお客様がすぐに操作できることが重要です。体を動かすVRの利点を活かし、直感的に操作できる、言語にたよらないUIを徹底しています。実際、現在の製品は英語版のみですが、言語を理由に使いづらいという意見をいただいたことはないです。

いよいよ待望の製品版「SYMMETRY」がリリース! alpha版との違いは?

――――― 製品版「SYMMETRY」に、新たに加わる機能のポイントを教えてください!

alpha版を使ってもらい、「VRを実際の業務で使えますか?」「業務で使うならどんな機能が欲しいですか?」を世界中のユーザー様からフィードバックいただいて、より業務フローに寄りそったのが製品版です。

今回、大きなポイントとして新たに「確認」「修正」「承認」という3つの機能を追加する予定です。alpha版ではCADデータを”見る”だけでしたが、多くの方から”見たら修正したい”という要望をいただき、VR空間内で直接修正できる機能や、また業務完結スピードを向上するべく、お客様からサインや判子をもらう承認機能を追加予定しています。確認機能では、「床を確認してください」「壁色を確認してください」といった建築デザイナーからのチェックリストをもとに、お客様は了承、あるいは音声で修正指示を残すことができます。そして承認内容ややりとりの履歴を残せるようになります。

また複数人で同じVR空間に入る機能はalpha版にもありましたが、製品版ではチームでリアルタイムにデータ共有できるようになり、同じVR空間でチームメンバーと話し合った内容を履歴として残せるようになる予定です。

――――― 「SYMMETRY」は、とくに建築/設計のどの工程にオススメでしょうか?

建築/設計の作業工程の前段にあたる「企画」「基本設計」あたり、詳細な設計前のいわゆる意匠設計とか、デザインと呼ばれるようなフェーズにはまるツールです。これはボリューム検討や天空率、日光でどのくらい影が指すといった、空間スケールが大きく影響する工程です。
この企画部分のコミュニケーションでは、いままで2Dベースや3Dモデルを画面上で見ることしかできませんでした。小さくとも立体感がある方がわかりやすいと模型を使うこともあり、我々のVRソフトウェアはその延長線にあります。SYMMETRYは、自社で独自システムを開発するのが難しい、中小規模の会社様にこそ使っていただきたい製品です。

VRはわかりやすく伝えるツール。沼倉氏が見据えるその先の未来

――――― 「SYMMETRY」の今後の展開は、どう考えているのですか?

一口に建築デザインと言っても、お店、オフィス、住宅、展示会場、イベントプロモーション……など、非常に幅広い分野があり、それぞれ内装対応や機能が変わってきます。例えば、住宅設計ならいろいろな建築材を使用して見積もりを算出したい、お店であれば店舗用の什器を配置したいといった要望を受けます。また、住宅設計なら電灯の点灯、大きな建物なら耐震強度の測定、ビル設計では避難経路を、お店では来店されたお客様がどこを見て歩くのかという目線をシミュレーションしたい、といったように機能の要望もさまざまです。
フォードバックをもとに、今後もアップデートしていきますが、特殊な要望であればカスタマイズでの機能実装も視野に入れています。

――――― 「SYMMETRY」によって、どんな世界を実現したいですか?

そうですね。いまのVRは、ただ立体的に物が見られるツールという側面が強いですが、将来的には仮想空間でのシミュレーションツールになると考えています。
例えばWebのバナー広告は数々のパターンをつくって、どれが一番クリックされるか効果を計測します。これと同様に、実店舗の販売実績データと、仮想空間の店舗デザインやレイアウト、商品ディスプレイなどの情報を組み合わせて、VR空間で販売実績などをシミュレーションできるようになります。我々はVRの会社ですが、コアスキルは数値のデータをわかりやすく処理するところにあります。VRはそれをわかりやすく見せるためのツール。ここを整えるのが、我々の仕事かと思っています。

――――― 最後にひとことお願いいたします。

VRはまだ登場して2年ほど。我々も実際の現場にとって本当に使いやすい機能を、これから一緒につくっていくことになると思います。ハードルも感じるかもしれませんが、新しい技術を便利に使うことで、よりクリエイティブで本質的な仕事に集中できるようになると思います。ぜひお試しいただきたいと思います。


DVERSE Inc.
2014年10月にVR専門企業として設立。テレビ局、映画会社、大手通信キャリアといった様々な企業とのコラボレーションを経て、現在、建築・土木・デザイン業界向けVRソフトウェア「SYMMETRY」の開発および販売を行う。2017年2月にSTEAMプラットフォームで無償提供が開始された「SYMMETRY alpha」は、世界で最も簡単で高速かつ高品質なVRソフトウェアのひとつ。3D CADデータを無加工でVR世界に高速にインポートすることができ、直感的でリアリティのあるデザインレビューが可能である。

主な受賞歴:2017年の新日本有限責任監査法人とEY新日本クリエーション株式会社が主催する「EY Innovative Startup 2017」のIoT部門賞や、2015年の「VRクリエイティブ・アワード」での「パノラマ部門賞」(NHKエンタープライズ共同プロジェクト)等
出展実績:2017年の「AIA Conference on Architecture 2017, Orlando」や2016年の「3D Basecamp in Steamboat Springs」等

次は「ビジュアルは言葉に勝つ」。この事例では、
・言葉は決まっている
・窓枠からの東京
・アンバーな感じ
・10点作ってほしい
という4つの条件が提示されていた。

このクライアントは、高畑氏との関係性について「(高畑氏がクライアントの)頭の中にあるものを抜き出して形にする。それをまた頭の中に入れてもらってまた考える」と定義。それを〝ビジュアルクリエイター〟と呼んだ。

ビジュアルクリエイターという言葉は、高畑氏に〝刺さった〟。「私はそれになりたかったんだ」と、その言葉に刺激をもらった。また、いつも仕事を通して沢山のアドバイスをもらえる尊敬する人(クライアント)の想いに乗り、作品を作り上げた。

〝窓枠からの東京〟というのは、東京の新しいマンションのブランドイメージ。まだマンション自体は建ってないのでイメージの画が欲しいというわけだ。

東京という選択、ステージは東京、東京レストランなど10のフレーズが並ぶ

10点まとめて納品というのは怖かったため、まず一点の制作を開始。「東京というと東京タワーが好きで、どれかに入れたいなと思っていた」ので、東京タワーを見たいからこのマンションにした、という画像にした。これについては、複数の写真を合成しレタッチで仕上げている。

東京という選択

東京という選択

多数の写真からこれというものを選ぶのにも、時間がかかった。

クライアントに見せたところ一発OKだったので、残りについても進めていった。ただ、10点すんなり完成とはいかなかった。それは〝東京ラグジュアリー〟だ。

〝東京ラグジュアリー〟のイメージはできた。窓枠はお金持ちのマンション、もしくはホテルの室内から見える夜景で、窓枠の外の画を「ダイヤモンドのような夜景」でまとめたい。しかし、マッチングしない。

この1カットは、顧客に相談したところ、「ちょっとわかんないよ」という指示書が届いた。リクエスト内容は「恵比寿のガーデンプレイスのアーチのようなところから見える異空間」だった。そこで、3ds Maxの登場となる。

 

左 指示書、右 最終画像

3ds Maxなら、異空間も作り上げられる。作成したものと写真のパースを合わせて完成させた。クライアントは「これどこ?」と思わせるという目的に合っていると言ってくれたそうだ。

結果、10点中半分以上は3ds Maxでモデリングして完成させることができた。
ひとつひとつは楽だが、10点に統一感を持たせる、そのバランスが楽しくもあり、難しくもあったそうだ。2017年の仕事の中で、一番楽しかったとのこと。

クライアントとの会話では「〝ステージは東京〟は」といった言葉でのやり取りではなく、「東京タワーの画」や「あの六本木ヒルズの画」といったビジュアルで話をした。高畑氏は「やはりビジュアルの強さは記憶に残る」と感じた。

実際、一番初めに〝いい画〟を出しておけば、好印象を持たれスムーズにお仕事が進められる。高畑氏は、これを心がけているそうだ。

続いては、魅力と強さ。

高畑氏はある映画(2001年宇宙の旅)に触発されて、仕事ではなく作品としてモデリングを行なった。一応の完成を見たが、作ってみたら「それでどうしたいの」といった感じで止まったという。なので、「ただの作品」として暫く放置してみた。

映画と同じシーンの内観CG

映画と同じシーンの内観CG

放置していたところアイデアが浮かび、空間を変えてみた。鏡を使って、女性がデートの前に慌てて化粧をしている、そういったシーンを描いた。ここまで描いても自分の中では「もうちょっと何かないかな」とずっと考えていた。これもいったん放置。

女性や化粧品などを合成

女性や化粧品などを合成

再び浮かんだのは、香水。香水のビンの屈折や中の液体の表現に利用したのは、Photoshopだ。CG画像の前にビンを配置して写真を撮り、CG画像を映し込んだ。フタも同様に撮影して合成。作品の完成となった。

蓋をアングルに合わせて撮影

蓋をアングルに合わせて撮影

完成CG作成「夢中空間」

完成CG作成「夢中空間」

タイトルは夢中空間。気に入ってくれた方もいるのですが、気になった方が多くいたので、そこが「うれしい」「楽しい」作品となった。

 

続く作品は、高畑氏がイラストのパースを描きたいという想いから生まれたもの。

ただ、Illustratorのようなソフトは得意ではなく、3D CGで何かできないかなと考えた。そんなときに株式会社Tooの別のイベントで相談したところ3ds Maxのプラグイン『PSOFT Pencil+ 4』を教えてもらったそうだ。

Pencil+との出会いでできた画

Pencil+との出会いでできた画

これについては、自分でやりたいと思った画が描けたという。全部がPencil+ではなく、Photoshopでの編集も行なっている。作品は「自分の心が喜ぶものが一番いい。自分がいいと思ってないのにここでおしまいと決めるのはもったいない」と語り、仕事以外に作品を作ってみてほしいとした。

これは、作品を作ることによって顧客の気持ちも分かるようになるため。アングルを変更したくなる気持ちも分かるし、家具を変えたくなるのも「確かにそうだ」と思えるそうだ。

高畑氏は「魅力的な思いを強い味方にする」とまとめた。「いいなあ」と思ったことを作品に取り入れると自信につながり、強い味方にもなるということだ。

 

高畑氏は最後に、プレゼンについて語った。

プレゼンテーションはプレゼントの名詞形だ。そして、CGパースも同じくプレゼント。家を建てるには図面だけで十分なのに、パースを作ることによって「こんな家が建つのか」と喜んでもらえるからだ。

プレゼントは貰ってうれしいし、選ぶことも楽しい。高畑氏は同じように思ってくれる人が、同じ気持ちで作ってくれればと結んだ。

二番手は、高畑真澄氏。『うれしたのしCGパースの作り方』と題して、案件事例をもとにビジュアルをクリエイティブする楽しさ、「絵は言葉に勝つ!」というCGパースの魅力と強さを語った。

高畑真澄氏

高畑 真澄 氏

高畑真澄氏はフリーになって6年。スタートはCGパースだけだったが、顧客の「デザインはできませんか」「イラストは描けますか」「3Dプリンター使えますか」といった要望を受けることもあり「常に前向きにやりたい」と思っているという。

初めてのことになるべく挑戦するようにしており、そのひとつとして2017年春からオートデスクのAREA JAPANでチュートリアルビデオ『やさしい3ds Max -はじめての建築CG-』も担当している。

今日のために作成したムービーが再生された。

高畑氏は「うれしい」と「たのしい」というキーワードを提示。これは、高畑氏が仕事において大事にしているものだ。

高畑氏はまず「いいパースとは何か」という問いかけをした。これについて、会社員だった頃と独立してフリーになった今では、考え方が変わっているという。

会社員だった頃はフォトリアルなパース、小物が多いもの、ドラマチックだったり質感がうまく表現できていたり、そういったパースがいいパース、上手いパースと思っていた。しかし、独立してからは「お客さんが喜んでくれる」パースが一番いいパースだと考えるようになったそうだ。

たとえば、顧客が線画を求めていたら線画を描く、模型っぽいCGがいいならそういうものを作る、それがいいパースだということだ。

ここから、CGパースの作り方、ビジュアルは言葉に勝つ、CGパースの魅力と強さ、という3つのテーマで話を展開した。

一番目のCGパースの作り方。

高畑氏は、会社員だった頃は普通にCGパースが作れていた。独立してからも作れると思っていたが、そうではなかった。それは、環境が整っていなかったため。作り方の前段階の作る環境を整備することの重要性を感じたという。

ここで、一つ目の仕事の事例が紹介された。マンションのゴミ置き場。高畑氏はまずマンションのゴミ置き場を検索してみたが、そんなところ撮っている人はいないため写真が全然ヒットせず苦労したという。

高畑氏が出したのはオーガニック案とパステル案と、グラフィカル案の3案だ。なお、パース自体については、四角い部屋にダウンライトの光をPhotoshopで付けたり、フライパンもSketchUpから拾ってきたデータだったり、初心者でも作れてしまうものだとした。

デザインされたごみ置き場パース

採用されたごみ置き場パース

高畑氏のパースは気に入ってもらえて、実際のゴミ置き場となった。設計者によって中に誰がいるか分かるモニターが付いたり、中にいい香りのするスプレーが備えつけられたりしている。

実際のゴミ置場の写真

実際のゴミ置場の写真

クライアントから完成した写真をもらえた事で、作成したパース以上に素敵なゴミ置き場になっていてうれしい気持ちになった。そして、この案件を通してゴミ置き場のことを考えるのが楽しくなったそうだ。

「レンダリングはどうやるんですか、モデリングはどうですかという質問よりこういうのを作りたいけど、どうしたらいいですかと相談する方がドンピシャな答えが返ってくる」と、この項を締めくくった。

建築CGアニメーションの魅力

トップバッターは、株式会社ストレート(以下ストレート)の天野愛子氏。『建築CGアニメーションの魅力』と題して、実案件をもとに建築CGアニメーションについて語った。

天野愛子氏

天野愛子氏

天野氏が最初に示した数字は2.5年。これは、天野氏がCGを初めてからの期間だという。

学生時は設計・デザインを学んだが、卒業後は他業種での就業や海外で過ごしていたそうだ。イメージを人に伝える事の難しさを感じていた天野氏は、イメージをビジュアル化・共有できるCGのすばらしさに惹かれたという。3ds MaxとAuto CADによるパース制作の基本工程を学んで株式会社ストレートに入社。パース・アニメーション制作に携わっていく。

実案件の話に入る前に、現状、天野氏がCGでどのようなことができるようになったのか、今回のMeetUp用に3ds Maxで制作したアニメーションを紹介。

会場となった株式会社Tooの3階フロアのウォークスルーアニメーションを制作。

実案件ではあまり実現できない表現を取り入れたそうだ。

現在進行形でさまざまな表現方法を身につけてきた天野氏だが、入社当時は右も左もわからず苦労したようだ。

制作業務での制作ルールを覚えると共に、モデリング、レタッチ、ディレクション業務を経験。

4ヶ月に入る頃に、入社当初からやってみたかったアニメーションに携わっていく。ストレートでアニメーションに使用するのは、3ds MaxとLUMION。期間、要望などの案件状況に合わせ対応している。

3ds Maxはさまざまなことができて表現の幅は広いが、知識とテクニックを要する。このため、天野氏は比較的操作が簡単で短納期にも対応できるLUMIONで制作を開始した。

初めての打ち合わせでは、ひとつの工程にどれくらい時間がかかるか想像できず、レンダリングの連番書き出しといった用語も分からず、上司とクライアントの話を理解することから始まったという。

最初に携わったアニメでは3ds Maxでモデリングを行い、LUMIONで配置、エフェクトの仕上げなど一通り指導を受けながら制作を行った。

初めてクライアントと直接連絡をとりあって制作を行ったアニメーション。クライアントとのやり取り、提案力の必要性など、この案件を通して学んだことが数多くあったという。また、自分が携わった仕事の実物を初めて見ることができ、思い出深い案件となった。

何案件かの制作を通して、製作の全体像が分かってきた天野氏。
次のアニメは別のチームとの共同での案件。今までと違う見方や考え方を取り入れる事となり、普段教わってきたことをさらに深く考える、自身のターニングポイントになった。建物をいかにかっこよく魅せるためのアプローチなどを学べたそうだ。

カメラを動かさず、植栽などで建物の輪郭を表現する手法が使われている。

また、静止画アニメーション用のイメージパースの制作も行い、インパクトのある絵の強さや映像構成の大切さを学んだ。

天野氏がさまざまな案件を通して、何を大切にするようになったか。まず、制作時間に関しては、自分を常に疑うようになったという。余裕があると思わず、きちんとひとつひとつ片づけていくのだ。

また、細かい部分に時間をかけてしまいそうになるので、全体の工程を見るように努めている。この辺りが、学生と納期のあるプロで大きく違う部分だという。

天野氏は、日常の風景や、趣味・物事に興味を持つなど、色々なことが業務に生きてくること、反省点をうまく消化し気持ちを切り替えて次に進むという点も挙げた。

続いて再生されたアニメーションは、それまでの案件を通して学んだ、見せ方のアプローチや表現に趣向を凝らした案件で、「クライアントにも喜ばれ、自信になった作品」だと解説した。

エンディングの重要性を教わり、真っ赤な夕焼け空を作成。派手すぎかと懸念もあったが、BGMの壮大さもマッチしていたため、インパクトを与えられたようで喜んでいただけた。約2週間ちょっとで仕上げることができ、作業速度の向上も感じられたという。

続いて再生されたのは、ずっとやりたかった3ds Maxでのアニメーション案件。群馬県のコンベンションセンター誘致のための動画だ。レンダラーのV-Rayはパース制作で使用していたが、アニメーションとなることで、さまざまな箇所でのチラつきやシミに悩まされたという。決められた制作期間の中で何を優先させるか等の判断力の大切さを改めて感じた。

クライアントの要望を取り入れ、また自から提案し、一丸となってひとつのものをつくり上げる、ものづくりの楽しさを実感できた案件となった。

また、3ds Max 2018のArnoldではチラつきなどの原因特定がわかりやすいようなので、今後は案件の状況にあったレンダラーを活用することも考えているそうだ。

天野氏は建築パースを「いかようにも表現でき、ドラマチック」、アニメーションを「カメラワークや構成によって建物のさまざまな顔を引き出せる」魅力的なものだと語った。

そして「従来の表現と違った見せ方も提案していけるよう、これからもいろいろなものに目を向けもっと勉強していたい」と表明。「動きでも表現でも、みなさんに感動を与えられる作品が作れるように邁進したい」と締めくくった。

最後に、株式会社ストレートのサンプルアニメーションも紹介された。

マンションのデベロッパーや設計事務所向けに CG パースや映像の制作を行う会社として 2003 年に設立された積木製作は、設計データをもとに CG ソフトの 3ds Max でモデリングを行い、レンダリングにより高品質な画像を提供する事業を手がけてきた。その傍らで、より自由度の高いビジュアライゼーションを求めて、2012年からゲーム エンジンを使ったリアルタイム レンダリングも研究してきたという。

同社セールスディビジョン シニアディレクターの関根健太氏は、「2013 年の Oculus Rift DK1 (開発キット) により、ディスプレイを変えるだけで VR の世界に入れるようになりました」と語る。「それまではプロジェクターや大画面のマルチモニターを使うしかなかったのですが、PC だけで直接的に空間に入れるようになったのは、我々にとって追い風になりました」。



テクノロジーの進歩と新たな機器の登場で VR 体験は身近になったが、その一方でコンテンツ制作には時間とコストがかかり、事業として軌道に乗せるには苦労もあったという。「不動産の広告のためのものであれば、ある程度はビジネスになるだろうと考えていたのですが、実は不動産や建築・建設の業界では、新しいものに対する理解が得られにくいということも、身を持って体験しました」と、関根氏。

VR に関する様々な話題がメディアで取り上げられ、「VR 元年」と呼ばれたのは 2016 年。積木製作では 2013 年に VR 事業を開始しているが、当初はクライアントへの提案内容が VR を使った日本初の試みであっても、「他に事例が無い」という理由で、なかなか採用に結びつかなかったという。だが、その理解を深めるべく、さまざまなプロジェクトに取り組んできた。

「VR のメリットは、それを見れば誰でも理解ができるということにあります」と、関根氏。「例えば再開発事業の場合、もともとの地権者、開発者、ジョイントベンチャーの開発事業者など何百人、何千人が関わってきますし、場合によっては役所も関係します。周辺の方々を含めて多くの方にプロジェクトを紹介するには、VR は非常に都合がいい。その相互理解のための活用も、数多くやってきました」。

現在、積木製作は VROX (ブロックス) という独自の VR サービスを提供している。同社ならではの高品質な CG による表現力と、ゲーム用レンダリングエンジンをベースとするリアルタイムレンダリング処理の相乗効果によって、3D 空間内での仮想体験を実現。ゲーム・エンターテインメントや建築・不動産、さまざまな現場支援など幅広いサービスがラインナップされている。

その中でも、このところメディアなどで注目を集めているのが、建設現場での墜落や落下、火傷などの事故の状況や、実際に体験することが困難なシチュエーションを VR で再現した「安全体感 VR トレーニング」で、月に 100 件以上の問い合わせがあるという。関根氏は、「今後、間違いなく施工者の手は足りなくなり、外国人の労働者を入れることも増えるので、教育が重要になることは明白でした」と言う。

建設現場の事故を避けるには安全に対する意識を高めることが重要だが、従来のビデオを使ったトレーニングでは、危機感を感じづらかった。「VR を使った安全教育は、言葉でなく自分の感覚値で危険さを理解できるようになっていて、それが大きなメリットだと思います」と、関根氏。「外国人の方にも体験していただきましたが、腰が引けるような恐怖感を感じるのは世界共通。それによって現場の気を引き締めることができ、事故を無くすことにつながると思います」。

また、現場監督の育成用プログラムも注目されている。大林組と共同で開発された、VR 内で施工ミスを探すトレーニングは、従来の研修施設を使ったトレーニングと比較すると専用の施設を維持管理する手間などの負荷が大幅に減る上、データを入れ替えることで内容を更新して実施することもできる。

一級建築士事務所である積木製作は、建築設計にも精通している。VR 以前から設計支援としてデザインの提案も行い、プレゼンテーション支援や空間デザインの企画、設計管理なども行ってきた。年間 300 ものプロジェクトに携わる機会があり、その経験からいろいろなデザインサンプルを提示しやすいので、変更点なども提示しながらパースを描いていたという。

現在は CG ツールとして 3ds Max や Maya、建築設計データ用の AutoCAD や Revit、さらにはリアリティ キャプチャを行う ReCap なども使用。リノベーションを手がける際には、レタッチした CG を提示したり、現場では AR で新たなファサードを重ねて見せたりすることも可能だ。

「ツールが発展することで、例えば設計者が Revit ユーザーであれば、Revit Live により、自分の作ったデータをすぐに VR で見られるようになりました」と、関根氏。「我々が介在する必要もなく、設計者自身も関係者も、空間をより早く理解できるようになります。そもそも建築は、長い間、設計者が三次元の空間をわざわざ二次元の図面として書いて、それを現場で三次元に変換していました。BIM の浸透により、その手間が無くなっていくことは重要だし、今後 10 年くらいで設計のやり方そのものが大きく変わっていくと思います」。

では、ツールの向上により CG パースや VR の制作が容易になると、その分野に特化したビジネスの未来はどうなるのだろうか? 「専門家は、よりプロフェッショナルでなければいけないし、中途半端な人たちは淘汰されると思います」と、関根氏。「プロとそうでない人の線引きは、よりレベルの高いところになると思います。そこは我々としてもむしろ歓迎すべきで、個人で意欲の高い人がいれば一緒に仕事をしたいし、そういう人が仕事をしたい会社と思われるよう、さらに意識を上げていきたいと思います」。

株式会社積木製作 セールスディビジョン シニアディレクターの関根健太氏 株式会社積木製作 セールスディビジョン シニアディレクターの関根健太氏

積木製作という社名の由来は、積み上げていくことで無限の空間を生み出せる積木のように、さまざまな価値を生み出すサービスを提供することにあるという。そして、これまで CG パースを中心として多数の案件を手がけ、問題解決や数々の要望への対応を通じて経験を積木のように重ねてきたこと、特に建築に関する知識と経験、コネクションなどが、差別化の要素になっている。

「VR は大きな注目を集めていますが、まだ VR を使ってみたいという段階の方が多いのが現状です」と、関根氏。「我々は、VR を使って“何をやるか”というところも含めて提案しています」。

本記事は「創造の未来」をテーマとするオートデスクのサイト「Redshift 日本版」の記事を、許可を得て転載したものです。

In partnership with Redshift

私たちが実務の場で多用しているライノセラスとヴィジュアルプログラミングツールのグラスホッパーを中心とした、<シミュレーション、ファブリケーション、ビュジュアライゼーション、タイリング > など、建築設計におけるコンピューテーショナル・デザインの技法をプロジェクト実例を交えつつ紹介する、ノイズメンバーによる全6回のコラム。(内容は変更の可能性があります)

第1回:インスタレーションにおけるGrasshopperの活用法
第2回:リアルタイム・ビジュアライゼーション 一回の体験は一千の絵に匹敵する
第3回:2D展開できない立体造形物の作り方 ー 編み物を例として
第4回:Dynamic representation of the design
第5回:デジタルツールと伝統技術の融合 -Voronoi Tatami TESSEを例として-


noiz
2007年設立。現在豊田啓介、蔡佳萱、酒井康介の3名のパートナーを中心としてコンピュ
ーテーショナルな手法を駆使し、建築を主軸にインテリア、インスタレーションから都市
開発まで幅広いジャンルで東京、台北の二拠点から国際的に活動する建築デザイン集団。

『Kviz』は 株式会社Too が運営する建築業界向けのビジュアライゼーション情報サイトです。

テーマは「ビジュアライゼーションで建築に感動と驚きを」。

技術の進歩が著しいCGやVRなどをはじめとしたテクノロジーを使って、より建築・設計が驚きや喜びに満ちたものになるように、業界の動向や最新情報をお届けしていきます。

2018年2月に開催した「建築ビジュアライゼーションMeetUp Vol.1」では、たくさんの方にご参加いただき、建築・設計業界の皆様のビジュアライゼーションに向けられた期待や熱気を感じることができました。
今後もイベントを開催しながら、業界が盛り上がるようにKvizも運営をしていきたいと思います。

イベントのレポートはこちらからご覧いただけます。
建築ビジュアライゼーションMeetUp Vol.1 イベントレポート